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ピュアヒューリーズ9

 予想通り七星くんは怒られていた。

「あーもー! なんであんたはこんなにいいギターこんなにしちゃうわけ!?」

「だって……。俺いつもテレキャスじゃんよ。何台もメンテナンスなんか出来ないよ」

 七星くんは言い返したが、これが良くなかった。

 京極さん自身、10本近いギターを毎日メンテナンスしている。

 彼女のどこにそんな時間があるのかは謎だけれど、その言葉で京極さんはさらにヒートアップしてしまったのだ。

「あんたさぁ! たった3本しかねぇギターもまともに扱えねーのかよ!?」

 お説教タイム続行だ。

 僕は黙ってそんな2人を眺めることしか出来なかった。

 京極さんの友人の女性は慣れているのか特に口出しもしない。

「あーあ……。竹井くん……? だよね? いつもウラがこんなだから大変でしょ?」

「ええ……。まぁ……。慣れましたけどね」

 慣れたという言葉がよほど面白かったのか彼女は吹き出して笑い始めた。

「ハハハハ! そうだよねー。慣れるよね! ま、ウラも悪い奴じゃないから仲良くしてやってよね」

 それから彼女は僕に自己紹介してくれた。

 彼女の名前は内田茉奈美。京極さんとは幼なじみらしい。

 内田さん曰く、京極さんとは腐れ縁だとか……。

「ウラー! メロン切っとく?」

「ああ、お願い! 私今からパーツ買ってくるよ! のんちゃんさぁ、この近くに楽器屋なかったっけ?」

 どうやら京極さんは今からギター修理をするらしい。

「近くにありますよ! ほらパルコの近くの……」

「ああ、分かった! んじゃ! 悪いけどのんちゃんちょっと出掛けてくるね!」

 そう言うと京極さんは七星くんを引きずって楽器屋に出掛けていった――。

 部屋には僕と内田さんの2人だけが取り残されてしまった。

 初対面の女性と2人きりにするあたり、やはり京極さんはどこかおかしい気がする。

「ほんとごめんねー。ウラも頭に血が上ると……。ねぇ……」

「いえ……。いつものことなので」

「だよねー。あーあ、まったくアイツは変わらないよほんと。大志さんとかジュンさんも苦労してたんだろうなー」

 どうやら彼女は松田さんと高木さんと面識があるらしい。

「あの……。内田さんは『バービナ』の他のメンバーとお知り合いなんですか?」

「ん? あー、そーね。知り合いってば知り合いかな? 特に大志さんとは何回かご飯行ったよ! あの人いい人だよね!」

「そーだったんですね……。あの高木さんとは?」

「ジュンさんは……。まぁ話したことがあるくらいかなー。ほら! あの人ってめっちゃモテるじゃん? だからなんか近寄りがたくってね。ウラも最初は苦手だったっぽいよ」

 とても意外だった。

 今の京極さんと高木さんからは想像出来ない。

「確かに高木さんカッコいいですもんね。でも……。意外です。京極さんと高木さんが昔あんまり仲良くなかったなんて」

「そーね……。でも私から見たら何となく分かるよ。ジュンさんってキザでツンケンしてるじゃん? ウラが嫌いそうなタイプだもん! だから私としては不思議なんだよねー。あの2人があんなに仲良くなるなんて思わなかったからさ」

 内田さんの話を聞くと、松田さんの依頼の意味が余計分からなくなった。

 おそらく、京極さんは松田さんのような包容力があってリードするような男性が好みのはずなのだ。

 高木さんのことを悪く言うつもりはないけれど、どう考えても彼はそういうタイプではない。

 高木さんはよく言えば一匹狼、悪く言えば冷淡な利己主義者なのだ。

 まぁ、高木さんは表面的には穏やかな人なのであまりそうは見られないのだろうけれど……。

「あーあ、ウラも早くいい人見つけて欲しいよねー」

 内田さんは大きくため息を吐いた。

「いい人……。そうですね」

「そうだよ! あいつって尻は軽いけど、実は純情だからさ! 恋愛の仕方が下手くそなんだよねー。竹井くんはウラとやったことある?」

 内田さんの言葉に思わず吹き出してしまった。

「な! ないですよ! 京極さんとはそんな関係じゃないです!」

「ふーん……。そっか。ウラが喰わなかった男がここにも居たか」

 彼女は何か意味深な言い方をした。

「どういう意味ですか?」

「あ、ごめんごめん! ウラってあの通りビッチじゃん? アイツと関わった男はだいたい喰われちゃうからさ。でも……。やっぱりバンドメンバーだけは大事なんだねー。私の知る限りアイツと長いこと付き合って肉体関係持たない男って3人しか居ないもん。あ、七星くんは従兄弟だから例外だけど……」

 酷いことを言う人だ……。と内心思った。

 でも彼女の言うことはおそらく真実だろう。

 いや、真実と言うより事実と言った方が正しいかもしれない。

「あの内田さん?」

「なーに?」

 僕は意を決して彼女に尋ねてみることにした。

「京極さんて松田さんのこと好きだったんですか?」

 僕の質問に内田さんは内田さんは多少顔をしかめる。

「どうだろうね……。あの一件依頼、ウラはあんまり大志さんの話しなくなったからね。仮に好きだったとしてもとてもじゃないけど本人には聞けないよね……」

 彼女は妙に含むような言い方をした。

「すいません。立ち入ったこと聞いてしまって……」

「いや……。良いんだけどさ。ウラ自身どうしていいのか分かんないんだと思うよ? アイツにとって大志さんは特別な存在だったのは事実だしそれは揺るがないと思う。でもね。それと同じくらいウラはあの一件を思い出したくはないんだと思う」

 思い出したくない……。確かにそうかもしれない。

「そうですよね。あんな事件思い出したくなくて当然です」

「うん。でも……。ウラには早く立ち直って貰いたいよ。アイツさぁ、時々すごくしんどそうな顔するんだー。無意識なんだろうけど、ほんとに辛そうなんだよね。たぶん……。色々なものいっぺんになくしちゃったからなんだろうけどね」

 それから僕たちは京極さんたちが戻るまで特に会話をしなかった。

 内田さんの話を聞いたことで僕はすっかり分からなくなっていた。

 果たして松田さんの望みは、2人にとって正しい物なのだろうか?

 出口のない迷路に入ったような気持ち……。

 京極さんたちが戻ったのはそれから程なくしてだ。

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