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霊媒師募集  作者: たまこ
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第四章 霊媒師OJT6

どうしたら解ってもらえるのだろう?

これじゃあ話を聞かせてもらう以前の問題だ……と頭を抱えていたその時、


『………、……ッ』


ノイズめいた何かが聞こえた。


『……タハ…………ノ』


ラジオのチューリングを合わせている最中のような、切れ切れに、所々人の声が混じり、


『アナた……ナニ……?』


「田所さん?!」


『ワタシ……ノ……ナニ……』


「なんですか?!」


カチリとチューリングが合った気がした。

そして次の瞬間。


ゴォッッ!


向かう熱風が吹いた。

肌が焼けるような痛みに固く目を閉じ両手で顔を庇う。

ほんの数瞬、視る事を放棄したその時、


ドンッッ!


身体に強い衝撃を受けた。

同時に強まる鉄の臭気。

不安、怒り、悲しみ、怨み、憤り、あらゆる負の感情が熱に溶かされた鉛となって重く僕の全身を潰していく。

汗が噴き出る。

喉に氷のような指が食い込んできた。

圧迫される苦しさに目が霞む。

氷の指をほどこうともがいても力で敵わない。

仰け反った僕の眼前には赤黒い肉塊が追ってくる。

蠢く肉塊の下半分が糸を引きながら大きく開いた。

顔を背けたくなるような腐敗臭。

そして怒声。


『私の全てが知りたい!?話したところでおまえに何が解る!?殴られた事も殺された事もないくせに!?命にかえても守りたいものもないくせに!?きれいな顔してるくせに!?何が解るの!?口だけなら何とでも言えるじゃないっ!!』


僕はかつてないほど身体を震わせていた。

怖い、

苦しい、

今すぐ逃げたい、

もういやだ、

やっぱり僕には霊媒師なんて無理だったんだ、

辞めよう、

社長には悪いけど辞表を出そう、

誰か助けて、

僕が思い上がってました、

離してください、

許してください、

許して、

離して、

苦しい、

息が、


死んじゃうよ___


生と死の狭間。

朦朧とする意識の中で一つだけ理解した事がある。

どんなに抵抗しても力で敵わない相手からの暴力。

それがこんなにも怖いものだって事だ。


11年前田所さんが味わった恐怖。

それでも娘さんの為に最後まで闘った勇敢さ。

僕にはない圧倒的な強さ。


僕には到底真似できない。


僕がもし生きて還れたら霊媒師を辞めて、もっと普通の仕事を探そうと思う。


僕がいなくなったって社長がいる、まだ会った事はないけど他にもっと優秀な霊媒師がいる。

きっと彼らが田所さんを祓うのだろう。


祓う?


そう、祓うんだ。

成仏じゃなくて祓う。

祓われた霊はどうなるんだろうな?

消えてなくなってしまうのかな?


命懸けで助けた娘さんが、祖父母に引き取られ無事に成長している事も知らないまま、滅されてしまうのか?


いいのか?


せめて娘さんが無事である事を、田所さんが守りきったって事を教えてあげるべきなんじゃないだろうか?


いや、何を言ってるんだ、今、僕はその田所さんに殺されかけているんだぞ?

そんな事教えてあげる余裕もないじゃないか。


……

………


混濁する意識の中、痛みや苦しみすらよくわからなくなっている。


霊媒師になって5日。

せっかく無職から脱却したというのに、短い職歴になっちゃうな。

ああ、でも。

まだ僕は現場にいる。

まだ僕は辞表を出していない。

まだ僕は、

今僕は、

霊媒師だ。


田所さんに“おまえは何もわかっちゃいない”と言われようとも、成仏させる方向で頑張るのが今の僕の役目なんじゃないだろうか。


自信はないけど辞表を出すまで、せめてそれまでは頑張るべきなんだ。


それにはまず田所さんに僕の殺害を中断してもらわなくちゃならない。


どうしたら……

ますます意識が途切れる中で僕がやっと考え出した方法。

相手を怯ませ動きを止めるにはこれしかないし、その効果は僕が一番よく知っている。


僕は渾身の力を込めてグイグイと身体を捩じり首に若干の隙間を作る。

これがワンチャンスだと声を絞り出した。



「な、なぁ、貴子。ぼ、僕に抱かれる気はあるか?」



言い終えて僕は一気に熱を帯び真っ赤になっていく。

田所さんに首を絞められているだけではない。

それは叫びだしどこかへ隠れたくなるような強烈な恥ずかしさからだった。

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