ピュアヒューリーズ10
京極さんは大量のパーツを買ってきた。
ピックアップやコントロールノブまで入っている。
「したら大修理大会始めるよ!」
彼女は腕まくりをすると肩を回した。
七星くんはすっかりウンザリしている。
「あのさー。その前にメロン食っちまわない? せっかく持ってきたんだからさ」
「あーね。じゃあ先に食おうか!」
内田さんはさっき切り分けておいたメロンを冷蔵庫から取り出すと皿に取り分けてくれた。
「すいません。ご馳走になっちゃって……」
「いいって! 私の地元腐るほどメロンあんだから!」
腐るほどメロンがある土地……。なんて甘美な場所だろう。
「だよねー。茉奈美んち、メロンだらけだもんね」
メロンだらけ……。やはり甘美な響きだ。
京極さんの話では彼女たちの地元は日本有数のメロンの産地らしい。
毎年、数え切れないほどのメロンを栽培し、東京や地方に出荷しているとか……。
「のんちゃんは知らないだろうけど、ウチらの地元じゃメロンなんてあんまりありがたいもんじゃないんだよ! てか鉾田市民はみんな食い飽きてると思う……。こういっちゃ悪いけど、私もあんまりメロン食いたいとは思わないんだよねー。ほら、小さい頃から食い過ぎててさ」
贅沢な悩み……。心からそう思った。
僕自身、メロンは大好物だった。
まだ小学生だったときに愛衣が作ってくれたメロンタルトを食べてからというものその味にすっかりハマっていたのだ。
「それじゃ……。いただきます」
一口頬張るとメロンの甘みが口いっぱいに広がった。
果肉も柔らかく完璧な味だと思う。
「にしてものんちゃん美味そうに食うよねー」
「はい! 僕メロン大好物なんで」
「へー……。そりゃ良かった」
僕はメロンを堪能した。
「内田さん! 本当にありがとうございました! すごく美味しかったです!」
「ハハハ、そんな喜んでくれるなんて嬉しいよ」
それから内田さんはもう2玉メロンを僕にくれた。
本当は京極さんへのお土産だったらしいけれど、彼女は要らないらしい。
「んじゃ! レスポール修理するかな」
京極さんは立ち上がるとギター修理を始めた――。
京極さんのギター修理の腕は確かだった。
とても手際が良く、ニッパーとドライバーを使ってギターをバラしていく。
「せっかくだからガリ音修理だけじゃなく、オーバーホールしちゃうよ」
オーバーホール……。完全なる分解修理。
京極さんはギターから電装部品を全て取り外すと丁寧にワックス掛けをした。
ワックスの掛け方にも彼女の几帳面な性格が窺える。
七星くんはその様子をマジマジと眺めていた。
最初こそ面倒くさそうにしていた彼だけれど、京極さんの手際の良さに引き込まれている。
ワックス掛けが終わると彼女は、電装部品を填め込んでいった。
さっきまで錆びだらけだったレスポールは、みるみるうちに輝きを取り戻していく。
「あとは……。ネジ留してチューニングすれば終わり……」
ものの1時間ぐらいでその作業は終わった。
驚異的な早さだと思う。(楽器屋だってこんなに手際が良くはないだろう)
「はい! 出来たよー! したら七星さー。あとでチューニングちゃんとしといてね!」
「うん。ありがとうウラちゃん! これからはちゃんとメンテするよ!」
やれやれだ。
どうやら無事、レスポールは復活したらしい。
気が付けば辺りはすっかり暗くなっていた。
カラスの鳴き声が聞こえ、傾いた陽がオレンジ色に染まっている。
「すっかりお邪魔しちゃったね……。そろそろお暇するよ」
「はい! お2人とも今日はありがとうございました」
僕は3人を玄関まで見送る。
「あ、そうだ! のんちゃんに会わせたい人がいるんだ!」
「会わせたい人?」
「そそ、のんちゃんも知ってる人だよ! 実は今度一緒にご飯の約束したんだ! 『レイズ』のヒロさんって知ってるでしょ?」
ヒロ……。確かメジャーバンドのドラマーだ。
「へ? なんで『レイズ』さん?」
「いやさー。のんちゃん普段あんまり他のドラマーと会わないじゃん? だからたまに勉強も兼ねて会って貰いたくてさ! あの人めっちゃ上手いから勉強になると思うよ!」
おそらく京極さんなりに僕のことを考えてくれたのだろう。
「そうですね……。せっかくなのでご一緒させて頂きます」
僕の返事を聞くと京極さんは嬉しそうに笑った――。
彼らが帰ってしまうと部屋は一気に静かになった。
もともとこんな感じなのだけれど妙に寂しい……。
僕は内田さんから貰ったメロンを手に取るとその香りを嗅いだ。
甘い香りが鼻腔を刺激した……。




