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霊媒師募集  作者: たまこ
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二十六章 霊媒師 誠と真-27

これが……ユリの傷、ユリが俺に隠しておきたかった事だったのか。

ごめんな、ユリ。

勝手に聞いちまって悪かったな。

でもよ、やっぱりユリはなにも悪くねぇよ。

聞いたからって、ユリに対する気持ちはまったく変わらねぇ。

俺も真さんとおんなじだ。

今よりもっとユリを大事にする、これからも全力で守っていく。

生きてる間も、その後もだ。 



さっきまで嬉々としていた田所は、打って変わって不満げだった。

目は濁り、上がっていた口角は下にさがり、顎にはシワが寄っている。

俺はその顔から目が離せないでいた。

似てねぇと思ってた、……顔は、貴子さんにそっくりだと思っていた……が、ムカつくがヤツが言った通りだ。

口元だけは田所によく似てる。

ユリはむくれると、決まって口をへの字にしてよ、顎にウメボシを作るんだ。

血の繋がりを感じざるを得ねぇ。

この繋がりにユリは苦しめられてきた。

いい加減、解放してやらねぇとな。



真さんは立ち上がると、地面に転がる田所を視た。

そして静かに言ったんだ。


『田所よ、おまえは間違ってる。さっき ”人殺しの娘は人殺しになる” と言ったな、ならねぇよ。おまえとユリは血が繋がってても、まったく別の人間だ。性格も考え方も何もかもが違う。ユリは優しい子だ。誰かを傷つけるくれぇなら、迷わず自分を傷つける』


それを聞いた田所は、負傷の霊体からだを無理やり起こすと、切れ切れの声を張った。


『……アンタこそ……寝ぼけてるんじゃねぇの? さっき……言ってただろ、ユリに……切りつけられたってよ……貴子にもそうだった……結局ユリはそういうヤツなんだ、なんてったって……俺の娘だからなぁ……!』


なにがそんなに嬉しいのか、再び口角を上げる田所。

対し真さんは淡々と答える。


『テメェの娘じゃねぇ、俺の孫だ』


『ハッ! だから? アンタの孫はそのうち人を殺すんだ! 俺みたいにな!』


『殺さねぇよ。殺さねぇし誰の事も傷つけねぇ』


途端、田所は鬼の首を取ったみてぇに得意になった。


『よく言う、自分で矛盾してると思わないのか? さっきアンタが言ったんだろう! ユリに腕を切られたって!』


『ああ、言った。切られた。つったって大した傷じゃなかったけどよ』


真さんは挑発に乗る事もなく淡々としたままだ。

それとは逆に田所はヒートアップを加速する。


『強がりか? 負け惜しみか? 傷の大小じゃねぇだろ。夢遊病だかなんだか知らねぇが、そういうのはエスカレートしていくもんだ。時間の問題だよ、ふひひひ……! 最初に殺されるのは旦那かもな。配偶者をるんだよ、俺と一緒だ!』


『誠を? バカ言ってんじゃねぇよ。するかそんな事。そもそもアイツのガタイを視てみろ。男10人がかりでもれねぇよ。……つーかよ、テメェはホントになんにも分かっちゃいねぇ。それでよくユリの父親なんて言えたな。はぁぁぁ……情けねぇ』


重くてなげぇ、真さんは大袈裟な程のため息をついた。

田所は眉根を寄せてムッとする。


『…………あ? なんだよ、なにが言いたい』


真さんは口調こそは単調だが、ギロリと目線を前に投げる。


『貴子から聞いた。テメェはよ、ユリが生まれた頃から1度だって面倒を見た事がかなったんだってな。まったもくってクソ野郎だ。そんなんだから分からねぇんだ。9年もユリと一緒に暮らしたクセによ』


『ガキの面倒見るのは母親の仕事だろ、』


『あぁ? 子供の面倒は父親と母親で見るもんだ。そんな事も知らねぇのか? 大体よ、100歩譲って母親の仕事としても、じゃあテメェはなにをしてたんだ? 子供の面倒は見ねぇ、仕事もしねぇ、金も稼がず貴子に寄生だ。酒飲んで暴れて怒鳴って暴力振るって、9年間それしかしてねぇ』


『……………………』


『田所よ……まさか自分はユリに好かれてるなんて思ってねぇよな? ユリはおまえが大嫌いだ。父親なんて思っちゃいねぇ。分かってねぇようだから教えてやるよ。昔、ユリは確かに俺を切りつけた。貴子にもハサミを向けた。だがよ、ありゃあ俺や貴子を傷つけようとしたんじゃねぇ。ユリが敵意を持った相手。それは田所、テメェだよ』


