ピュアヒューリーズ1
僕の名前を間違えずに読める人間は少ないと思う。キラキラネームとまでは言わないけれど、読みづらい名前なのは確かだろう。
希望と書いて、『キボウ』と読まれる。本来の読み方は『ノゾミ』だというのに……。
完全なる当て字でなく、日本語本来の読み方であることは幸いだとは思うけれど……。
僕は池袋のルノアールという喫茶店を訪れた。
この場所に来るのは本当に久しぶりで、妙な懐かしささえ覚える。
「お客様何名様ですか?」
「えーと……。待ち合わせで来ました」
僕は店員に案内され奥の喫煙席に向かう。
「おお、わざわざ来させて悪いね」
「いえいえ、こちらこそすいません。松田さんお元気そうで」
松田大志。僕が今現在所属しているパンクバンドの元ドラマーで僕の前任者だ。
彼は諸事情(三文字で片付けるには多すぎる気もするけれど)でバンド活動を引退していた。
簡単に説明すると、彼は重度の怪我が原因で引退に追い込まれたのだ。
後遺症として、彼は杖を使わないと未だに歩くのもままならないらしい。
「竹井くんもすっかり『バービナ』に馴染んだよなー。あの馬鹿元気してる?」
「ええ、元気すぎて着いて行けないくらい元気してますよ」
僕のその言葉に松田さんは吹き出して笑った。
「そーかそーか。そりゃ良かった……。あ、タバコいいかな?」
「どうぞどうぞ! 京極さんもいつもプカプカで慣れてるんで」
「さんきゅ」
松田さんはタバコに火を着けると美味しそうに煙を吸い込んだ。
「お陰さまで『バービナ』ももうすぐセカンドアルバムが出せそうです」
「それな。よかったよ、ほんと。ウラもジュンも七星も変わらないみてーだしなー」
松田さんは懐かしそうな顔をして宙に浮かんだ煙を見つめた。
「松田さんも今回楽曲提供してくださいましたし、きっといいアルバムになると思います」
「ありがとう……。竹井君が真面目で本当に助かるよ」
松田さんの表情はどことなく寂しそうに見えた。
「高木さんも良くしてくれます。困ったときどうしても頼っちゃうんですが、あの人いつも面倒見てくれるんですよ」
「ああ、ジュンはそういう奴だからなー。きっと竹井君とは気が合うんだと思うよ……。なぁ竹井君に頼みがあるんだけどいいかな?」
松田さんは急に改まると僕の真剣な眼差しになった。
「はい! 出来ることなら何でも言ってください!」
「実はな……」
この松田さんの『お願い』は僕の存在意義を揺るがすようなものだった。
そして……。彼の親友にとってとても大切な願い……。




