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ピュアヒューリーズ12

「初めまして!」

 バーの個室に入ると『レイズ』のヴォーカルの三坂さんが挨拶してくれた。

 彼女の横には、額に皺のある男性と童顔でショートカットの女性が座っている。

 この2人は『レイズ』のギタリストとドラムだ。

 ギタリストの羽島繁樹、ドラムの舞洲ヒロ。

 ちなみに『レイズ』はヴォーカルがベースも兼任している。

「初めまして。今日はご招待頂きありがとうございます。『バービナ』の竹井です」

 自己紹介すると、僕は酷く場違いな場所に来てしまった気分になった。

 同じ音楽業界に居るにしても方向性がまるで違う。

「京極さんも今日はありがとうね。ウチら引きこもりだからすんごい助かる」

 三坂さんは関西特有のイントネーションで話す。

「いえいえ、こっちこそありがとうございます! 1回皆さんと一緒にご飯行きたかったので光栄です」

 レンタルキャット。

 京極さんは借りてきた猫の如く謙虚だった。

 それから僕たちはバーのコースメニューを肴に飲み始めた。

 鰹のたたきのサラダ、厚切りステーキ、香味野菜のチャーハン……。

 そんな店の雰囲気通りの無国籍な料理がテーブル一杯に広がる。

 今回の飲み会はかなり偏ったモノだと思う。

 三坂さんと京極さんばかり話して、ギターの羽島さん・ドラムのヒロさんはあまり会話に参加してはいなかった。

 まぁ、羽島さんに関してはお酒が入ってから饒舌になったのだけれど……。

「竹井くんはまだ若いよね? 10代?」

 三坂さんは頬を赤らめながら僕に聞いてきた。

「はい! あと数ヶ月で20歳ですがまだ10代ですね」

「若っ!! いーねー。10代は楽しいよ! ウチらも若い頃はそら楽しかった! 中学から高校卒業するまではとにかくバカばっかやってたね。シゲなんて何回補導されたか分かんないくらいやで」

 三坂さんは羽島さんの肩を掴むと「せやろ?」と突っかかった。

「ああ、せやな。あん頃はほんま無茶してたで……。おまわりに捕まるんなんか日常茶飯事やったな」

 羽島さんは感慨深そうに言うと、ケラケラ乾いた声で笑った。

 この2人の関係はまさに《相棒》といった感じだった。

 僕と愛衣の関係性に似ている。

「お、いーっすね! 私も中学ん時はそんなでしたよ! 男と原付にニケツして逃げ回ったり、タバコや酒で補導されたりしょっちゅうでした」

 京極さんもお酒が回っているらしく、いつにも増して饒舌だ。

「やっぱりなー。京極さんそないなタイプやと思ったで。あ、竹井くん引かんというてね。もう昔の話や。時効やで時効!」

 昔の話……。確かにそうかもしれない。

 まだ23歳の京極さんでさえ、かなり丸くなったのだろう。

 これは高木さんからの受け売りだけれど……。

 みんな酔っ払っている横で、僕とドラムの舞洲さんだけは完全に素面だった。

 ……というよりも舞洲さんはあまり会話に参加していない。

 たまに三坂さんに「なーヒロ?」と声を掛けられては「そうやね」と返すだけだ。

「あーもー。飲み過ぎたなぁ。めっちゃ気持ち悪いー」

「ああ、私も飲み過ぎたで……」

 今回の主役2人はすっかり顔を青くしていた。

「あーあ、もうしゃーないなお前ら! トイレ行ってこいほんまに!」

 羽島さんは三坂さんを立たせるとそのままトイレに連れて行く。

「京極さん……。大丈夫ですか?」

「んー? 大丈夫だよ! でも眠い……。のんちゃんも早く飲めるようになりゃいいのにぃぃ」

 完全に酔っ払いだ。

 京極さんはソファーに横になると大の字で眠り始めてしまった。

「あーあ、京極さん……。ちょっと」

「んあ、のんちゃん。少し寝させてー」

 やれやれだ。完全にダメらしい。

 部屋の中には僕と舞洲さん、あとはこの酔っ払いだけになってしまった。

「京極さんずいぶんと飲んどったもんね」

「ええ、普段はここまで飲まない人なんですが……」

「羽目外したかったんちゃう? その子めっちゃ頑張り屋さんみたいやし」

 舞洲さんはそう言うと、ウーロン茶を一口飲んだ。

 彼女の声は純水のように透き通っていた。

 声だけ聞くと、三坂さんや京極さんよりもずっと穏やかに聞こえる。

「舞洲さんはお酒飲まれないんですね」

「せやな。私は基本飲まんのよ。下戸っちゅうわけやないけど、逢子と羽島くんがあんなやから1人ぐらい素面やないとまずいやろ?」

 舞洲さんは淡々と語る。

 彼女の口調には感情が乗ってはいなかった。

 聞きようによっては冷たく感じるかもしれない。

「どうします? みんな飲み過ぎですし……」

「ここらで解散がええやろね」

 同意見だ。このまま飲んでいても埒が明かないだろう。

「そうですね……。じゃあ……」

「とりあえず、逢子と羽島くんをタクシーに詰め込むわ。京極さんはどないする?」

「ええと……。僕が送り届けます……。高田馬場までこの調子じゃ帰れなそうなので」

 さすがに京極さんを無理矢理電車に乗せるわけにもいかないだろう。

「したら……。私が送ったろか? あの2人は麻布住んどるからタクシーでもワンメータやし」

「え? いいんですか?」

「ええよ。どっちにしても私も帰りは渋谷方面やから」

 僕は舞洲さんの言葉に甘えることにした。

 京極さんは相変わらず眠りこけていた――。


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