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ヘカテ—ダーク25

 10月、日比谷野外音楽堂。

 『バービナ』のツアーも最終公演を迎えていた。

 夕方、京極さんが場内アナウンスをしてから僕たちはいつものように円陣を組んだ。

「でーは! ジュン、七星、のんちゃん! 今日も張り切って行くぜ!」

 京極さんは今日も元気いっぱいだ。

 僕たちは「おー!」とかけ声を掛けるとそのままステージ上へと向かった……。


 ライブ自体はとても順調に行われた。

 途中で七星くんのエフェクターが壊れてしまったことを除けば大旨上手くいった。

 エフェクターの故障も含めて開場は盛り上がっていたし、トラブルも含めて『バービナ』の味なのだろうと思う。

 僕はドラムを叩きながら京極さんの後ろ姿をずっと眺めていた。

 彼女は本来ギターのはずだけれど、今はステージを走り回りながらパフォーマンスするのがすっかり板に付いたようだ。

 少しずつ夕闇に包まれて行く夜音の空気は夜になるほど秋めいて行く。

 開場の熱気と秋の空気が混ざり合って、東京のど真ん中だというのにそこだけ隔離された場所のように感じられた。

 高木さんは本当に安定的にリズムを刻んでいた。これこそが彼の持ち味なのだろうと思う。派手さはないが着実に演奏に深みを持たせるのが彼の役目なのだと思う。

 対照的なのは七星くんで彼の演奏は京極さんの歌声と競い合うように激しく派手な演奏をした。

 それでも僕たち3人が居る目的自体は統率されていると思う。

 単純な話だけれど、京極さんの声を生かすために僕たちは演奏するのだ。

 時間にして2時間半くらいだったと思う。

 ライブはあっという間に終わってしまった——。


「ほんっとにお疲れー!!」

 京極さんは舞台袖に下がると地べたに寝転んで背伸びをしながら叫んだ。

「お疲れー! これでとりあえずツアー終了だねー。無事終わってよかったよー」

 京極さんと高木さんはとてもだらしなく地べたに寝そべっている。

 完全にエンプティー。

「『バービナ』の皆さんお疲れさまですー。あのー、京極さんにお客さんが来てますけど……」

 スタッフの男性が僕たちの居る楽屋に顔を覗かせながらそう言った。

「ああ……。私が呼んだんだよ……。男女の2人組でしょ?」

「そうです! 案内してもよろしいですか?」

「うん! 丁重にお連れしてください!」

 京極さんはそう言うと起き上がり、テーブルの上に乗っているタオルで汗を拭いた。

「のんちゃんさー。ちょっと会わせたい人が居るんだー」

「え? 僕にですか?」

「そだよー。今来るから、来たら紹介すんねー」

 彼女は落ち着かない様子でうろうろしながら今から来る客人を待っている。

 少しするとさっき来たスタッフが再びドアから顔を覗かせた。

「お待たせしましたー」

 スタッフがドアを開けると車椅子の男性と可愛らしい女性が控え室に入ってきた。

 僕は車椅子の男性の顔を見たときそれが誰なのか瞬時に察することが出来た。

 僕の前任者……。松田大志。

 でもそれ以上に驚いたの同行してきた女性の方だった。

 彼女の顔を見て僕は、声に出るくらい驚いてしまった。

「なーにのんちゃん? そんなに驚かなくても……」

「で、でも京極さんこの人って……」

 僕の反応に京極さんは察してくれたようでこの女性について説明してくれた。

「あーね。そうだよね……。大志はともかく、この子見るのも初めてだよねー」

 そう言うと、京極さんは同行者の女性の横に走り寄って行った。

「紹介するよ。この子は私の妹のルナ。見ての通り双子の妹なんだ。同じ顔が並んでると面白いでしょ?」

 たしかに京極さんに妹が居るという話は聞いていた。

 ただ、肝心なことに双子だという話は聞いてはいなかったのだ。

 彼女の言う通り、同じ顔の女性が並んでいる様は面白かった。

 不思議なことに同じ服を着たとしても別人だと判別が付くくらい雰囲気が違う。

「いつも姉がお世話になってまいます……」

 ルナさんは礼儀正しく深々と僕に頭を下げて挨拶してくれた。

「つーか……。お前俺のこと放置すんなよ……」

「ああ、ごめんごめん。別に放置してた訳じゃないんだ……。のんちゃんがあまりにもルナに驚いてたから説明したくてね……」

 松田さんは「まったく」と京極さんを軽く小突くと僕の方を向いた。

 こうして僕は初めて前任者と対峙することとなった——。

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