霊媒師おまけ……バッドアップル-10
休暇6日目。
朝起きて、空を泳ぐイルカをぼんやり眺めながらコーヒーを飲んでいた。
アタシの部屋には犬用ブラシ。
渡せないまま置きっぱなしになっている。
コーヒーを飲み干してから、芝生の上に寝転んだ。
空は高くて爽やかで、イルカのあとを今朝はシャチまで泳いでる。
あー、平和だー。
ココ半年は現場も出ずに謝罪行脚で忙しかった。
休みが終われば訓練と、それから現場も待っている。
また忙しくなるな。
こうしてボンヤリできるのも、今日を含めてあと2日だ。
休みって早いなー。
この調子だと、あっという間に終わるんだろな。
『ボス、おはようございます』
声がして霊体を起こして振り返ると、そこにはセンタソーがいた。
シャツにパンツとラフな格好、……自主トレに来た感じではなさそうだ。
『んー、おはよ。なんだよ、早ぇな』
指を鳴らしてコーヒーおかわり。
アタシの分と、それから、センタソーの分も構築した。
『ありがとうございます。……ああ、いい香りだ。生きていた頃、私も朝は決まってコーヒーだった』
お、なんか、言葉遣い変わったか?
チョットだけフランクだ、ガチガチの敬語じゃねぇ。
それを言えばセンタソーの性格上、すぐに敬語に戻っちまうかもしれなくて、だからアタシは心ん中でウキウキしながらスルーしたんだ。
『へぇ、センタソーはコーヒー派か。霊それぞれだな。ウッディはほうじ茶、JINは白湯、イーグルは砂糖たっぷりカフェオレで、ランナーは梅昆布茶だ。ミャビは紅茶のレモン入り、ポイズンは炭酸飲料……ははっ! ホントにみんな好みが違う』
『…………すごいな。ボスは我々の好きな物を知っているのか。長なんて名前すら憶えてなかったのに』
センタソーは驚きを隠せない……そんな顔してため息をついた。
『あぁ、前の上司はマジでブラックだったよな。つか名前すら憶えてねぇってスッゲェな。呼ぶ時はどうしてたんだ?』
『”オイ” とか ”おまえ” とか、それだけですよ。我々はただの駒にすぎなかったから』
困ったように眉毛を下げて、自虐的に ”ははは” と笑うセンタソー。
でも、すぐに顔を引き締めて、アタシに向かって言ったんだ。
『ボス、何度も何度もしつこいと思うだろうけど、我々はあなたに深く感謝している。本来なら、あの山で終わるはずの魂だった。岡村達に救ってもらい、最後に人として扱って貰えた。嬉しかった……気持ちは十分満たされて、思い残す事は何もない、潔く消えようと思っていたのをボスに救われた、拾ってもらったんだ』
『救ったなんて、そんな大層なモンじゃねぇよ。アタシは飛び切り優秀な部下がほしかった。そこにモッチーとジョージからおまえらのコトを聞いてよ、絶対連れて帰るんだって思っただけさ』
『部下がほしかった、か。でもその部下達は元悪霊で、現場どころか謝罪行脚で半年間も潰れてしまった』
『なに言ってんだ。あの人数を半年で回ったなんてスゲェ事だよ』
早くても1年はかかるだろうと踏んでいた。
それが予想の半分で、それだけ必死に頑張ったんだ。
アタシはそれを知っている。
『……ボスはすべて同行してくれた。下げなくていい頭を下げてくれた』
『だからさー、そんなのは当たり前だっつの』
『…………当たり前じゃない、』
『いやいや、子供の不始末は親の不始末って言うだろが』
『…………ははは、本当にあなたって霊は……バラカスの言った通りだ。実は昨日、彼に言われたんだ』
____おまえらの事情は知ってるよ、
____朋美に感謝してるなら行動で示せ、
____アイツは単純だからよ、その方が良く伝わる、
____行動っつーのはよ、
____特殊部隊の仕事を頑張る……まぁコレは当たり前だ、
____そうじゃなくて、
____朋美は何度も言ってんだろ?
____禊は終わった、もう自分を責めるな、
____もう仲間だから腹を割って話してぇ、
____なんでも気軽に言いたい事が誰でも言える、
____そんな隊にしてぇんだ、……って、
____中村よ、おまえは良かれと思ってよ、
____上下関係を徹底してるよな、
____でも、朋美の望みはそうじゃねぇ、
____そこんトコ、よく考えてみ?
…………マジか。
バラカスのヤロー、いつの間にそんな話をしたんだよ。
でもそうか、なるほどね。
センタソーが敬語をやめたその訳は、裏でパンダが絡んでたのか。
センタソーは目を伏せて少し黙った。
俯き気味で表情は分かりにくいが、口元はかすかに上を向いている。
『ボスへの感謝を示したくって、良い部下になろうと必死だった。……いや、今でもそれに変わりはないが、私は少々空回りをしていたのかもしれない。バラカスと話した事でそれに気づけたんだ』
なんだよなんだよ、毒舌パンダスゲェじゃねぇか。
アタシがさ、あれほど言ってもダメだったのにバラカスなら一発か!
ま、いいさ、なんとなくだが理由は分かる。
野郎共は元悪霊で、それを負い目に感じてて、謝罪行脚も終わったばかりで、被害者達と交わした言葉もまだまだ記憶に新しい。
そんな中、自分達と立場が同じパンダの言葉は何よりも深かったんだろう。
同じ道を通ったバラカス。
方法は違うけど、パンダも禊を済ませてさ、今は立派にやっている。
そんなパンダの言葉はきっと、説得力が違うよな。
『……とにかく、”もっとフランクに話そう”、まずはこれを実践したい。休みが終われば訓練も始まるし、いつ現場に出てもおかしくないんだ。腹を割ってなんでも話せば仕事だってやりやすくなる。素直に気持ちを表に出すのは簡単そうで難しいけど、虹の国の動物達を視習おうと思う』
あ……、バラカスだけじゃなかった。
素直で可愛いケモノ達、あの純粋さにノックウアウトを喰らっちまってる。
ははっ! ”視習う” だってよ。
今のセンタソー、肩の力も抜けてるし、なにより表情が柔らけぇ。
もう大丈夫だ、これから心配いらねぇな。
しかしなぁ、エイミーの言った通りだ。
____モフモフは世界を救う!
なんて、真面目な顔で力説するけど。
アタシは半分冗談だと思ってた。
エイミーは猫好きで、……いや、好きなんてレベルじゃねぇが、だからそんなコトを言うんだと、大袈裟だって思ってた。
けどよ、よく考えてみろ。
バラカスだっておなじじゃねぇか。
巨大なパンダは、視 た 目 だ け は キュートなモフモフ。
世界よりはスケールダウンするけどよ、結果ヤツらを救っちまった。
ちょ……スゲェなモフモフ(や、ヘビやカメのひんやり感もスゲェと思うが)。
つーかよ、こういう効果にもっと注目すべきじゃないか?
スキルの高ぇモフモフを、各組織は積極採用すべきだろう。
積極採用とは。
積極的にアプローチして、積極的にかっさらうコト……だよな?(野郎共の時みてぇに)
犬、…………かっさらうか。




