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ヘカテ—ダーク13

 7月も中旬に入り関東は梅雨明けした。

 大学ももうすぐ夏休みに入る。

 大学の友達数人に長瀞に遊びに行こうと誘われたけれど断った。

 そもそも僕はアウトドア派ではないし、『バービナ』の予定が山盛りに積もっている——。


 夏休みになる前々日。

 僕は図書館で友達と一緒にレポートを書いていた。

「のんちゃんはいーよねー。バンド活動とかすごい楽しそう」

 幼なじみの愛衣は恨めしそうな眼で僕を睨んだ。

 彼女とは幼稚園に入る前からの腐れ縁で、小中高、終いには大学まで一緒になっていた。

「悪かったよ……。バンドの予定調整して今度どっか行こう……」

「別に怒ってないよ? ただ協調性がないのはどうなんだろーって思っただけ!」

 愛衣はその言葉とは裏腹に不機嫌だ。

 確かに、『バービナ』に参加してから彼女と出かける機会は激減している。

「西浦のおばちゃんにああ言われたらさすがに断れないよ……。それに僕ってあんまり外でバーベキューとかするタイプでもないでしょ?」

 愛衣は「はいはい」と流すように言うとそのままレポート用紙に視線を移した。

 例の長瀞旅行も愛衣が企画したものだった。

 彼女は僕と違って完全なアウトドア派で天気が晴れれば必ず外出するようなタイプだ。

 家が隣ということを除けば、僕たちはあまり共通点がない。

 僕はインドアで彼女はアウトドア。

 僕が和食が好きなのに対し、彼女は洋食が好き。

 僕はバンド活動。彼女は茶道。

 これくらい違いがある。

 それでも彼女は事あるごとに僕を外に連れ出そうとした。

 正直面倒臭いと思うことはたくさんあったけど、そのお陰で僕の学生時代は大旨充実したのだろうと思う。客観的に見ればだが……。

「でー? 『バービナ』さん……。だっけ? どうなの?」

「悪くはないよ。少し癖が強いけどみんな良い人たちだし、楽しくやってる」

「ふーん……」

 やはり僕がバンド活動していることが気に入らないらしい。

「京極さんの話だと10月に日比谷でライブあるらしいんだ。あいちゃんも来る?」

「どーしよーかなー。私も忙しいんだよねー。10月かぁ」

 彼女は白々しくそう言って僕のことをチラッと見た。眼が笑っている。

「意地悪なこと言わないでよ……。どうせ来てくれるんでしょ?」

「んー……。ま、いいでしょ! 行ってあげるよ!」

 本当に面倒臭い。

 彼女は小学校の頃からずっと上から目線だ。

 愛衣とはこれからもずっとこんな感じなのだろうか?

 そう考えると少し頭が痛い……。


 翌日。

 僕はまたしても七星くんと会った。

 場所は京極さん御用達のルノアール。

「お疲れさまー」

「お疲れさまでーす! 竹井さんも明日から夏休みですか?」

 七星くんはどこから見つけてきたのか派手なアロハシャツを着ている。

「そうだよ。明日からだね。七星くんも?」

「そうっす! 明日には地元に一回、戻るつもりです!」

 聞いた話だと七星くんの地元は山梨らしい。

 古くからやっている温泉旅館で、彼はそこの一人息子のようだ。

 自動的に七星くんの祖父母は京極さんの祖父母な訳だが、京極さんはあまり里帰りするつもりはないらしい……。

「そっか……。今月末までにはこっち戻るの?」

「そーっすね……。つーか、戻らないとウラちゃんに怒られそうだし……」

「だよね。まー、今月はまだそんなに忙しくないから遊んできなよ! そのかわり来月は大変だけど……」

 七星くんは「うっす」と元気よく応える。

 本当にわかっているのだろうか?

「そういえば、教えてほしいことがあるんだけどいいかな?」

「なんすか?」

 僕は8月に入る前にどうしてもしておきたいことがあった。

 どうしようか迷ったのだけれど、結論としてやることに決めたのだ。

「松田さんてまだ病院に入院してるんだよね?」

「そうっすね! 今はリハビリ中ですけど、退院は先みたいっすねー」

「ちょっと会ってみたいんだよね……」

 僕は松田さんと直接会って話をしたかった。

 彼は僕の前任者で、5年もの間『バービナ』のまとめ役を担ってきた人物だ。

 京極さんの話では演奏技術だけなら僕の方が上しいけれど、それでも彼は僕にとってかなり気になる相手なのだ。

「んー……。どうっすかね……」

 珍しく七星くんは難しい顔をした。

「無理にって訳じゃないけどさ……。何か問題でもあるの?」

「問題とかはないです……。でも何となく会わない方がいい気がしますね……」

 七星くんはそこまで話すとメモ帳に松田さんの入院している病院の名前と病室番号を書いて僕に手渡してくれた。

「ここに行けば大志さんいるはずです……。俺はなんとなく会わない方が良いとは思いますけど、竹井さんがどうしても会いたいなら行ってみるといいです」

 七星くんは珍しく渋い顔をしている。

「よくわからないけど、七星くん的にはNGなんだね?」

「いえ……。そうではないんすよ……。本当になんとなくなんです」

「そっか……。じゃあよーく考えてから行くか行かないか決めるよ……」

 不思議なもので七星くんが渋い顔をしたことで僕はますます松田さんに会ってみたいと思うようになっていた。

 これは悪い好奇心なのだろうか? 

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