ヘカテーダーク2
数日後、僕は大叔母に指定された音楽スタジオに向かった。
僕が音楽スタジオの受付に行くと、ロビーの備え付けのソファーに『バービナ』のCDジャケットに写っていた女の子が座っていた。
「こんにちは!」
僕は座っている女の子に声をかける。
女の子はゆっくりと顔を上げ僕のことを確認すると何かが分かったように視線を落とした。
「西浦さんから話は聞いてるよ! 竹井……希望くんだよね?」
「はい! 初めまして。大叔母がいつもお世話になってます。竹井です!」
僕が挨拶すると彼女は静かに口元を緩め僕に手を差し出した。
実際に見る彼女はCDジャケットより幼く見えた。
月並みの表現だけれど、童顔で可愛らしい。
「初めまして! 京極……。じゃなかった……。高嶺裏月です! よろしくお願いします」
やはり彼女の口元は穏やかに緩んでいた。
しかし、彼女の瞳を覗き込むとその笑みが偽物であることに気づいてしまう。
高嶺さんの瞳は笑ってはいなかったのだ。
それどころか光が宿っていないようにさえ見える。
僕は彼女の瞳を見ていると背筋に冷たいものを感じた。その瞳の奥底にあるものは完全な暗闇——。そんな錯覚を覚える。
僕は高嶺さんの案内でスタジオの練習ブースまで移動した。
練習ブースには他に2人のバンドメンバーが待っていた。
1人は僕と同年代ぐらいの男子。もう1人は25歳前後の男の人だ。
「みんなー! 西浦さんから連絡会った子が来たよー!」
高嶺さんは僕をメンバーに紹介してくれた。
僕は簡単に自己紹介をすると彼らに軽く会釈した。
「初めまして、高嶺七星です!」
僕と同年代ぐらいの男子が少し緊張した様子で挨拶してくれた。事前情報だと彼は高嶺さんの従兄弟らしい。
「どうも……。高木純です」
今度は年上の男の人に挨拶される。彼は穏やかな口調でそう言うと、僕に握手を求めるように手を差し出してきた。
「ご丁寧にありがとうございます! 高木さん」
僕は高木さんの手を握る。彼は一見優男に見えたけれど、握手してみると握力は強いようだ。手は冷たい。
話した印象は2人とも好印象だった。
七星くんは素直そうだ。高木さんも常識人に見える。
とりあえず表面的な部分は問題なく感じる。
問題はもっと根深いところなのだけれど……。
「じゃあ、せっかく来てもらったし、さっそくドラム見せてもらえるかな?」
高木さんはスタジオのテーブルの上にあるドラムスティックを僕に差し出した。
「わかりました……。では……。曲の指定あります?」
「そうだね……。京極さんどうする?」
声を掛けられた高嶺さんは口元に手を当てて何やら考えているようだ。
「じゃあさ……。とりあえずデビューシングルにしとこうか……。『Ambitious!』ね!」
高嶺さんはそう言って、ドラム前のパイプ椅子を逆向きにして股がるように座った。
やはり事前調査をしておいてよかった。すべての曲とは言わないまでもある程度の楽曲は大叔母から話をもらった段階で調べてある。
まぁアタリを付けておいて、『Ambitious!』は特に練習していしておいたのは正解のようだ。
僕はドラムセットの前に座ると大きく息を吸ってドラムを叩き始めた——。




