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Track49 希望の歌

 ライブ終了後、俺とルナちゃんは『バービナ』の控え室へと向かった。

 スタッフに案内されて向かった控え室には良く知った顔が3つと知らない顔が1つあった。

「ご挨拶が遅れてすいません。竹井希望です」

 新規メンバーの竹井くんは丁寧に挨拶してくれた。

「初めまして……。いつもウラがお世話になってます」

 俺の挨拶を聞いたウラとジュンは吹き出して笑い始めた。

「ハハハハハ、そうだね……。私のんちゃんにお世話になりっぱなしだね。大志さぁ、何改まってんのぉ?」

「そこまで笑うことかよ……。ライブお疲れ! すげー良かったよ」

 控え室にはスタッフ数名と『バービナ』のメンバーが疲れきった顔で座っていた。

 七星もすっかりライブ慣れしたらしく、スタッフと楽しげに会話している。

「一度ご挨拶に伺おうかと考えていたのですが……。すいません、挨拶が遅れてしまいまして……」

「いいって! 気にすんなー。それに俺もう『バービナ』の部外者だしさ……。竹井くんもう慣れたか?」

 竹井くんは少しだけ緊張しているようだ。

「お陰さまですっかり慣れました。京極さんも高木さんも七星くんもみんないい人なのでいつも支えてもらってます……」

 率直な感想を言えば、竹井くんはとても真面目で良い奴に見えた。

 だが、だからこそウラがこの男を選んだ理由がわからない気がする。

 変な言い方だが、ウラはもっと普通じゃない奴を選ぶと思っていたのだ。

「ならよかったよ……。俺ももっと早く挨拶できりゃ良かったんだけどなぁ……」

 俺はその時、自分の足を見るとはなく見た。

 致し方のないことなのだけれど、足がもし動くなら新規メンバーの彼にも挨拶ぐらいはするべきたっだ気がする。

 竹井くんは俺の身体を気遣ってくれた。

 初対面だというのに彼の気遣いはまるで俺のことを最初から知っているくらい親身だとだと思う。

 ウラは俺と竹井くんを放置してルナちゃんと楽しそうに談笑していた。

 自由人過ぎる。

 でも、そんな風に自由にはしゃいでいるウラを見るのは本当に久しぶりだった。

 俺の病院に来る時も元気を装ってはいたが、心から笑っている様子を見せたりはしなかったのだ。

 竹井くんを見ていると今後の『バービナ』のことが安心出来る反面、少し悲しい気持ちになった。

 彼はあまりにも良く出来ている。

「京極さんはすごいですよねー。いつも僕のこと気遣ってくれるんですよ」

「ああ、ウラは意外と面倒見良いからなー。これで俺も晴れてお役御免だな……」

 正直悔しかった。

 ウラの後ろからアイツの歌を支えるのが俺じゃないのがあまりにも悔しい。

「あの松田さん……。早く復帰なさってくださいね!」

「へ?」

 竹井くんが言った言葉の意味が理解出来なかった。

「京極さんもそれを望んでいます。今は僕が『バービナ』のドラム担当してますけれど、松田さんが治ったらすぐにこの場所をお返しするつもりですので」

 俺はその言葉に返す言葉が見つからなかった。

「じっくり治してください。僕にとってもそれが願いですから……」

「ああ……」

 とても不甲斐ないことしか俺は返せなかった。

 竹井くんは一体どういうつもりでそんな風に言ったのだろう?

「おー大志ー! のんちゃんとすっかり仲良しじゃん!?」

 ウラは俺の後ろから覆いかぶさるように肩を掴むと楽しそうに笑った。

「おお、『バービナ』にはもったいないくらい良い子だなー。お前らこれから打ち上げか?」

「そだよー! あ! 大志とルナも来るー? きっと盛り上がると思うよ!」

 ウラは本気らしい。

「いや……。俺は帰るよ。ルナちゃんも明日用事あるみてーだし一緒に戻る」

「そっかー! じゃあ次回は打ち上げ強制参加ね! 飲ませっから!」

 俺はジュンと七星に軽く声を掛けるとルナちゃんと一緒に帰ることになった。

「お姉相変わらずでしたねー」

 ルナちゃんはクスクス笑いながらそう言った。

「だなー……。すげーアイツらしかったよ……」

「この前まで元気なかったんで少し安心しましたけど……。そういえば竹井くんどうでした?」

「すごくいい子だなー。でもウラに振り回されると思うと少し気の毒だよ……」

 俺のその言葉にルナちゃんはまたクスクスと笑って「そうですね」と返した。

 竹井くんの真意は一体なんなのだろう?

 俺はルナちゃんに車椅子を押されながらずっとそのことを考えていた。

 日比谷で秋の空気を感じながら俺は不安とも快楽とも違う感情に襲われていた。

 これから『バービナ』はどこに向かうのだろうか?

 俺もこれからは過ぎ去ってしまった過去に決着を着けなければいけないだろう。

 絶望的な気分だった俺にもまだ微かだが希望が残されている気がした。

 俺も彼らと同じように希望を持って先に進みたいと思う。

 またいつか演奏しよう。ウラの歌っている姿を彼女の後ろからもう一度見たい。

 夜の女王は希望の歌が大好きなのだから——。

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