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ピュアヒューリーズ5

「実は松田さんにお願いされてることがあってね」

「松田さん? ああ、のんちゃんの前のドラマーの人ね」

 愛衣は興味津々なようで、身を乗り出す。

「うん。この前、喫茶店に呼び出されてね。そん時に話されたんだけどね……」

 僕はルノアールでの一件を話し始めた。


「竹井君! ウラって今付き合ってる奴いねーよな?」

 松田さんは胸ポケットからマルボロを取り出すと1本口にくわえた。

「たぶん……。居ないと思いますよ? 彼女とあまり恋愛の話しないので確実ではないですが」

「そうか……」

 松田さんはタバコに火を点けると口から煙を吐き出した。

 僕は松田さんの意図が今ひとつ分からなかった。

 通常の男からその質問をされたとすれば、それは間を取り持って貰いたいということだろう。

 しかし、松田さんと京極さんの関係に関して言えばそれはありえなかった。

 この2人は恋人だったことなど一度もない。

 でも、それ以上の関係だったのは七星くんや高木さん、そして京極さん自身の口ぶりから推測することが出来たからだ。

「京極さんの言葉を鵜呑みにするのであれば、今は仕事が恋人だそうです。まぁ、嘘はないと思いますよ。今『バービナ』の活動はかなり忙しいですからね」

 おそらくこれは当たっていると思う。

 現に『バービナ』運営は多忙を極めているし、恋愛どころではないと思う。

「そう……。だよな……」

 松田さんはつまらなそうにタバコをもみ消すと姿勢を正した。

「あの……。率直に言って頂けると僕としては助かります。出来ることなら何でもしますので……」

「ああ、ありがとう……」

 それから松田さんは少し間を置いて考えていた。

「じゃあ率直に言うよ。本人から聞いた訳じゃないからアレだけどよ……。ジュンてウラのこと好きなんだと思うんだ」

 正直に言おう。

 松田さんの言った言葉は僕にとってはあまりにも当たり前のことだった。

 高木さんは言葉にこそしないが、間違えなく京極さんに好意を抱いているだろう。

 これに関しては七星くんも同じように感じているらしく、たまに僕たちはそんな会話をしていた。

「ええ、おそらくは……」

「だよな! つーか竹井君もそう感じてたんだな!」

「いえ……。はっきりと言葉にする必要をあまり感じなかったので今まで言わなかったですけど、それはそうだと思います。むしろなんであの2人がくっつかないのか不思議に思ってたくらいですから」

 日常的に高木さんが京極さんと話す場面はあまりにも当然のものだった。

 彼らはまるで熟練した夫婦のように言葉も交わさずに意思の疎通が出来ていたのだ。

「なぁ……。あの2人をくっつけること出来ると思うか?」

 どうだろうか?

 付き合うかどうかは本人たちの問題で、僕たちが決めることではない……。

 と僕は思った。

「どう……。でしょうね……。確かにあの人たちはこのまま結婚でもしたほうがいい気もしますが……」

 僕は言葉の端々を濁した。

 やはり勝手に僕たちが手を出していい話ではない気がする。

 僕の様子を見て松田さんは「うん……」とだけ返した。

「正直言うと、これは2人の問題なので僕は何とも言えないですね……。あの2人には2人なりの距離感とか関係があるんだと思います。下世話な話、あの人たちは肉体関係もないでしょうし、付き合うとか付き合わないとかって前提が成り立たない気がするんですよ」

 悪い癖だ。

 僕は思ったことを素直に口にしてしまった。

 松田さんは僕の言ったことに「そうだよな」とだけ言うと再びタバコに火を点けた。

「実は俺、こうなる前にウラに告られたんだよ」

「そうだったんですね……」

「ああ、でもな。もう俺とウラの関係に将来はないと思うんだよ……。だからよ」

 松田さんは絶望するでもなくそう言うと俯いた。

 僕は内心、腹が立っていた。

 女々しいことこの上ないと思う。

「あの……。松田さん?」

 やれやれだ。

 また僕の悪い癖が始まったらしい――。

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