ピュアヒューリーズ8
「お邪魔しまーす! うわ! めっちゃオシャレっすね!」
七星くんはギターケースを肩から掛けたまま僕の部屋に上がった。
「……。そういえば、七星くんウチに上げるの初めてかもね。ま、適当に座りな」
七星くんは辺りを見渡しながらソファーに腰を下ろした。
思い返せば、バンドメンバーで僕の部屋に入ったことのある人間は京極さんしかいない。
基本的に僕は他人をあまり部屋に入れたくはなかった。
無条件で僕の部屋に上げるのは愛衣ぐらいだと思う。
京極さんだけは一応、僕の自宅の場所を教えると言う意味で上げたけれど……。
「じゃあさっさと始めようか? レスポール出して!」
「うっす!」
七星くんからギターを受け取ると、ジャックにヘッドホンアンプを挿入した。
音を確認すると彼の言うとおりガリ音が酷かった。弦を弾く度にノイズのように音がこもる。
「……。たぶんジャックの中の配線が錆びてるんじゃないかな? ペグもピックアップもだいぶ錆びてるし……」
「そうなんすよ! 俺、弾くのは出来るんすけどメンテナンスが苦手で……」
「はぁ……。正直ね、僕より京極さんにお願いした方が良いと思うよ? 彼女はギターメンテに関しては僕なんかよりずっと上手いしさ。あの人のギター見てごらん? いつも新品みたいじゃん!」
正直な話、七星くんのレスポールの状態はかなり劣悪だった。
おそらくこのレスポールは相当な金額だと思う。
それこそ、軽自動車が買えるくらいには上等な代物なのだ。
それをこんな風にしてしまう彼には内心呆れる。
ま、七星くんらしい気もするが……。
「それはそうなんすけど……。ウラちゃんに見せたら怒られそうで……」
「……。だろうね。彼女だったらぶち切れると思う……」
「それで……。どうにかなりそうですか?」
僕は内心返答に困った。改善は出来ても直せるかと言えば微妙だと思う。
「やれるだけやってみるよ……」
さてどうしたものか。ウチにある部品で対応できるだろうか?
ま……。出来る限りはやろうと思う……。
それから僕は四苦八苦しながら彼のギターを修理した。
幸い、知識程度にはギターの構造は理解している。
「えーと……。とりあえずこれで……」
「直りました?」
「ちょっとネジ締めたら確認してみるよ」
僕はドライバーでネジを仮止めすると再びヘッドホンアンプを繋いだ。
最初やったときと同じように弦を弾く。
「……」
「どう……。っすか?」
「うーん……。ちょっとだけ良くなったかな……」
かなり微妙だった。確かにガリ音は減ったけれど、クリーンな音源にはほど遠い。
「もう少しだけやってみるよ……」
それから僕は配線をたぐり寄せながら原因を探した。
しかし、知識で知っているだけで思ったとおりにはいかない。
「あの……。そうしたら楽器屋に持ち込みます。やっぱりギターの修理って難しいですかすもんね……」
「いや……。もうちょっとやらせ……」
僕がそう言いかけると、玄関のインターフォンが鳴った。
「あれ? お客さんみたいっすよ?」
「みたいだね……。誰だろ?」
僕はドアモニターのスイッチを入れる。
モニターには見慣れた顔があった。七星くんの従兄弟のお姉さんだ。
『やっほやっほ! のんちゃん急にごめんねー』
京極さんはそう言うとモニターに左目を近づけた。
「はーい! 今開けます!」
僕は玄関までいくとドアを開けた。
「やぁ! 春休み満喫してる? あれ? 七星じゃん!」
「今ギター修理してまして……」
七星くんには悪いけれど嘘はつけなかった。
これで七星くんは彼女にこっぴどく怒られることだろう。
「あの……。そちらの方は?」
京極さんの奥に見知らぬ女性が立っていた。
背格好は京極さんと同じくらいで、雰囲気も京極さんに似ている。
「ああ、私の地元の友達なんだ! 実はさー。メロン貰ったからお裾分けしようかと思ってね!」
京極さんはそう言って左手に持っているメロンの袋を持ち上げて見せた――。