『………………俺?』


『そう、田所(しゅう)だ。これがユリの持つ ”深い傷” なんだよ。……これもぜんぶテメェのせいだ。かわいそうによ……幼い頃から暴力が身近だった。目の前で母親が殴られ自分も殴られる。挙句の果てには大好きな母親を奪われちまった。なぁ、想像出来るか? ユリがどんなに傷ついたか、どんなに怖い思いをしたか。あんな思いをさせられたらよ、おかしくなっても不思議じゃねぇや。 ひねくれたって然り、テメェが言うように、自分がされたんだから他の誰かを傷つけてやれと思っても責められねぇ。だがそうはならなかった。昔も今も、ユリは優しいままだ』


『……………………』


『ユリの傷はいまだ治っちゃいねぇ。昔よりだいぶマシにはなったが、傷ついたままなんだ。お医者の言う通り、大きくなるにつれ夢遊病は出なくはなった。だがよ、暗い場所を異様に怖がる。部屋が暗いと眠れねぇ。大汗掻いてガタガタ震える。寝つきも悪くてやっとの事で眠っても、一晩中歯を食い縛ってる。ユリの歯ぎしりがひでぇのはそのせいだ』


ユリの歯ぎしり……ああ、そういう事だったのか。

毎晩毎晩、ユリは歯を食い縛ってる。

あれはいまだに治ってねぇ、深い傷のせいだったんだ。


田所はなにかを言いたそうに、口を開けたり閉じたりしてた。

真さんはまたもや大きなため息をつき、チラリと目線を上にする。

その視線を追ってみれば、【闇の道】に行き着いた。

道は変わらずマグマがゴボゴボ煮立ってて、真さんが切った触手の根本がウゾウゾ蠢いている。

闇の触手に気を取られ、それをジッと視ていると……


『少し喋りすぎたな、』


首を左右にコキコキ鳴らす真さんがそう言った。

そして続けて、


『そろそろ終わりにしようや』


こうも言ったんだ。


その、直後だった。


真さんは黙ったままで淡々と、田所に一歩踏み込み襟首掴んで引っ張り上げた。

丸太の腕で娘の仇をブラブラ吊るし、至近距離で目を合わす。

田所は ”降ろせ” だの ”待ってくれ” だの震える声で何度も言うが、真さんは冷たい目をして無言の圧を放つだけ。

一切なにも答えなかった。


田所は怯えていた。

これから自分になにが起きるか。

おそらくそれは真さんのさっきの言葉、”終わりにしようや”、この一言で察したんだ。

お喋りタイムはとうに終わり、あとは地獄に流されるだけ……と。


『い、い、嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ……ま、待ってくれ、勘弁してくれ……頼む頼む頼む頼む頼むから、頼む頼む頼む……』


前歯がガチガチ鳴っている、恐怖で顔が歪んでる。

泣きながら媚びるみてぇな目をしてよ、みっともねぇ程助けを乞うてる。

いまだ謝罪の言葉はなくて、自分勝手極まりねぇ。


【闇の道】に目をやると、切られた触手は気持ちわりい程蠢いていた。

断面から小指くれぇの細い触手が無数に生えて、互いに互いを絡めてるんだ。

ああやって再生するんだな……瞬きするたび絡む速度がどんどん上がる。

元の長さに戻るまで、そう時間はかからなそうだ。



娘の仇を吊るし続ける真さんは、ここでようやく口を開いた。


『……田所、テメェは自分の事ばかりだな。貴子が今どうしてるとか、そういうのは気にならねぇのか?』


その質問に田所は、一瞬ポカンと口を開けマヌケな顔を披露した……が、さすがによ、自分の立場が分かってきたのか、取ってつけたようにこう言ったんだ。


『…………き、気にはしてた、……ほ、本当だ……貴子には悪い事をしたと思ってる……それで……今……貴子はどうしてるんだ?』


ウソくせぇ事この上ねぇな。

気にしてたなら、なぜもっと早くに聞かなかった。

どさくさ紛れに謝罪らしきも出たけどよ、”ついで感” がスゲェんだ。

テメェの魂握られてるから、真さんに媚びてるとしか思えねぇ。


真さんも、それは分かっているはずだ。

それでもワザワザ聞いた意味、……それは、田所を精神的に追い込む為だった。


『貴子は今、俺と婆さんと3人で黄泉の国で暮らしてる。原っぱの真ん中にデッケェ家を建てたんだ。俺は毎日修行に出かけ、婆さんと貴子は家の事をする。家の事っつったってよ、2人でやれば朝のうちに終わっちまう。その後は女2人で買い物行ったり、飯を食ったり映画を見たりと大忙しだ。自慢になるが貴子は近所で評判だ。美人で気立てが良いんだとよ。……貴子はな、毎日毎日幸せそうに笑ってるよ。いつか、あと80年くれぇのんびり待って、ユリと誠と大和が来るのを楽しみにしてるんだ。そしたらもっと賑やかになる。もっともっと幸せになる。100年……いや、1000年経ってもだ』


