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Track24 voyage2005~2016

「お疲れ大志! どう北海道は?」

 ジュンはいつもの調子で俺に尋ねてきた。

「今んとこは順調かな? ウラもノリノリだし問題ねーと思うけど」

「ならよかったよ。ほら、京極さんまだ病み上がりだし、こっちじゃすっかり干されてたから心配してたんだ」

 ジュンはそう言うと、安心したように笑った。

「実際どうなのかはわかんねーけどな。やっぱり『アフロディーテ』には多少未練があるようだしな……」

 おそらくウラは古巣にホームシックを起こしているのだろう。いくらブラックな職場環境だったとしてもウラにとって『アフロディーテ』は掛け替えのない場所に違いないはずだ。

「まだ1か月くらいしか経ってないしねー。京極さん自身まだ気持ちの整理はついてないのかもね……。明日は大志も出るんでしょ?」

「一応はな……。キーボードとベースは会場で用意してくれるらしいけどドラムだけ俺に担当しろとさ。うちの女王様からの希望だからやらねー訳にもいかないかんなー」

「大志愛されてるなー。俺も行ければよかったんだけど今回は悪かったね。今度穴埋めするって京極さんに伝えといてよ! それはそうと……。大志もうすぐ京極さんとも約束の期限になるけど……」

 ジュンは恐る恐るそう言うと、俺の返事を待つように電話口で黙り込んだ。

 俺たちがバンドを結成してもうすぐ丸5年になる。俺とジュンでウラをバンドに引き入れてからちょうど5年だ。あの当時は5年は長いと感じていたが、今思い返すと早かったようにも感じる。

 当時のウラは、俺たちのバンドに加入するために2つの条件を提示してきた。1つ目はバンド名の命名権。これはウラが速攻で決めて『The birth of Venus』というバンド名になった。

 そしてもう1つの条件が、5年以内にこのバンドでメジャーデビューを果たすというものだった。これは未だに叶えられていなかった。

「そうだな……。もうあと1か月もすれば『バービナ』結成5周年だしなー。未だにメジャーの『メ』の字もないのはいただけないよなー」

「覚えていてよかったよ……。もし叶えられなかったらどうするつもり? まぁ京極さんなら笑って許してくれそうな気もするけどさ……」

「どうにかするよ……。もし出来なかったら俺らのバンドは解散するしかねーしさ。あの時だって軽い気持ちであいつの条件受けたわけじゃねーんだ! お前の言う通り、ウラならきっと笑って許してくれるだろうけど、それじゃあまりにも不誠実すぎるだろ?」

 俺がそう言うと、ジュンは電話口で大笑いした。

「ハハハ! カッコいいこと言うね大志! そうだよね。たしかに誠実さは大事だ。でも現実問題としてお前どうすんのかなーって思ってね」

「ジュン……。俺は大真面目にメジャーデビュー目指してんだからよー。そんな笑うんじゃねーよ。たしかに今の状況は最悪に近いし、八方塞がりだけどどうにかするしかねーんだからさ」

「大志は昔から変わらないなー。俺がバンド組みたいって話したときもそんな風に熱かったよ」

「そうだったか……? よく覚えてねーけど」

「いやいや、なかなか熱かったよ。まぁいいや! とりあえず東京戻ってきたら作戦会議だね! 本格的に『バービナ』を売るために本気で考えよう!」

 ジュンはそう言うと電話を切った。

 ジュンとの電話が終わると俺は客室の窓を開けてマルボロに火を着けた。

 思い返せばジュンともすっかり腐れ縁だ。俺があいつと出会ったのは本当に幼い頃だった。ジュンとはたまたま家が近く、幼いころからよくお互いの家を遊び場にしたものだった。

 子供の頃の俺は割と外でサッカーや野球をして遊ぶのが好きだった。近所の公園に友達と集まっていつも何かしら体を動かして遊んでいた。

 一方ジュンは完全にインドア派だった。奴はテレビゲームをしたり、本を読んだりするのが好きであまり俺と一緒に外では遊ばなかった。

 それでも俺たちはいつも一緒に遊んでいた。趣味嗜好が全く違う俺たちは畑違いもいいところなのに一緒に居ることが苦痛ではなかった。


「やぁ大志、今ちょうどばーちゃんたち出かけちゃったんだー。今日はプレステし放題だからゆっくりしてきないよー」

「よっしょー! じゃあテイルズやろうぜー。今日こそ召喚獣手に入れてやる!」

 俺たちはまだ10歳でその当時流行っていたRPGに熱中していた。俺はジュンと一緒にテレビに食い入るように勇者のレベルを上げまくっていた。

「やっぱテイルズおもしーよなー! 毎日やっても飽きねーよ」

「大志はRPG好きだもんねー。あ、お金貯まったし最強装備そろそろ変えた方がいーんじゃない?」

 俺たちは一通りダンジョンを巡り終わるとさすがに疲れた。子供特有の集中力で気が付くと4時間以上やり込んでしまったようだ。

「やっべ! そろそろ帰らねーと!」

「そうだねー。また明日やろー」

 そんな風にして俺とジュンは毎日RPGのレベル上げに明け暮れていた。学校が終わると俺はジュンの家に直行して一緒に勇者になってダンジョンを攻略して行ったわけだ。俺の母親には小言を毎日言われたけどそんなこと気にせずにやり続けていた。

