ピュアヒューリーズ11
「ふーん……。それでこのメロンねー」
愛衣はメロンをハンドボールのように握りながらそう呟いた。
「ああ、2玉貰ったからあいちゃんにもお裾分けしようと思ってね」
「ま、ありがたく貰っとくよ! それで? 先輩バンドのお姉さんにはいつ会うの?」
「うーんとね。京極さんの話だと今週の金曜になると思う……。ってか明日だね」
明日は京極さん主催? の飲み会だ。
関西出身のロックバンド『レイズ』のメンバーとの親交会らしい。
「『レイズ』って有名なバンドだよね? たしか去年、ドーム公演したってニュースで見た気がするよ」
「そうだね。『レイズ』は人気あるバンドだからそれくらいはやるんじゃないかな? 彼らと比べた『バービナ』なんてひよっこみたいなもんだよ……。京極さんに言ったら怒られそうだけどさ」
事実、『レイズ』は国内最大級のバンドだと思う。
今の彼らはいつも1万人規模のライブを行っているモンスターバンドなのだ。
規模で言えば、旧『アフロディーテ』と同程度ではないだろうか?
「のんちゃん緊張しないの? 相手すごく大物なんでしょ?」
「ん……。あんまりピンと来ないかな……。僕あんまり彼らに詳しくないんだ。それに『ニンヒア』的には商売敵だからね……」
本当にピンとこない。
京極さんの誘いがなければ、相手は単なるメジャーバンドでしかないのだ。
もし僕が彼らのファンであるならともかく、そうでない以上あくまでお付き合い程度なのだ。
「なんか甲斐がないねー。『レイズ』さんたち人気者だからのんちゃんの言葉聞いたら怒り出すよ?」
「だろうね……」
皮肉な話だと思う。
死ぬ気でチケットの争奪戦をしている連中が居るというのに、全く興味の無い僕のような人間が彼らに会うのはどう考えてもおかしいと思う。
確かに京極さんの言うとおり、勉強という名目ではとても有意義だとは思うのだけれど。
「ま、いーや! 楽しんできたらいいよ! あ、お願いがあるんだけど!」
嫌な予感がした。
愛衣のお願いはだいたいの場合面倒ごとなのだ。
「何?」
「へへへ……。実はね」
そう言うと彼女はバッグから大量の色紙を取り出した……。
ああ、嫌になる。こう見えてこの子はかなりのミーハーなのだ――。
翌日。僕は京極さんに指定された六本木のバーを訪れた。
その店の雰囲気はとても奇妙で、和洋折衷のような外観をしている。
看板はディストピア的なネオンが、アナスイ色の紫に輝いていた。
「あーのんちゃん! お疲れ!」
「お疲れ様です!」
京極さんが店の前で僕を出迎えてくれた。
彼女はいつもと違い、パンクバンドのような派手な服装をしている。
「……。珍しいですね……。その服イベント用ですよね?」
「そだよー! せっかく『レイズ』さんに会えるんだから気合い入れなきゃだよね!」
この人もミーハーか。
ブルータス……。お前もか……。と思った。
店内に入るといよいよ頭がおかしかった。
無国籍にもほどがある。
仏像とキリストの貼り付けられた十字架が隣り合っているのは果たして問題ないのだろうか……。
などと考えていたけれど口にはしなかった。
京極裏月はいつもこうなのだ。どうしようもない。
「えーとね。奥の個室借りてるから! みんな先に来てるよー」
「あの京極さん? 七星くんと高木さんは……?」
「ああ、あいつら今日は休み! ジュンは仕事で、七星は帰省しちゃったからさ」
何ということだろう。
「てことは……。もしかして僕1人……?」
「そそ! 大丈夫だって! 『レイズ』さんたちみんないい人たちだからさ!」
やれやれだ。やれやれやれだ。
僕は彼女の言い分を聞くしか無さそうだ――。




