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Track30 反撃の狼煙

「おぉー、大志君! 久しぶりやなー。今日は急に呼び出して悪い!」

 健次さんはいつも通りのテンションで俺を出迎えてくれた。

「いいっすよ! こっちこそ連絡もろくにしないで申し訳ないっす」

「いやいや、大志君の立場やったら俺には連絡できへんやろ? あの阿呆のこともあるしな……。ウラちゃんは元気しとるか?」

「ええ、お陰様であいつは元気してますよ! なんかイメチェンとか言って髪色を黒にした以外は特に変わりないです」

 ウラがギタリストとして再起不能だと言うことは健次さんには伝えなかった。伝えたところでどうしようもないし、余計な心配を掛けるだけだ。

「へー! あの子、黒髪にしたんか! そりゃ見てみたいなー。初めてあの子に会ってからずっとあのこファンキーやったから違和感すごそうやけどねー」

 健次さんは感慨深そうにそう言うと、楽しそうに笑った。彼はこれまでと何ら変わりなく俺に接してくれている。誰かさんと違って大人なのだ。

「それで? 今日はどうしたんすか? 何か用事でも?」

「いやな……。少し前にあった君らのライブでウラちゃんのギター壊れてもうたやろ? せやかな……」

 そう言って健次さんは黒いギターケースを取り出して俺に差し出した。

 俺は受け取ったギターケースを手にすると、ファスナーを開けて中に入ってるギターを取り出した。ネックを触った瞬間に妙な懐かしさを感じた。

 そのギターは間違いなく、ウラが使用していた物と同じSGだった。ウラが使っていた物と比べると若干古さは感じるが……。

「健次さんこれ……?」

「そやで! ウラちゃんの持ってるのと同じSGや! 実はずっと前に買い直したもんなんやけど、結局あんまり使わんでしまったままになっててな! 大志君! それウラちゃんに渡してやってほしいんやけど!」

 健次さんはそう言うと掌を合わせて俺に頼むような仕草をした。

「いや……。むしろありがたいっすけど……。いいんすか? 大事なギターなんじゃ?」

「かまへんよ! こいつもたーだケースにしまわれとるままより、弾いて貰った方がええに決まっとる! それにな……。俺がウラちゃんにしてやれることなんてくれくらいしかないねん!」

 健次さんはウラに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだったのだろう。感じる必要の無い後ろめたさもあったのかもしれない。だからこそ、自分にできることを彼女にしてやりたい……。

 そんな気持ちがあるように俺は感じた。彼はそういう人なのだ。

 結局、俺は健次さんからSGを預かることになった。彼の気持ちを大事にしたい。

 はたしてウラは喜ぶだろうか? 俺はそんなことを思いながらも健次さんと今後の話をしてその日は解散した――。  


 翌日、俺はウラの家を訪ねた。

 俺が訪ねたときウラは洗濯の真っ最中で、部屋に柔軟剤の匂いが充満している。ウラは洗濯物をベランダに干しながら話を聞いていた。

「そっか……。健次さん変わりなかった?」

「んー……。変わりないっちゃないけど、ちょっと痩せたようにも感じたんだよなー。気苦労もあるだろうし、あの人だってそんなに若くねーからなー」

 俺は毎度のことで、彼女の家のキッチンにある換気扇を回してタバコに火を付けた。

「しばらく健次さんとも話してなかったから心配してたんだー。まぁそんなに変わってないみたいでよかったよ」

 ウラは洗濯物の皺を伸ばしながら俺の方を見て笑顔を浮かべた。満面の笑みという訳では無いけど、本当に安心したような笑顔だ。

「それでよ……。健次さんから預かったものがあるんだ」

 俺は預かってきたギターをウラに差し出した。彼女は洗濯の手を止めるととベランダから室内に戻ってきた。

「なーに? 見た感じギターみたいだけどさ?」

「開けてみ」

 ウラは俺からギターケースを受け取るとファスナーを開いた。ネックを掴み、SGを持ち上げるとウラの瞳の色が変わった。まるで猫のように黒目の部分が大きくなったように見える。

「ななな!? なんで!? これ私のSGじゃんよ!」

 ウラは興奮しながらギターを手に取るとネックの剃りを確認するようにギターを持ち上げてた。

「それ、健次さんが昔買ったギターらしいんだ。なんか、あんまり使わねーからお前にやるとさ」

「えぇー!? そんな、悪いよー! 健次さんに連絡しなきゃ! 貰うわけにいかないよ! こんな大事な物! え!? ほんとなんで……。健次さん!?」

「いいから落ち着け!」

 ウラはかなり慌てていた。さっきは熟練された主婦のように洗濯物を淡々と干していたというのに……。

 ウラは大事そうにギターを抱えると弦を軽く撫でた。まるで幼い子がクリスマスの朝に枕元のプレゼントを開けているような嬉しそうな表情を浮かべている。

「健次さんはお前に悪いことしたって思ってるみてーだな……。あの人は別に悪くはねーんだけど、月子さんがあんなだから彼なりに複雑な気持ちなんだろうけどよ……」

「……。こっちこそ『アフロディーテ』のみんなには迷惑掛けたのに……」

 ウラはそう言いながら大事そうにSGを抱きしめた。

「一応な……。お前の腕の状態は健次さんには言わなかったよ。心配掛けてもしょうがねーし、それにお前の腕意外と早く治るかもしんねーしさ」

「うん! ありがとう大志! 絶対ギター復帰すっから!!」

 「バービナ」が絶体絶命なのは変わらない気がする。それでも不思議と助けてくれる人は確実に増えている気がした。これはウラの人柄なのか、それとも彼女の天性の運なのか?

 どちらにしても、こいつと居るとどんな困難も超えていける気がした……。

 そして転機は思わぬ方向からやってくるものだ。

 予想の遙か斜め上から――。

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