ピュアヒューリーズ20
もうすぐ僕が『バービナ』に入って1年になる。
季節は巡り、新緑の季節に差し掛かろうとしていた。
京極さんは相変わらず元気で、僕や七星くんを引き釣り回していた。
彼女は現在22歳で、大学生ならそろそろ就職の時期だっただろう。
僕も気が付けば大学3年生になっていた。
幸い、単位を落としてはいない。
親からは「そろそろ将来を考えなさい」と言われたけれど、まだまだ決められそうにはなかった。
仮に就職しても『バービナ』から離れる必要はないだろう……。
妥協点としては『ニンヒア』に就職するのが一番妥当な気がする。
一応はいっぱしの大企業ではあるし、大きなコネクションもある。
だだ……。大叔母の性格を考えると僕を入れたがらないかもしれない。
大叔母はそういう人だ。実際、薄情だし責任負う作業は敬遠する。
愛衣は司法試験の勉強に追われている。
検察庁の職員になるのだからかなりの努力が必要なのだろう。
僕の周りの人たちは皆、先に進んでいるような気がした。
京極さんも愛衣も七星くんも。
そう考えると僕はいったい何をしているのだろうか?
人生最後のモラトリアム期間もあと2年程度だというのにまだ先が見えない。
いったい僕はどこへ向かうのだろう? 哲学的難題……。かもしれない。
ふと、舞洲さんのことが思い浮かんだ。
彼女はいったいどこへ向かっているのだろうか?
もしかしたら舞洲さんは何かを待っているのかもしれない。
佐藤さんが王子様のように白馬で迎えに来るのを待っているのかも。
当然。彼女自身、来ないことは百も承知だろう。
それでも待たずにはいられない。それが彼女の存在理由なのだから。
彼女の愛情は酷く歪んでいるように見えた。
水平を保てず、いつもフラフラしているヤジロベエのように見えた。
いや……。違う。僕自身もそうなのだ。
だから彼女がそんな風に見える……。
酷い話だと思う。まるで浮浪者のようだ。
目的地なく彷徨う浮浪者――。
『ヒロさんとドライブ行ったんだって?』
電話口で京極さんにそう聞かれた。
「はい。一緒に湘南まで行ってハンバーガーご馳走になりました」
『ふーん。良かったね。ヒロさん業界でも変わり者なんだよ! アウトロー気質であんまり人と仲良くしない人なんだ。逢子さんがあれだけ社交的なのにね』
三坂さんが社交的。たしかにそうだ。
三坂逢子は『レイズ』のフロントに立つ人間だ。
よく知らない人間から見たら『レイズ』=三坂逢子なのだろう。
「でも舞洲さん面白い人でしたよ? 多趣味だし、話は面白かったです」
『へー。なんか意外だなー。私自身、ヒロさんの声さえほとんど聞いたことない気がするよ。ま、のんちゃんには合う性格なんだろうね……。あ、そうだ! ジャケ写の撮影の日取りなんだけどさ……』
京極さんは本当に生き生きしている。
きっと彼女は毎日が楽しくて仕方ないのだろう。
「……というわけで来週よろしくねー」
「はい! あの京極さん?」
「ん? なーに?」
僕はあの件を京極さんに相談してみることにした。
松田さんの件ではない。
舞洲ヒロと佐藤亨一の件だ――。




