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Track26 Star Drive

「ねえ大志? 京極さんのことだけどさ」

 ウラを自宅まで送った帰り、俺とジュンは「バービナ」の今後について話し合っていた。

「ぜってーやめさせねーよ! アイツがいなけりゃ俺たちのバンド意味ねーし!」

「それは俺も同じだよ! ただ、問題は京極さんがギター弾けないってことなんだよね……。だから建設的に『バービナ』のこれからについて考えたいんだ!」

「何が言いたい?」

「簡単に言えば、代わりのギタリストを入れないといけないと思う。京極さんにはとりあえずヴォーカルに専念してもらってさ! というか……。それ以外ないよね」

 たしかにジュンの言う通り、代わりのギタリストを追加すれば今回の問題は解決するだろう。ウラがギターを弾けない以上それ以外の選択肢はないと思う。だが……。

「でもよー。ウラが納得しねーんじゃねーのか?」

「それが問題だよね……。それに京極さんクラスのギタリストはなかなか見つからないだろうしね……」

 京極裏月クラスのギタリスト……。それも大きな問題だ。ウラはあんな風にしていてもハイレベルなギタリストなのだ。彼女と同レベルのギタリストを探すこと自体かなりの難題だ。

「まぁ……。それでもやるしかないだろうね……」

「だな……。ウラが認めて且つ、ウラクラスのギタリストを……」

 翌日から俺とジュンは知り合いの伝手を辿ってたギタリストを探し始めた。対バンしたバンドに連絡をとってフリーのギタリストを探し回った。

 何人か候補になりそうなギタリストは見つかったが、今イチ決め手に欠けていた。

 たしかにどのギタリストも技術だけなら問題がないとは思う。しかし、ウラの代役となると……。

「あーもう! なんか違うんだよなー! どのギタリストも悪くわねーんだけど、なんか違う気がする」

「そうだよね……。京極さんと比較しちゃうとどうしてもねー」

 俺とジュンは紹介で集まったギタリストのリストを見ながら頭を抱えてしまった。

「とりあえず……。妥協も含めて誰にするか決めようか? そうしないことには動き出せないしさ」

 こういう時ジュンは、グレーゾーンでの決断がうまいと思う。俺やウラは白黒で決めたい質だが、ジュンはバンドの運営をする前提で考えているようだった。

 とりあえず、候補者を3人に絞った。週末にこの3人と話をしてバンドへの加入の打診をすることになった。不本意ではあるが……。

 そう決まった日の翌日、俺はウラにこのことを伝えるために彼女のマンションへと向かった。

 ウラの家を訪れるのはこの前の瀬田の話を聞いた時以来だ。あの時に比べれば彼女すっかり元気になった気はするが、腕の負傷でまた落ち込んでいるかもしれないと思った。

 俺が彼女の部屋のインターホンを押すと、ドアフォンから男の声が聞こえた。

「はーい!」

「あれ? すいません家間違えました……」

「あ! 間違ってないっすよ! 大志さんちょっと待っててくださいねー」

 ドアフォンの音声がプツリと切れ、玄関にドタドタと走って来る足音が聞こえた。

「どうも! お久しぶりです」

 ドアが開くとそこには見覚えのある顔があった。高嶺七星だ。

「……。久しぶり、七星君来てたんだ……。ウラは?」

「いますよー。どうぞ上がってください! 俺んちじゃないけど!」

 俺は七星に案内されるままにウラの家に上り込んだ。

 彼女の部屋のリビングに入るとウラが退屈そうにテレビを見ていた。

「やあ大志。来るなら連絡ぐらいくれればいいのに」

「悪い、急に来ちまったよ。迷惑だったか?」

「構わないよ。うるさい従兄弟1人いるだけだし、私暇してたしさ……」

 ウラはそう言って七星の頭を軽く小突いた。

「ひどいよ! せっかく春休み入ったから遊び来たのにさー」

「あー本当にうっさい子だねー! 暇ならルナんとこでも遊び行きゃいいじゃん!?」

 ウラは本当に面倒くさそうに七星の相手をしていた。

「あーあ、せっかくウラちゃんにギターレッスンしてもらおうと思ってきたのにさ!」

 七星はウラにすがるようにそう言うと、残念そうに座り込んだ。

「で? 大志何か用事があったんでしょ? バンド絡みでさ」

「ああ、実はな……」

 俺はウラにジュンと話し合って決めたことを伝えた。彼女は穏やかな表情で黙って話を聞くと、口元に手を当てて少し考え始めた。

「どうする? お前が新メンバー入れたくねーなら無理にとは言わねーけど、とりあえずのギターは必要だろ?」

「言いたいことはよくわかったよ。そうだね……。さすがにギターは必要だもんね……」

 ウラはその言葉とは裏腹にあまり気乗りしていないようだった。

「あくまでお前がギター復活するまでの繋ぎだからさ! 新メンバーにもそれは判ってもらうよ!」

「大志さー。それって新しくバンド入ってもらう人に失礼だと思うよ。せっかくウチらのバンドでやってもらうなら繋ぎとかじゃなく、ずっとやってもらうつもりで入ってもらわなきゃだしさ」

 確かにウラの言う通りだ。ギタリストを募集してウラが復活したら、ハイサヨナラじゃあまりにも酷過ぎる。

 俺とウラがそんな風に打ち合わせをしている横で七星は退屈そうにスマホをいじっていた。

「いーなー。ウラちゃんも大志さんもバンドすげー羨ましい!」

「あんた何聞いてたの!? 私は今ギター弾けないんだよ! だから新しいメンバー探そうって話し合ってたんじゃん!」

「でもさー。ウラちゃん頑張ってリハビリするって言ってたじゃん! だったら大志さんの言う通り新しいギター探してやればいいだけじゃないの? なんだったら俺が新しいギターになってもいいし!」

