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霊媒師募集  作者: たまこ
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第二十八章 霊媒師 三年後ー1


広いリビング、……家具の類は一切ない。

床や窓には埃が積もり、古いインクが乾いたような……なんとも言えない臭いがする。

依頼者は、


____簡単に掃除はしたけど、

____お気になさらず土足で中にお入りください、


そう言っていた。

でも、僕はなんだか悪い気がして、……結局、靴を脱いでおじゃましたんだ。

足の裏がジャリジャリいってる。

靴下越しでも、その感触ははっきりと伝わってくる。


そのリビングの真ん中で、僕は、命を持たない1人の女性と向き合っていた。


「ずっと……ずっと辛かったですよね、淋しかったですよね。ずっと此処に縛られて、家族もみんな亡くなって、あなたの為に手を合わせてくれる人もいなかった。……あなたは、ただ気づいてほしかっただけだ。誰かを傷つけようなんて思っていなかったんです、」


僕が言うと、彼女は涙で頬を濡らして何度も何度も頷いた。


『傷つけるなんて……そんな事は思ってない……ただ……さみしかった、……独りで死んで、誰も見つけてくれなくて……自分の身体が腐っていくのを見てる事しか出来なくて……それが辛くて悲しくて……私……私……!』


痩せた霊体からだ、艶のない髪と肌、唇は皮が剥けてささくれ立ってる。

全体的に疲れた様子は、生前の苦労の跡が視て取れた。

切ないな……彼女は享年34才、今の僕と同い年だ。

うんと若い訳じゃないけど、それにしたって……この老け込み方は心が痛むよ。

生きていた頃、病気の家族を支える為にすべてを捧げて頑張った。

好きだった仕事も、将来を誓った恋人も、その両方を諦めて、身を粉にして尽くして尽くして、……その事自体は後悔はしていないと言っていたけど、家族を看取って、これからは自分の為に生きようとした矢先、突然の心臓発作で亡くなった。

一軒家の一人暮らし、彼女の死に気づく者はいない。

誰にも看取られず、誰にも泣いてもらえず、彼女は孤独に亡くなったんだ。

静かな悲劇、発見までに時間がかかった原因は……色々だ。

いくつかの条件状況、これが悪いように重なった。


『たくさん迷惑かけちゃった、……親が死んで、兄弟姉妹もいないから……この家は遠い親戚が管理をしてくれる事になったの……親戚が……たまに掃除に来てくれた時、私……気づいてほしくて、叫んだり、窓ガラスを叩いてみたりしたんだけど……気づくどころか怖がらせただけ、…………岡村さん、私の代わりに謝っておいてくれませんか?』


彼女は真っ赤な目をしてそう言った。


「分かりました、お伝えします。あやまっていた事も、悪気なんてなかった事も、あなたが生前どれだけ頑張っていたかも……必ず僕が伝えます。だからもう、此処に縛られなくても良いんです。さぁ……逝きましょう、黄泉の国へ。此処よりもっと温かい場所に逝くんだ。大丈夫、僕があなたを送りだします」


縛られなくて良い。

今まで頑張ってきた分、これからは黄泉の国で自分の為に時間を使ったら良い。

心配はいりません。

黄泉は誰もが優しくて、誰もが幸せになれる国だもの。


「少しだけ下がっていてください。これから道を呼びますから。現世と黄泉を繋ぐ、光る道を」


彼女に向かってニッコリ笑い、僕は光る道を此処に呼ぶべく両手を天にあげたんだ。




任された現場を終えて、依頼者宅を後にした。

住宅街から駅まで続く一本道は、時間のせいかあんまり人が歩いてない。

時刻は14時、2月下旬の曇天のもと。

僕はまず、完了報告の為におくりび事務所に電話した。


プルル……ガチャ、


「あ、社長。おつかれさまです、岡村です。今さっきH市の現場が終わりました。あー、結局3日かかっちゃいましたねー。そうそう、予想通りあの家に縛られてたのは亡くなった娘さんでした。最初はぜんぜん話を聞いてくれなかったけど、……そうですそうです、途中からたくさん話を聞かせてもらって……うん、最終的には円満に成仏してくれました。……良かったよ。あのかた、最後は笑顔で手を振ってくれたんだ。生前は家族の為に頑張ったから、黄泉の国では思いっきり自分の時間を楽しんでほしいな、……あ、それでこの後なんだけど、ここから会社まで電車で1時間だし、戻った方g、」


