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ピュアヒューリーズ22

 四月上旬。都内は桜が咲き乱れ、春が訪れた。

 千鳥ヶ淵や上野公園ではすっかり桜は満開らしい。

 大学内では新入生をちらほら見かけるようになった。

 サークルの勧誘も盛大に行われている。

 愛衣は新入生歓迎会の実行委員として走り回っていた。

 司法試験があるのに、なぜそこまでやるのか理解出来ないけれど。

 僕は僕で『バービナ』の活動と勉強に追われていた。大学生の悲しいところだ。

 そんな慌ただしくも、穏やかな春の日の出来事。

 京極さんの古巣の残党。国内最高レベルのミュージシャンのなれの果て。

 彼らに会うことになった――。

 

「のんちゃんそんな緊張しなくてもいいよ? 3人ともいい人たちだから」

「はぁ……」

 そうは言うものの気が重かった。

 親と同年代の大先輩と対面するのは緊張する。

「ハハハ、大丈夫だって! 逢子さんたちとあんまり変わんないと思うよ? 特に健次さん気さくだからさ! ま、これも勉強だと思って」

 その日。僕たちは旧『アフロディーテ』のメンバーとのお茶会だった。

 飲み会ではない。あくまでお茶会。

「それにしてもなんでお茶会なんですか? 岸田さん飲んべえだって聞いてましたけど」

「だからよ。健次さん飲んべえどころか飲まれちゃうからね。充さんだってお酒入ると何言ってるか分かんなくなっちゃうから今回はソフトドリンクオンリーのお花見にしたんだ」

「ああ、それで……」

 旧『アフロディーテ』のメンバーはギターの岸田健次、ドラムの吉野充、そしてベースの佐藤亨一の3人だ。

 彼は『アフロディーテ』の解散後、おのおのフリーのミュージシャンとして活動しているらしい。

「なんかね。3人とも解散後はまったく会ってないらしいんだよ。ま、お互い気まずいのかもしんないけどさ……。でもみんな本当は仲いいからたまには集まって良いと思うんだよ。お節介だけど」

 京極さんの言い方には自身を責めているようなニュアンスが含まれていた。

 彼女自身、『アフロディーテ』がバラバラになったことに責任を感じているのだろう。

「今回はジュンと七星も呼んでるから先に場所取りだけしとこうと思ってね。のんちゃんに付き合わせて悪いんだけど」

「いえいえ、構いませんよ。幸いレポートも終わってますし、問題ないです」

 僕たちは江戸川の河川敷にレジャーシートを敷くとそこに腰掛けた。

 京極さんはその場で寝転がる。最高にお行儀が悪い。

「はぁ……。桜っていいよね。私の実家の庭にもあるから好きなんだよね」

「この季節っていいですよね。僕も桜は好きですよ。インドアですが春はいつも上野公園に桜を見に行きます」

 河川敷の桜も満開だった。

 風が吹くと花びらが舞い上がり、レジャーシートに降り注ぐ。

「へー……。あ! 愛衣ちゃんとか! あの子も桜好きだって言ってたよ」

 そんな話までしているのか……。と思った。

 どうやら愛衣と京極さんは僕が思っている以上に仲が良いらしい。

「そうですね。あいちゃんはアウトドアなのでいつも連れ出されてます。……。そのお陰で多少は外の空気吸えるからいいんですけどね」

「そーだよー。愛衣ちゃんに感謝しなね? あの子いつものんちゃんのこと心配してるんだからさ! いつも『のんちゃんのことよろしくお願いします』って言われるんだよ。あの子良いお嫁さんになるわ」

「そうかも……。しれませんね。あいちゃんはきっと良いお嫁さんになるでしょう……」

 僕がそう言うと京極さんは大笑いした。

「ハハハハ! なーに他人事みたいに言ってんだよ? どう考えたってのんちゃんのお嫁さんになるんじゃんよ。つーか2人ってプラトニックなの?」

 プラトニックと聞かれて僕は盛大に吹き出した。

「な! ないですよ! 僕とあいちゃんは幼なじみってだけです! あの子の裸だって小さい頃から見てないんですから!」

「ハハハ! ごめんごめん。下世話だったね。でもさ、愛衣ちゃんはのんちゃんと結婚したいと思ってんじゃないの? あの子はいいよー。頭良いし、料理できるし、健康的だし、可愛いし……。最高すぎるんじゃね?」

 正直に言おう。

 僕は久しぶりに京極さんに本気で腹が立った。

 愛衣のことをそんな風に言われるのはあまりにも……。と思ったところで自分の気持ちに気づいた。

 なぜ僕はこんなにざわついているのだろう?

「あいちゃんのことはいいです……。将来どうなるかなんて分からないし、あいちゃんだって検察になったら僕なんかより法律家と結婚した方が幸せだと思います」

「あーあ、のんちゃん拗ねちゃったね。ま、お姉さんからアドバイスあるとすれば素直になった方がいいかな? 素直になんないと取り返すがつかなくなるからね」

 レジャーシートの上で僕と京極さんはそれ以上会話しなかった。

 僕が大人げないのだ。京極さんは戯れているだけ。ただそれだけ。

 しばらくすると、旧『アフロディーテ』のメンバーの1人がやってきた。

 舞洲ヒロの最愛の人だ――。

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