ピュアヒューリーズ3
ライブの翌日。僕は京極さんと一緒にニンヒア本社に向かう。
「すっかりこの車にも慣れちゃったよ」
「ハハハ、そうですよね。なんか最近は僕京極さんの運転手みたいなもんですから」
「助かるよー。あ! 西浦さんに渡す資料見返しとこーかなー」
京極さんを送り迎えするのが僕の日課になっていた。
以前なら電車移動でも問題なかったけれど、今は京極さんが移動すると少し問題が発生する。
彼女の顔はそれなりに売れてしまったのだ。
笑い話だけれど、彼女の顔の描かれたポスターはあちらこちらに貼られている。
「それにしても『バービナ』だいぶメジャーになりましたよね。僕らはまだそんなですけど、京極さんの顔はあちこちで見かけますよ」
「それな。あーあ、実際めんどくせーよ! この前日比谷線の中吊りに私らの見出しあってヒヤヒヤしたよ」
「嬉しい悲鳴ですね……。大叔母も少し驚いてましたよ」
京極さんは言葉とは裏腹に嬉しそうだ。
事実『バービナ』は順風満帆だった。京極さんはその容姿も相まって人気急上昇中だ。
「松田さんと先日お会いしましたよ」
僕はハンドルを握ったまま、彼女に話しかけた。
「へー! 珍しいね。大志何か言ってた?」
「実は松田さんから誘われまして……。ルノアールでお話してきました。内容は……。まぁ普通な話です」
「フツウナハナシネ……」
普通な話……。ある一点を除いては嘘はついていない。
京極さん的には疑いの余地があるはずだけれど……。
フィアット500は今日も調子が良かった。低回転域での加速も申し分ない。
「のんちゃんの車ほんと可愛いよねー。私もそろそろ車買おうかなー」
「お! いいですね。やっぱりコペンですか?」
「そそ! コペンの新型にしようと思うんだ。軽でちっこいから小回り利くしさ」
「それが良いと思います。やっぱり燃費が良くて小回り利くのが都内では強いですからねー」
僕たちはそんな他愛のない会話をしながら、車は明治通りを進んだ。
右にペンギンのキャラクターの描かれたディスカウントストアが見える。
「のんちゃんさー。これから『バービナ』どうしていきたい?」
彼女は書類を眺めながらそんな漠然とした質問を僕に投げかけてきた。
「どうしていきたいか……。そうですね……」
「あ! 難しく考えなくていいよ! のんちゃん的にライブいっぱいやりたいとか、こんな曲作りたいとかあったら教えて!」
彼女は時々こんな風な質問を僕にした。
本人曰く、特に意味はないらしい。
「そうですね……。僕としては、やっぱりライブは多く熟していきたいです。あとは……。もう少しポップな曲があると良いと思いますねー」
「ふむふむ……。ポップな曲ねぇ」
僕の答えが気に入ったのか、彼女はそれからしばらく考えているようだった。
こんな風に京極さんとドライブする時間が僕は好きだった。
深い意味を持たない会話。
適当な相づち。
時々あるハプニング……。
僕はその空気感がとても居心地が良いと感じていたのだ。
改めて、松田さんの言葉を思い出す。
彼の願いを叶えることは出来るだろうか?
結局その日は、ニンヒアまでの運転手で終わってしまった。
流石にそろそろ動き出さなければいけないだろう……。




