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ヘカテ—ダーク17

 いよいよ8月がやってきた。

 先月末に七星くんも実家から東京へと戻ってきたようだ。

 僕たちは打ち合せも兼ねて渋谷のスターバックスで会うことにした。

「ウラちゃん最近一段と機嫌悪いんすけど……」

 七星くんは首を横に振りながらそう言って苦笑いを浮かべた。

「またなんかやらかしたの?」

「違いますって! 昨日なんか電話しただけで「なにぃ!?」ってすごい剣幕で言われたんすよ?」

「災難だったね……」

 さすがに七星くんに少し同情する。

 電話掛けただけでその態度じゃ何も話せはしないだろう。

「まーじーでー……。あの人酷すぎませんか? 俺だって色々あんのに……」

「8月は忙しいからねー。彼女も気が立ってるんだと思うよ? それを差し引いても今の話は酷いけどさ……」

 おそらく京極さんは相当気が立っている。

「やぁ」

 僕が七星くんの愚痴を聞いていると高木さんがやってきた。

 いつにも増してひょうひょうとしている。

「お疲れっす!」

「お疲れさまー。七星くん帰省は楽しかったかい?」

 高木さんは七星くんの近況を確認するようにそう言って席に着いた。

「おかげさまで! まぁあんまりゆっくりも出来なかったですけど……」

「そうだよねー。まぁお盆休みくらいは作れると思うからそこまでは頑張ろうか?」

 高木さんは演奏に関して以外は七星くんに優しかった。というより甘いと思う。

 京極さんが厳しすぎるからなのか彼は七星くんに対してあまり厳しいことを言おうとはしない。

 もしくは言うのを面倒くさがってだけも知れない。

「つーかジュンさん! 聞いてくださいよー! ウラちゃん酷いんすよ!?」

 七星くんは僕に話した内容を反復するように高木さんに話した。

 高木さんも慣れているのだろう。

 適当に相づちを打ちながら七星くんをうまく宥めた……。

「竹井くんもお疲れ! しっかり手伝ってくれてるみたいだから俺たちも助かるよー」

「いえいえ、一向にお役に立てず申し訳ないです……」

 僕は後輩が先輩に謙るような言い方をした。

「ハハハ、竹井くんは大人だねー。まぁ今月からが本番だからよろしくねー。京極さん何か言ってた?」

 この日は京極さん抜きでの打ち合せだった。

 そもそも打ち合せかどうかも微妙なところだけれど、とりあえず『バービナ』の演奏メンバーだけで集まったという訳だ。

「僕には何も……。そういえばしばらく彼女に会ってませんねー」

「そっか……。京極さんも今は忙しいだろうからね……。竹井くん大丈夫そうかな? 俺たちのバンド入って結構経ったけど、少しは慣れた?」

「はい! お陰さまで! すっかり慣れました。今月からもっと精進して行きます……」

 それから高木さんは今後の予定について僕と七星くんに説明してくれた。

「とりあえず、来週のお盆まで休みないんだけど大丈夫? 関西にも行くから準備とか急がしそうだけどさ」

「俺は問題ないっすよー!」

「僕も大丈夫です」

 京極さんに言われたことを気にしたのか、七星くんはちゃんとスケジュール帳を持ってきていた。

 こういうささやかな努力ってすごく大切だと思う。

「よしよし! 2人とも準備万端だねー。じゃあ来週から大阪出張よろしくねー」

 高木さんは本当に穏やかな人だ。

 不手際があったとしてもうまいことカバーしてくれるし、決して声を荒立てたりしない。

「俺の方は仕事もあるんだけど、来週からうまいこと都合付けるよ……。あとさー、京極さんのことで少し相談があるんだ!」

「なんですか?」

「いやさ……。君たちも知ってるだろうけど、京極さんスケジュールが殺人的なんだよね……」

 高木さんは京極さんを心配しているようだ。

 彼の話を要約するとこんな感じだ。

 彼女は今現在『バービナ』の管理運営のほぼ100%を1人でやっている。

 以前ならインディーズだし、それで問題がなかったけれど、今後彼女1人に負担を掛け過ぎる訳にも行かないだろう。

 だから他のメンバーでも彼女をうまくサポート出来ないだろうか?

 ……そんな感じだった。

「……という訳さ。可能な範囲で良いから2人にも協力してほしい。もちろん俺も全力でやるからさ」

 まぁ当然だろう。

 アーティスト本人がマネージメントから営業活動までこなすのはあまり現実的ではない。

「俺は構わないんけど……」

 七星くんは何か言いにくそうに高木さんに突っかかった。

「んー? 何か問題でもあるの?」

「いやー……。問題っていうか、ウラちゃんきっと俺にその手の仕事任せないと思うんすよねー。前にちょっと手伝おうとしたら『勝手なことしないで!』ってめっちゃ怒られたんすよねー」

 七星くんは京極さんに対して不満げに言って、またため息を吐いた。

「……。俺の方からも京極さんに話してみるからさ……。このままじゃあの子、いつか倒れちゃいそうだし……」

 これに関しては京極さんの負けず嫌いで独善的な性格が災いしている気がする。

 彼女は自分が認めたモノ以外は受け付けないのだ。

 残念なことに七星くんのことを京極さんはあまり認めてはいなかった。

「つーか本当に酷くないっすか? 俺だってウラちゃんの力になりたいんすよ!? なのにあの人は俺を役立たずみたいな扱いするし……」

「七星くん……。それは違うよ? 京極さんは素直じゃないだけで本当は君のことすごく大切に思っているはずさ」

「だったらもっと素直にしてほしいっすね! とにかく俺はウラちゃんから頼まれない限り何もできないっすから!」

 空気が悪い。

 高木さんは平穏そのものだったけれど、七星くんは腹の虫が治まらないようだ。

「あの高木さん?」

 僕は話題を変えようと高木さんに話しかけた。

「なんだい?」

「あの……。京極さんて昔からあんな感じだったんですか? 僕から見てもあの人はピリピリしてるのが多く感じるんですよね……」

 僕の質問に高木さんは「うーん……」と上を向きながら考え始めた。

「そ……うだね。基本的には彼女は変わらないと思うよ? 最近は色々と変化があったから不機嫌だけれど、基本的にはなんも変わってないと思う。ずぅーとあの子は、メンヘラクソビッチのままだからねー」

 メンヘラクソビッチ……。

 高木さんの口から予想外に誹謗中傷するような言葉が吐かれた。

「メンヘラクソビッチですか……?」

 僕は自分でもわかるような訝しい口調で彼に聞き返した。

「そうだよ。これは彼女自身が自分で自称してることなんだ。でもまぁ……。僕と出会った頃に比べればだいぶ丸くなったような気もするかな……」

 それから高木さんはこの前のように昔話を聞かせてくれた。

 相変わらず七星くんは不満げな表情を浮かべたままだ——。

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