閻魔の顔から一転。

真さんは家族の話で笑顔になった。


田所は襟首掴まれ吊るされたまま、その笑顔を凝視する。

表情が硬い。

眉間のシワは深く刻まれ、口角は下を向き、顎はグチャグチャによれている。

今度はヤツが黙り込んだ。

しばしの沈黙……の後、濁った目から涙を落とし、かすれた声でこう言った。


『………………俺と……えらい違いだ、』


ボタボタボタボタ、……田所は目から涙を落としてた。

その顔はひどく惨めで弱々しくて、使い古しのボロ切れみてぇだ。


真さんはスッと笑顔を消し去ると、


『なんでテメェが泣く、』


短く一言こう聞いた。


『……………………』


田所は答えない、……いや、答えようとはしてるみてぇだ。

ただ、細かい嗚咽で声が中々出てこない。

代わり、真さんはヤツを真っすぐ目に捉え、読めない表情かおで言葉を発した。


『地獄に逝くのがこええのか?』


……コク、


田所はかすかに頷く。


『こんな事になって悔しいのか?』


……コク、


『貴子とユリは今幸せで、それに比べて絶望してるのか?』


…………コク……!


潰れた鼻、砕けた顎、これでもかと下がる口角。

低くて湿った呻きをあげて、田所は歯を食い縛って泣いていた。

縋るみてぇに、媚びるみてぇに、”助けてくれ” と、懇願の目を真さんに向けている。


…………が、田所が望む言葉は得られなかった。

真さんが言ったのは。


『テメェは今、”怖くて” ”悔しくて” ”絶望してる” って言ったよな。これで少しは俺らの気持ちが分かったか? おんなじだ。貴子がテメェに殺された時も、ユリがテメェに苦しめられた時も、大事な娘を殺された俺と婆さんも、テメェと同じように、いや、それ以上に ”怖くて” ”悔しくて” ”絶望した” 。身を裂かれるように辛かったんだ。……ここまで言っても、果たしてテメェがどれほど理解出来たか怪しいもんだがよ。…………もういいや。あとは地獄で考えろ、』


”考えろ”、発した言葉が合図のように。

闇の触手が唸りを上げて天まで伸びた。

再生は成功で、すっかりと元の姿に戻ってる。

それぞれが力強く身をしならせて、闇色にマグマの赤が映り込む。

触手は意思を持つかのように、空のうんと高い所で螺旋を描き、やがて、その先端はグルリと曲がって下を向いた。



真さんは、触手の動きを確認すると娘の仇を地面に投げた。

田所は転がりながらなにかを叫び、逃げようと試みるも、焦っているのか手足がもつれて無様に潰れた。

それでも、四つん這いでなんとか前に出ようとしたが、真さんのマグマの囲いに阻まれる。


『い、い、嫌だぁぁぁああああ……! 嫌だ嫌だ嫌だ助けて助けて助けて』


震える声で泣き叫ぶ。

田所は頭を抱え、だがすぐに上を視て、闇の触手に悲鳴を上げて怯えてる。

”来るな来るな” と呪文みてぇに呟いて、そうかと思うと真さんに ”悪かった、助けてくれ” と切願した。


闇の触手は宙で蠢き、悪しきものを捕らえるべく狙いを定め……たのだが。

チッ……やっぱりか……!

束になった先端は揃いも揃って俺に向いてる。

ロックオンされちまった。

それに気づいた田所は、


『…………あ……あ、あ、あぁぁっぁぁああああ!! も、も、もしかして……そ、そ、そうか……! 触手はアイツを俺だと思って………………それなら俺……たすかる……? いや……助かるぞ! ぎゃーははははははh!! そうか! そうかそうかそうか! ケッ! ザマアミロ! なにが ”理解出来たか?” だ! 偉そうにしやがって! 知らねぇよ! 残念だったな! 天は俺に味方したんだ! 今のうちに逃げてやる! 地獄になんか逝くもんか!』


なんだよ、随分と元気だな。

さっきまでガタガタ震えてたクセによ。

田所はガバッと立って逃げる気満々、……つーかよ、やっぱり全然分かってねぇや。

クズは最期までクズのままか、おまえこそ残念だよ。



とうとう、闇の触手が行動に出た。

蠢く身をしならせながら、勢いつけて俺に向かって飛んでくる。

田所はマグマの囲いを飛び越えようと右往左往。

真さんは腕を組んで静観中だ。


俺は斜めに上を向き、闇の触手の先端を視続けた。

そしてギリギリ、俺の身体を捕らえる寸前、


カイ、」


言霊唱えてソウルアーマーを解除した、直後。

触手の束は俺の身体をすり抜けて、急カーブで軌道を変えた。

そこから数秒もたたねぇうちに、田所が、この世の終わりのような悲鳴を上げた。


『……!! あぁぁぁッ!? なんで!? なんで!? やめろ!! 来るな!! 来るな!! 助けて!! 嫌だ嫌だ嫌だ……ユリ! 貴子! 助けてくr!! 地獄はいやだぁぁぁぁぁ!!!』


本来の捕獲対象。

闇の触手は田所をグルグル巻きに締め上げて、そのままゆっくり宙を逝く。

【闇の道】に乗せる為に、地獄へと誘う為に。








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