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霊媒師募集  作者: たまこ
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二十六章 霊媒師 誠と真-28

『助けてくれえええぇぇぇぇぇ!!』


これが____


俺達が聞いた、最後の田所の声だった。


悪しきものを捕らえた道は、地上を離れて高い空へと昇ってく。

顔を上げ、しばしそれを眺めていたが【闇の道】が完全に視えなくなるまで、そう時間はかからなかった。


道が視界から消えた後も、真さんは顔を上げたままだった。

なにも言わず動きもせずに、ただ立って、月も星も出ていねぇ、暗い夜空を眺め続けていた。

その横顔はなんとも言えねぇ表情で、怒りや悲しみじゃあねぇ、……かと言って晴々とも違う。

じゃあなんだと言われても、うまい答えは見つからなかった。


色々……思う事があるんだろう。

大事な娘を殺された父親、娘を殺した元夫……被害者と加害者が顔を合わせたんだんだからよ。

長年の恨み辛みを死ぬまで抱え、死して尚、仇を討つべく、大事な孫を守るべく、黄泉の国でハードな修行を積んできたんだ。

そりゃあよ、悲願を叶えた今夜はよ、色々……そう、色々思って当然だ。


……

…………


それから少しして、目線を空から地上に戻した真さんが言ったんだ。


『…………やっと終わった、』


”はぁ”、とついたため息に重さはなく、心なしか肩の力が抜けている。

今はもう、グルリと囲うマグマの熱は粗方下がり、赤い光が所々点在するだけ、…………そうだな、終わったんだ。


真さんは消えかけたマグマの上をヒョイと跨いで俺の傍までやって来た。

そして眉をハの字にさせると、


『…………誠、悪かったな。俺に付き合わせちまってよ』


頭を掻いてそう言った。

俺は大きく首を振る。


「いいさ。これで良かったんだ。ヤツを地獄に送るのは、真さんであるべきだからな」


『長かった……貴子が殺されて11年と約半年。俺はずっと今日と言う日を待っていた。……この手でヤツを地獄に送る、それだけを心の支えに厳しい修行に耐えてきたんだ。貴子の仇をとり、ユリを守る事も出来た。やっとだ……やっと終わった……これでようやく前に進む事が出来る、』


「ああ、…………そうだな」


本当は、かけたい言葉がたくさんあった。

耐えてきた11年の事も、ユリを大事に育ててくれた事も、修行の事も、これからの事もだ。

だが、それを我慢した。

言葉を飲み込み後ろを向いて、疲れた振りして伸びをした。

だってよ……きっと、視られたくねぇんじゃないかと思ったんだ。

俺によ、義理の孫によ、泣いてるトコなんかよ。

真さんは意外とカッコつけだからな。

安心しろ、しばらく空でも眺めているから。

今のうちに泣いておけ。




それから……少しばかしの時間が経った。

俺はよ、灰色の薄い雲が延々広がる、面白くもなんともねぇ空を視てたんだ。

ユリはまだ起きてるかなとか、それとも寝落ちしちまったかなとか、そういうのを考えながら、…………って、考えてたのはそれだけじゃねぇけどよ。

俺は、真さんの事も考えていた。


今、どういう気持ちなんだろな。

抱え続けた娘の仇を討ち終えて。

単純に考えるんなら……もっとよ、晴々したって良いんじゃねぇかと思うんだ。

でもしてねぇ。

さっき視た横顔は、なんとも言えねぇ表情だった。

怒りでも悲しみでもなく、晴々とも違ってよ。

あの顔は、どういう気持ちが染み出てるんだろな。


これは……想像でしかねぇけどよ。

真さんにコレを言ったら ”ぜんぜんちげえ!” ってキレられそうだが……でもよ、あの顔はおそらく、いてえんだろな。


いてえと言っても霊体からだじゃねぇ、いてえのは心だ。

真さんは待ってたんじゃねぇのかな、……田所があやまるのをよ。

たったの一言で良い。

”ついで感” で出た言葉じゃなく、心からの言葉がほしかったんだ。

俺でさえそれを願った、父親なら尚更じゃねぇか?


田所の身勝手さが娘を殺した。

怒りにまかせて衝動的に、大した理由もなくだ。

大事な大事な娘がよ、勢いで命を奪われ未来も潰され、……そんなのよ、納得なんか出来ねぇよ。

田所にとって、貴子さんの命は軽かったのかもしれねぇ。

でもよ、家族からしたら、父親からしたら、娘の命はなによりも重てぇんだ。

なのに……最後の最後まで、ヤツは自分の事で頭がいっぱいだった。

娘を、孫を軽んじたまま、逝ってしまった。

それがいてえんじゃねぇのかな。

本当のところは分からねぇけどよ。


……

…………

………………


『あーあ、なんか疲れちまったな。それによ、動いたら腹も減った。オイ誠、なんかウマイモン食わせてくれ。あとよ、ユリに会わせろ!』


それは突然だった。

十中八九、泣いてたであろう真さんはクルッと振り向きニカッと笑った。

こんな深夜にワガママ言って大騒ぎでよ、ウルセェったらありゃしねぇ。


「ハイハイハイ! 分かったよ、分かったから静かにしろ、なっ! なんだっけ? 腹が減ったんだっけ? 今から作るのメンドクセェから残り物でいいよな? 大丈夫、真さんにとっては御馳走だ。なんてったってユリが作ったメシだからよ」


イヤと言うハズねぇのを知ってて勿体ぶってそう言えば、真さんはこれでもかと顔を緩めて小躍りだ。


ははっ!

なんだそりゃ、まったくもって孫命だな。

孫だけじゃねぇか、娘も命、妻は溺愛。

んでよ、多分だけど義理の孫も命だろ(俺のコト霊体からだ張って助けに来たしな)。


顔、……さっきより随分マシだ。

いてえはずなのに、色々思うはずなのに、今すぐ消化は出来ねぇだろうに。

その荷物、一人で抱えて持ってくつもりか?

半分寄越せ。

俺はアンタの孫だから、そのくれぇ持ってやる。

そう言葉にすれば、”ナマイキ言うな” とそっぽを向いた。

そして、


『はよ食わせろ、ユリに会わせろ』

そう言ってガハハと笑う真さんは、顔を上げて胸を張る。


長年の恨み辛みに今夜ようやくケリをつけ、

心の痛みも踏み台にして____



____今、前を向いたんだ。




第二十六章 霊媒師 誠と真____了








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