Track41 Recruit Survivor
プロモ撮り撮影当日。
俺たちは都内のハウススタジオを訪れた。
「ずいぶんとスタッフいるな……」
「そりゃそうでしょ? だってプロモ撮りは人も金も掛かってるんだからさぁ」
俺は軽い気持ちで来たが思いのほか撮影は大がかりなようだ。ジュンとウラはこの手の業界に関わっているためか全く動じていない。動じているのは俺と七星だけだ。
「すっげー!! 本当にプロモ撮りするみたいだ!」
「あのさー七星、本当にプロモ撮りすんだよ?」
ウラはいつも通り七星の後頭部を小突いた。最近は、小突く場所が固定化されてきた気がする。
スタジオは何部屋かに分かれて、それぞれセットが組まれている。会議室風の部屋、パンク風の部屋、カフェ風の部屋……。概要を高橋さんから貰ってはいたが、いざ目の前にすると緊張した。
「あ、皆さんお疲れ様ですー。今日はよろしくお願いしますね」
俺たちの姿を見つけると高橋さんがクリップボードを小脇に抱えて走り寄ってきた。いつも思うのだが、高橋さんは現場で走り回っていると使えない男に見える。(そう装っているだけなのだろうけど……)
「高橋さーん! 今日はよろしくお願いします! ウチの松田と高嶺はこういう場所初めてなのでご迷惑お掛けするかもしれませんが、どうかよろしくです!」
「ハハハ、大丈夫ですよ! むしろ、京極さん……。いえ、高嶺さんや高木さんくらい現場慣れしてる方がいる方が初プロモでは稀ですから!」
高橋さんはウラの名前を一瞬間違えて訂正するとクリップボードに何やら書き込み始めた。(俺もウラの新芸名にはまだ慣れていない)
俺たちは高橋さんに案内されて、スタジオの端にあるホワイトボードへと向かった。
「えー……。では資料に目を通しているとは思いますが最終確認のため説明させていただきますねー」
それから高橋さんは進学塾の名物講師のように俺たちに撮影スケジュールを説明し始めた。(『今でしょ』の人っぽかった。彼の名前はなんだったか忘れたけど)
今回の新曲は番組の企画に沿った物になっている。新社会人を応援するという番組の企画に合った明るく元気の出るような曲だ。本来、俺たちの曲はそこまでPOPテイストにはならないのだけど、今回は特別に完全POPな曲に仕上がっていた。
「今回は3つのスタジオでそれぞれ撮影させて貰いますねー。言うまでもないですが、メインの被写体は高嶺さんになります。えっと……。高嶺ヘカテーさんです」
「あ、高橋さんいいっすよ京極で! 同じ名字が2人いると紛らわしいから分けて下さい」
確かに紛らわしい。さっきからウラのことを高嶺さんと呼ぶ度、七星がビクっとなる。「では……。京極さん主体の撮影になります。メンバーの方はアップ撮りする場面もありますけど、基本的には京極さんのバックバンドの扱いでお願いします」
「ええ、それでお願いします。まぁスタッフさんが早く帰れるように頑張って終わらせますので……」
「京極さーん、あんまり気を使わなくても大丈夫ですよ! 今回僕らは良い物を作るために集まってますので! 時間が掛かっても良い物を作りましょう! 大事なプロモです。頑張って『アフロディーテ』に負けないようなモノを作りましょう! あと、広通さんにもね……」
高橋さんは競合のこともさり気なく意識しているような言い方をした。もしかしたら彼は以前、広通に痛い目に遭わされたのかもしれない。
撮影前に俺たちは衣装に着替えた。まず俺たちはスーツ姿になる。数年前に失われてしまった気もするがフレッシュマンにでもなった気持ちだ。
「はー……。なんか似合ってるかどうかよくわかんねーよ」
ウラはスーツに着替えるとため息を吐きながら会議室の椅子に腰掛けた。
ウラの年齢はまさに就活生とドンピシャだった。さらに黒髪をポニーテールにしていると本当にどこかの大学生のように見える。企画の趣旨としてナチュラルメイクしているためか、無理して大人ぶっている高校生にさえ見た。あまり意識したことがないが、ウラは童顔なのだ。
