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事件は起こるべくして起こった

 西部州都ウェルストス。

 東部州都エストラとはおよそ70年ほどの発展の差があると言われているこの町は、家は木造、主なエネルギーは電力ではなく火力と、かなり昔の時代の様相を色濃く残している。

 州都に入る前の検問を行っているすきに二人の旅人と二人のみなしごは町に入ることが出来た。


「さてさて、これからどうする?」


 馬車に乗っている間にしっかりと休息を取ったセトは、かなり元気がある様子だ。


「オレにはお前ほどの元気はねぇな。今日は宿の確保だけして、明日から色々見て回ろうぜ。」


 セトとは対照的にティルトは疲労の蓄積が表情に現れていた。今にも倒れそうなのをかろうじて持ちこたえている、といったふうだ。


「なぁ、クルス。もしこの町に知り合いがいないんだったら、南大通りのサルマン職業斡旋しょくぎょうあっせん所に行ってみな。職業斡旋所だけあって、あそこの店主は方々に顔が利く。きっと欲しい情報を教えてくれるさ。」


「いろいろとありがとうございます。まずはそこに行ってみることにします。」


 クルスは二人の旅人と別れると、妹の手を引き、南大通りへ向かうことを決めた。


 南大通りは俗称を売り子通りと言われている。その理由はその地に店を構え、代々その店を継いでいくことを前提に建てられた大店おおだなが林立しているからである。売り子、呼子がそこかしこから往来を行く人々を呼び止め、非常に賑やかな通りになっている。

 ウェルストスの大通りは他に二本あり、東大通りと北大通りである。東大通りは旅人通りとも呼ばれ、東の端がすなわちこの町に入るための入口である。北大通りは役人通りと呼ばれ、この町の公共施設はほとんどここに集中している。町の中央が居住区になっており、宿もここで確保できる。


 サルマン職業斡旋所は南大通りに林立した多種多様な大店に人手を紹介してやるところである。この町で職を見つけるつもりであったクルスにはうってつけの場所であったが、


「え、ダメなんですか?」


「ああ。数か月前から身元の確認をさせてもらっていてね。身元の定かでない人間は何をしでかすかわからん、ということさ。」


 身元が定かでないことを理由に断られてしまっていた。


「前々から問題にはなっていたんだ。経歴詐称や出身地偽造は犯罪者がよく使う手でね。履歴書の導入がされて雇われる側に保証人が必要になってから、孤児や浮浪者が職を見つけることが難しくなっちまった。うちからお前さん方を推薦してやることはできなくなっちまったんだよな。」


「そうだったんですか……。お手数おかけしました。」


「すまないね。この金でうまいもん食って今日は帰んな。まだ若いんだ、時間はあるさ。」


「え、でもこのお金は、」


「いいんだ。俺の私的な金だから、持ってってくんな。」


「それじゃあ、ありがたく頂戴します。」


 店員の好意も受け取って、再び妹の手を引いて歩きだしたクルスの次なる計画は、とりあえず宿泊場所を決める、ということであった。その目的を達成するため、二人は町の中心部へと歩を進めた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「おーい、大丈夫かーい? 見えてるー?」


 ツンとする匂いと少年の声でクルスは目を覚ました。辺りを見回すと狭い路地に寝かされていたらしいことがわかる。

 目の前で手を振る少黒づくめの少年の手には酒瓶が握られている。どうやら自分への気付け薬として使ったようだ。


「こんなところで寝てちゃ、風邪ひくよー? 妹さんもいないし、どうしちゃったのさ?」


「……!?」


 慌てて再度あたりを見渡すも、確かにミティアの姿は見えなかった。

 同時に、何が起こったのか、状況を整理しようと頭が働き始める。

 職業斡旋所を出てしばらくしたところで、大通りでいざこざが起こっていてそれを避けようと迂回した。西へ向かう細い道を抜け、そこから町の中央部へ向かおうとしたのだが、


 背後から何者かに襲われて、昏倒してしまっていたのか……。


「くそっ……!」


 我に返って駆けだそうとするが、


「ちょっと待った。」


 セトに止められてしまった。


「お礼も言わずにどっか行く気かい?」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 クルスはセトに強引に宿まで連れ込まれていた。宿、と言っても宿屋として営業しているわけではなく、一階が酒場になっており、空いた二階を貸し出しているのだそうだ。少し下がうるさいが、その分宿賃は割安である。


「しばらくしたらティルトが帰って来るから、それまでお酒……は飲めないか。まぁ、水でも飲んで待っててよ。」


 クルスとしては、そんな気分ではない。一刻も早くミティアを見つけ出したいが、セトは自分を放す気はないようだった。


 クルスが一人悶々としていると、しばらくして見るからに重そうな荷物と共にティルトが帰ってきた。


「ただいま。ふぅっ、疲れたー。」


「買い出しごくろうさまー。お疲れのとこ悪いんだけどさ、クルスの話聞いてやってよ。ボクの予想だとキミが絶対飛びつく話だよ。」


 セトはティルトにそう促し、ティルトはクルスの前に腰を下ろした。


「なにがあった?」


 クルスは話すことをためらった。ティルトはこの話を聞いてどうするつもりだろうか、なぜセトは自分が話す事柄を知っているのだろうか、と。

 しかし、セトが話をしろ、としつこく催促するので、ついに話すことを決めた。


 町に入ってから今までに自分が何をしてきたか、どこで襲われたのか。

 

 話を聞き終わると、ティルトは目をつぶって上を向き、一つため息をはいた。そしてニヤリと笑って言った。


「サルマン親父もぼろい商売考えたなぁ。」と。

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