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ピュアヒューリーズ2

 2022年2月。

「ウェーイ!」

 京極さんは力強く手を振り上げるとステージの中央に躍り出た。

 毎度のことだけれど、彼女のライブパフォーマンスは派手なのだ。

「皆さんこんばんは! 《The birth of Venus》です! 今日は楽しもうぜー!」

 会場は2月だというのにすごい熱気だ。開演して間もないというのに観客は皆、汗をかいている。

 京極さんはいつものように観客席に身を乗り出しながら歌っている。

「みんなー! 歌ってー!」

 彼女が観客席にマイクを向けると彼らは、怒鳴るように大きな声で『バービナ』の曲を歌った。

 こんな風なライブパフォーマンスはもう定番化している気がする。

 高木さんも七星くんも慣れた物で、そんな彼女に寄り添うように演奏していた。

「ありがとー! えーとね! 今日はみんなに珍しい物を見せようと思います!」

 その日は京極さんにとって特別な日だった。

 失われた物を取り戻す日――。

「じゃじゃーん!」

 そう言うと彼女はスタンドに立てかけてあった赤いSGのストラップをを肩から掛けた。

「昔っからウチらのバンド知ってる人どんくらいいるかな? その子たちなら私が元ギタリストだって知ってるとは思うんだけどね」

 そこまで話すと彼女は「オホン」と小さな咳払いをした。

「でね! もう2年くらい前に腕怪我してさー。ずっとギター引退してたんだけどね。でも! 今日復帰します!」

 宣言するように観客に語りかける京極さんはとても嬉しそうに見えた。観客席からも大きな歓声が上がる。

「ずぅーと七星にギター任せっぱだったけど、今日からツインギター復帰だよー! では復活の一曲目聴いて下さい! 『ピュアヒューリーズ』」

 京極裏月の完全復活の瞬間だった。

 僕は彼女の後ろ姿を見ながら黙ってドラムを叩く。

 ずっと失われていた彼女本来の力を見れたような気がした。

 そうだ。彼女は本来、生まれながらのギタリストなのだ――。


「おつかれー!」

「お疲れ様です」

 ライブ終わりの打ち上げ。京極さんは僕の後ろから肩に手を回した。

「今日も良かったよ、のんちゃん! さっすがー」

「いえいえ。いつも通りやっただけですので」

 その日の京極さんはかなり上機嫌だ。

「いやーよかったよかった! これで無事セカンドアルバム出せるねー。あ、ジュン! 明日一緒に『ニンヒア』行くけど大丈夫?」

 京極さんは壁により掛かりながらうたた寝している高木さんに声を掛けた。

「あ……。ああ、大丈夫だよ。打ち合わせだったね」

「そだよー。ジュンお疲れだねー」

「ちょっと寝不足でね。ま、打ち上げ終わったら今日はゆっくり寝るさ」

 高木さんは正業の方が忙しいのだろう。疲れが溜まっているのは目に見えて分る。

「あーあ、七星もそろそろ打ち上げ混ぜてあげたいなー! ま、未成年だからコンプライアンス的にもうちょいお預けだけどさ」

 やれやれだ。今日も京極さんは元気だ。

 僕はふと、先日に松田さんから頼まれたことを思い出していた……。

 さて……。どうしたものか……。

 まぁ、いつも通りやるだけだ。

 今できることをやる以上の努力なんて存在しないのだから――。

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