あ…………ヤバ……まただ、……視界が回る、

回転性の眩暈というか、……目の前がホワイトアウトで白くなる、受話の向こうの社長の声が遠くなる…………、



耐えきれず、その場にしゃがみこんでしまった。

ここは道端。

でも人も車もほとんどいないし、一応めちゃくちゃ端に寄ってる。

ジャマにはならないはずなんだ。

だから少しだけ、……こうしてしゃがんで頭を下げたら徐々に良くなる、だからほんの少しだけ……


____エイミー! オイ、エイミー! どうした! 大丈夫か!?


……ほら、良くなってきた。

受話の向こう、社長の声が再び耳に届き出す。


『う、うなぁん!』


あ……ゴメン、お姫に心配かけちゃった。

大丈夫だよ、僕はぜんぜん元気だもの。


大福の可愛い頭をナデナデしつつ顔を上げると……よし、視界も戻ってきた。

ホワイトアウトの霧が晴れ、回転性の眩暈も止まった。


「社長、ごめん。大丈夫、心配しないで。この3日間、ロクに寝てなかったから、それで少しフラッとしただけ。寝れば治るよ」


努めて明るく言ってみた。

そうじゃないと、”今からソコまで迎えに行く!” とか言い出しちゃうもん。


____寝れば治るってよ……今は外で、すぐに寝れる訳じゃねぇだろが。いいや、そこで待ってろ。今からすぐに迎えに行くから!


アイター!

せっかく明るく言ったのに!

迎えに来る言い出しちゃった!


「だ、大丈夫ですって! 大福もいるし、本当にヤバくなったらタクシー捕まえて帰ります。あ、この場合、タクシー代は会社で出してもらえる感じ?」


____出す出す! そうだな、俺が今から迎えに行くよりタクシーで帰った方がはえぇし安全だ。エイミー、今日はこのままタクシーで直帰しろ。間違っても会社には来るなよ。帰ったらまず寝て、明日と明後日は代休だからゆっくり休め。報告書も出社した時作れば良いから! エイミー、おまえ大丈夫か? 最近、体調悪そうだよな、


アウチ……社長にまで心配かけちゃったよ。


「あはは、大袈裟だなぁ。大丈夫、寝不足でフラフラしただけだって言ったでしょう? 寝れば治りますって。じゃあ、お言葉に甘えまくって駅でタクシー捕まえて帰ります。明々後日には出社しますから」


____ああ、待ってる。それとよ、休みの間になにかあったらすぐに俺に電話しろ。電話がしんどかったら大福を俺の所に寄こせば良い。すぐに行ってやるから。つかよ、家に帰って食うモンとかあるのか? 今日持っていってやろうか?


「あははは、たまには体調不良も良いもんですねぇ。社長にチヤホヤしてもらえるもん。ありがとうございます。大丈夫、食べるものはいっぱいあるし、あと、本当にヤバくなったら夜中でも電話するんでヨロシクです」


____何時だって構わねぇよ。その時は遠慮しねぇで連絡してこい。分かったな、


……

…………


話を終えて、僕はスマホをポッケにしまった。

社長にああは言ったけど……まだ少しグラグラするよ。

本当に……最近どうしたんだろう?

去年の12月、誕生日になり34になってからというもの、ずっとこの調子なのだ。

症状は貧血によく似てる。

立ち眩みはもちろんだけど、眩暈に息切れ、急に視界がホワイトアウトもよく起こる。

ご飯はちゃんと食べてるつもり。

運動は特別なにかをしてる訳じゃないけれど、散歩が好きで、休みの日にはお姫と一緒に近所をたくさん歩いてる。

原因はなんだろうと、病院にも行ってみた……が、身体的にはすこぶる健康。

貧血の ”ひの字” もなかったくらい。

おかしいなぁ、なんでかなぁ、34でいい年だから? と思ったけど、途中で気がついたんだ。

僕がこうして体調不良を起こす時、決まって共通する事がある。

それは、…………霊力ちからを使ったその後に、必ずこうしてグラグラするんだ。

今までにこういう事はなかったのにな。

”質より量の霊媒師” なんて自分で言っちゃうくらいにさ、霊力ちからだけはたくさんあって、どんなにたくさん使っても、枯渇もなければ体調不良も起こさなかった。

それなのに……ああ、いいや。

今はさ、こんな事を考えたって仕方がない。

とにかく駅まで頑張って歩くんだ。

そしたらタクシー捕まえて、家の前まで送ってもらおう。


「大福、お待たせ。さぁ、一緒に帰ろう」


声をかければ ”うなぁん!”と返事。

僕はゆっくり歩き出す……が、数メートル歩いただけで、息が切れてフラッフラ。

またくもー、現場よりも大変だわ。







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