「いやいや、なかなか似合ってるよ京極さん。弊社で雇いたいくらいだ」
「アハハハハ、ジュンありがとー。でも御社で出来る仕事なんて私にあるかしら?」
無駄な戯れ。
「みんなスーツ似合ってていーなー。俺本当に似合ってない……」
七星は苦笑いを浮かべながら姿見の前に立っていた。確かにまだ着慣れていないせいか、スーツに着られている。
「にしても……。大志はスーツ似合うよねー」
「似合うっていうか、俺はいつも着てるから着慣れてるだけだと思うぞ?」
「うん……。つーか大志は大学生の頃から似合ってた気がすんだよねー」
そんな生産性のない会話をしている俺たちを余所にスタッフたちは走り回っていた。機材と舞台セットがすごい勢いで並べられていく。
「はーい! お待たせしましたー! では撮影入りまーす!」
高橋さんに呼ばれて俺たちはカメラの前へと移動した……。
撮影開始。
撮影は滞りなく進んでいった……。と言いたいところだが、やはり俺と七星が足を引っ張った。ウラとジュンは段取りが頭に入っているようで要領よく動いていた。俺もどうにか考えながら撮影していたが、ところどころ指摘された。
一番の問題は七星だ。一生懸命やっているのはわかるのだけれど、何回も撮り直しを余儀なくされた。その度ウラが七星に怒る。
「だーかーらー!! 何回言ったらわかるんだよ! スタッフさんに迷惑かけんじゃねーよ!」
「ごめん! 次は気をつけるから!」
「次は、次はって何回ミスってんの? 学習しろよ学習!」
最初の頃は優しく注意していたウラも段々声が苛立ってきているようだ。この2人の絡みを見慣れている俺とジュンでさえ引くぐらいウラは七星を責め立てていた。
「はーい! お疲れ様でーす! 次のスタジオ段取りしますのでそれまで休憩でーす」
俺たちは高橋さんに言われて休憩に入ることにした。七星はよほどショックだったのか俯いて端っこの方に行ってしまった。さすがに気の毒だ……。
「あのよーウラ! 気持ちはわかるけどあそこまで言うことねーだろ? 七星すっかり萎縮しちまったじゃねーかよ」
俺は休憩中のウラの隣に座ると彼女に声を掛けた。ウラはすっかりむくれた顔になっている。
「だってさ! 何回も私は教えたんだよ? なのにあの子は!」
「だからって苛立って解決する問題じゃねーだろ? あいつだって頑張ってるんだからそこは認めてやんねーと……」
「はぁ? なんで? 頑張ってるなら出来て当然でしょ!? 出来ないのは努力してない証拠だ……」
ウラはそこまで言いかけて言葉を飲み込むように黙り込んだ。
少しの沈黙。そして彼女は再び口を開いた。
「ああ、そうだね……。大志の言うとおり苛立ってた……。大人げねーよね」
「だろ? それに今日のお前なんか妙に気負いしてねーか?」
「否定できないかな……。正直すんごい気負ってるよ……。私たちの再起が掛かったチャンスだし……」
「さっきも言ったけど気持ちはよくわかるよ。でもどうせやるなら楽しんでやりたいだろ?」
俺の言葉の影響がどうかはわからないけど、その後ウラは七星のところに謝りに行った。 基本的にウラは真っ直ぐなのだ。その真っ直ぐさ故にはっきり物を言いすぎるところはあるけど、自分の間違いは素直に認める素直さがあった。ここら辺は10代の頃から変わらない気がする。
それからの撮影は順調に進んでいった。パンクバンドらしい雰囲気のセットでの撮影は手前味噌だが秀逸だったと思う。七星も楽しげにギターを弾いていたし、あのジュンも珍しく作り笑顔ではない自然な笑顔をしていた。
撮影終了。
「はーい! 皆さんお疲れ様でしたー! とても良かったですよ!」
高橋さんは大量の汗を流しながらも嬉しそうに俺たちに声を掛けてくれた。
「高橋さん! 今回は本当にありがとうございましたー! 初PVすっかり楽しんじゃいましたよ!」
「それはそれは! では京極さん! これから編集はいります。何か進展ありましたらすぐご連絡しますので!」
こうして俺たちの初プロモ撮影は無事終了した。はたしてどのような出来になるのだろう?