 七星はそう言うと俺に「ねっ」と同意を求める様に笑ってきた。

「はぁ……。大志こいつになんか言ってやってよ! ほんと自由人だし……。誰に似たんだか……」

 俺は内心、ウラと七星は感性が似ていると感じていた。どちらも自由奔放で好き勝手生きていくタイプだ。まぁ実際ウラは社会経験があるから少しは大人になった気もするが。

「ねー大志さーんお願いしますよー! 新メンバーまだ決まってないんだったら選考だけでも! ねっ!」

「その前に……。七星君? ギターどの程度弾けんの? 選考も何も素人レベルじゃ話になんないからな……」

 俺がそう言うと、七星はウラの部屋の片隅に置いてあるテレキャスターに手を伸ばした。

「へへっ! じゃあ弾いてみますよ!」

 七星はそう言うと、アンプにも繋いでいないギターで演奏を始めた。曲はどうやら俺たちのバンドの『DAYS』という曲らしい。

 七星は楽しそうに俺たちの曲を走り抜ける様に演奏していった。驚いたことにその弾き方はウラのそれとさほど遜色がないほどだった。

 演奏が終わると七星はどや顔で俺の方を向いた。

「どうでした! 悪くはなかったでしょ!?」

「……。正直驚いてるよ。ウラの演奏にすげー似てた」

「だって俺『バービナ』の曲は全曲練習しましたからねー。技術的なことは分からないけど、ウラちゃんの作ってる音にできる限り似せてますからね!」

 ただのコピーだとしても大したものだ。俺たちのバンドの曲をここまで完璧に演奏できる奴は俺が知る限りウラだけだ。

「だからいーでしょー! 大志さんお願いしますよー」

「そうだな……」

 俺がそう言いかけると、ウラが口を開いた。

「話になんない!」

 ウラはそう言うと、七星に詰め寄って彼の頬を指で思い切り引っ張った。

「痛ててててて。ちょっとウラちゃんやめてよ!」

「本当にあんたは! なんでもっと早くギター弾けるって言わなかったの!? したらもっとみっちり練習させたのにさ!」

「えー、弾けるって言ったじゃん! でもウラちゃんには流されちゃったし……」

 それからウラは七星に手取足取り、自分のギターの弾き方について教え始めた。

 結論を言うと、ウラは七星をバンドに迎えると決めたようだった。彼女はなんだかんだ言っても従兄弟は可愛いらしい。

 やれやれだ……。

 一週間後、ウラは正式に七星をバンドに迎え入れると決めたようだった。

 俺とジュンはウラに呼び出されて、都内の音楽スタジオへと向かった。

「あー! 大志さんこの前はどうもでしたー。ジュンさんもこんにちはー」

「お疲れ! あれっ? ウラは?」

「今来ますよー」

 俺たちは七星と話しながらウラが来るのを待つことにした。スタジオの待合室のベンチで話し込んでいると、向こうから黒髪をポニーテールにした女の子と俺たちの方に向かって歩いてきた。

「お疲れみんな! 今日は来てくれてサンキュー」

「なっ!?」

 俺とジュンは同時に声を上げた。

 その女の子がウラだと気づくのにコンマ何秒か掛かった気がする。

「エヘヘ。黒にしちゃったよ。こうすると私も割と真面目に見えんじゃね?」

「驚いたなー。京極さんすごいイメチェンだねー」

「でしょー! 高校んとき以来だから何年ぶりの黒髪かなー? 大志どう? 似合うかな?」

 俺はそんなウラの姿をまじまじと見てしまった。こうして見るとウラはかなり可愛らしい。そして言うまでもないが、彼女の妹と瓜二つだった。

「ああ、似合ってるよ……。でもお前どうして……?」

「理由を話す前に新メンバーを紹介するよ! まぁ2人ともよく知ってるだろうけどさー」

「どうも高嶺七星です! 改めましてよろしくお願いします!」

「はい! 七星よくできました! という訳だからこれからよろしくねー」

 形式的な挨拶を済ませた後、ウラは真面目な顔になって俺たち3人に話し始めた。

「えーと……。今回、私の怪我が原因で『バービナ』に新メンバーが加わることになったわけだけどさ。それに伴って私も決意を新たにしようと思ってね。」

 そう言いとウラは一つ大きく息を吸った。

「私は長い間『アフロディーテ』に縛られて生きてきたんだ。でも今回のバンド新生をきっかけに完全に決別しようと思う。私はずっと月子さんに憧れてたんだ。だから彼女の若い頃のような髪型もしてたし、メイクも彼女の真似をしてきた……。でもそれもお終いにしようと思う! だから今回髪型とかメイクとかも自分らしいものに変えたんだ! すげー地味だけどさ」

 ウラはそう言ってニッコリと笑った。

「まぁ、とりあえず七星には『バービナ』のサポートギターになってもらうことにしたよ! 本当はリードギターなんだろうけど、この子も私にリードギターはさせたいみたいだからさ」

「うん! ウラちゃんがリードギターで俺がサポートでいいと思うよ。だってやっぱり『バービナ』のギタリストはウラちゃんだからね!」

 やれやれだ。納まるべくして納まったようだ。

 ずっと暗闇を彷徨っていた裏月はようやく日の当たる所に戻ってこれたのだろう。

 その日、長かった月食が終わり、月の光がまた地上を照らし始めたようだった。

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