表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/163

ピュアヒューリーズ4

 3月3日。

 池袋駅周辺の商業施設もひな祭りムード満点だ。

「ミスド行こー!」

「ん? いいよ。あそこ電源あったっけ?」

「たぶん……。レポートだから仮にタブレット無くても出来るでしょ!」

 その日、僕と愛衣はレポートを書くためにミスタードーナツに向かっていた。

 おそらく彼女の目的はポン・デ・リングだと思う。

「私ドーナツ好きだなー。最近は自分でも作るんだよ! あとでのんちゃんにもあげるね!」

「ありがとう。てかドーナツ1人で揚げるなんてマメだね……」

「んーとね! 私って映画研究会じゃん! 視聴覚室でサークル仲間と食べるのにお菓子よく作るんだー!」

 愛衣は実際マメなのだ。彼女は友人との交流を何より大切にする。

 本人にはその自覚はないらしいけれど。

 ミスタードーナツに着くと、僕たちはトレーにドーナツを取っていった。

 僕は安定のオールドファッション。愛衣はフレンチクルーラーとチョコファッションだ。

「あれ? ポン・デ・リングじゃないんだ」

「たまには普通のドーナツ食べたくてねー。ポンデばっかりじゃ飽きるしね」

 失礼な話だけれど、彼女のイメージはミス・ポン・デ・リングだった。

 これは揶揄ではなく、愛衣がポン・デ・リングを取らないのはなかなかの異常事態だ。

「愛衣ちゃん何か悩みでもあるの? ポン・デ・リングたのまないなんて愛衣ちゃんじゃないよ……」

「は?? 私だってポン・デ・リングたのまないときもあるよ……」

 ポン・デ・リング……。

 イマボクタチハ、ナンカイ「ポン・デ・リング」ッテイッタンダロウ?

 そんな意味の無い会話をするのにもいい加減飽きたので、僕はそれ以上何も言わなかった――――。


 ミスタードーナツには残念ながら電源がなかった。

 iPadの充電が出来ない。

「やっぱりなー。スタバなら電源あるのに……」

「ミスドって電源ない店舗多いもんねー。大丈夫?」

「たぶん持つかな……。あと50%電池残量あるから」

 僕はiPadにキーボードを繋ぐと愛衣と向かい合うように座った。

「やっぱりアナログが一番強いよー。私は指定ない限りレポートは手書きだしさ! のんちゃんもアナログでやりなよ!」

「まーねー。こういう時は電源ないときついよ」

 僕は完全なデジタル派だった。

 レポートはワードかエクセル使っていたし、作曲するときもPCソフトを使っていたのだ。

 まぁ、そのお陰で『バービナ』の役に立つこともあるのだけれど……。

 僕は高校時代、ボーカロイドを使った作曲をよくしていた。

 最初は遊び程度だったけれど、今は職業的に必要なスキルに変わった気がする。

「そーだよー。のんちゃんは現代っ子過ぎるんだよ! もっと昔ながらの方法を大切にした方がいいって!」

「少し考えるよ……。たしかに手書きも悪くないからね」

 僕は愛衣にそう言うとドーナツをかじった――。


 それからしばらく僕たちは無言で作業を続けた。

 愛衣のシャーペンの音がリズミカルに聞こえる。

 不思議なもので、僕は彼女のシャーペンの音を聞くと集中して勉強が出来た。

 iPadから視線を上げると愛衣は真剣な顔でレポートと向き合っている。

「ちょっと休憩しようか?」

「んー? そだね……」

 愛衣は作業をしながら返事をした。

「それにしても愛衣ちゃんの集中力すごいよね。よくそんなにノートにかじりつけるよ」

「ハハハ、そーだね。集中力だけはあるかもしんない」

 そう言うと愛衣はようやく顔を上げた。

 僕は立ち上がると、コーヒーのおかわりを貰ってきた。ミスタードーナツはオカワリ自由なので助かる。

「サンキュー! のんちゃんはだいぶ進んだ?」

「まぁ、ボチボチね。あとは家に帰ってからまとめるよ」

 iPadの電池残量は残り8%。そろそろ落ちるかもしれない。

「ふぅー。疲れたねー。そういえばさ、『バービナ』のライブ次いつだっけ? この前京極さんがやるって言ってたけど」

「ああ、次は4月20日だよ! 場所は赤坂ね……。って京極さんといつ会ったの?」

 僕は普通に返しながら彼女にツッコミを入れた。

「へ? あれ聞いてない? この前のライブのあとに京極さんとLINE交換したんだよー」

 まったく聞いていなかった。いつの間に……。

「そ、そうなんだ……」

「なーにぃ? 何か私たちが仲良くすると良くない事情でもあるの?」

「いや……。別にないけどさ……。何か意外だったから……」

 京極さんと愛衣……。

 この2人はいったいどんな会話をするのだろう……。

「あとさー。のんちゃん京極さんに何か隠し事してない? あの人疑ってたよ?」

 やれやれだ……。どうやらだいぶ仲良しらしい。

 言い訳しよう……。とは思わなかった。どうせ愛衣には話すつもりだったし……。

「ああ、隠し事ってほどじゃないけど、言ってないことがあるね」

「へー!! 隠し事してるって白状しちゃうんだ」

「うん。愛衣ちゃんには話しておくよ」

 この件を1人で抱えるには少し重かったのだ。

 だから……。愛衣ぐらいには相談してみようと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