 俺たちが中学生になる頃にはゲーム熱はすっかり下がっていた。

ジュンが自分用のベースを買ったのはちょうどその頃だ。

「おめーギターなんか始めたのかよ! キザったらしいよなー」

「違うよ大志。これはベース! ギターとは別物だからさぁ。大志も何か楽器やったらいいじゃん?」

「俺、楽器とか出来ねーよ。興味持ったこともないし、たぶん向いてねーと思うなー」

「そーかなー? とりあえずやるだけやってみたら? ゲームだって最初は乗り気じゃなかったのに今は大志の方がやり込んでるしさぁ」

 その時の俺は本当に楽器に全く興味がなかった。音楽の授業も真面目に聞いた試しがないし、リコーダーさえまともに吹けなかった。

 それでもジュンに半ば押し切られるように楽器をやる羽目になった。(おまけにジュンに無理やり楽器店に連れていかれた。)

 ジュンに無理やり連れていかれた楽器店には色とりどりのギターやベース、キーボードなどが所狭しと飾られていた。

「大志は何やりたい? 俺がベースだからできればギターとか始めてくれると助かるけど……」

「助かるって……。お前俺と一緒にバンドでも組むつもりかよ!?」

「へ? 当然そのつもりだったけど?」

 やれやれだ。ジュンは穏やかそうに見えて時々こうやって強引に話を進めたがる。

 結局俺は、ジュンに言われるままギターを試弾きしてみた。

「あー!! マジ指が動かねーよ! こんなもん出来っかよ!」

「まーまー。最初は誰だってそうだって! とりあえず入門用に安いギター買って練習でもしなよ」

「正直やりたくねーなー」

「しょうがないなー。じゃあ他の楽器はどう?」

「いやいや、こんなチマチマ指を動かすの俺無理だから! つーか俺細かいの嫌いだし!」

 俺がそう言うとジュンは呆れたようにため息を吐いた。

「じゃあさー。適当にドラムでも叩いてみなよ! 俺のベースと同じリズム隊だし、大志みたいな単細胞にはその方が向いてるかもしんないよ?」

「誰が単細胞だ!」

 俺は文句を言ったが、そんなことお構いなしに練習用ドラムセットのコーナーまで連れていかれた。

「で? どうやるんだ?」

「とりあえず大志は説明するよりやって見せた方が早いから俺が見本見せるよ」

 そう言うとジュンはドラムセットの前に腰を下ろした。

「まず、ドラムセットの名前だけは説明しとくよ。この大きいのがバスね! で、こっちがスネア、それでこれは……」

 ジュンはドラムセットについて簡単に説明をしてくれた。残念ながらその時は全く覚えられなかったけど。

「で、スティックをこう握ってこんな風に叩いていくんだよ」

 そう言うと、ジュンは遅いペースでドラムを叩き始めた。

「お前なんでも楽器できんのかよ!?」

「なんでもって訳じゃないよ? えーと、ベース、ギター、ドラム、ピアノ、フルートくらいかなー」

「十分すぎるだろ!? お前今まで楽器できるなんて一言も言ってなかったじゃねーかよ?」

「小さい頃にマリさんに教わったんだよ。あの人、もともとは歌手になりたかったみたいでねー。だから一通り教えられちゃった」

 ジュンはそう言うと、ドラムスティックを俺に手渡してきた。

「とりあえず見様見真似でいいからやってみなよ! 力いっぱい叩くと楽しいよ」

「しゃーねーなー」

 俺は渋々ドラムセットの前に座り、見様見真似でドラムを叩いた。

 思い返せば、あの時ジュンは俺に手取足取りドラムの叩き方を教えてくれた。見様見真似でやっている俺に飽きることなく付き合ってくれた。

「いいじゃん大志! 初めてなのにうまいよ!」

 それから気が付くと俺は、約1時間楽器店内でドラムの練習をしていた。

「はー。疲れちったよ……」

 俺は息を切らしながらジュンの顔を見た。妙にニヤニヤ笑っている。

「よし! そしたら大志はドラムで決定だね!」

「勝手に決めるな……。でも思ったより楽しかったから始めてもいいかもなー」

 ジュンに半ば無理やり勧められたドラムだったけど、気が付くと俺も夢中になっていた。

 俺はジュンほど熱心じゃなかったけど(実際ドラムセットを購入するほど金もなかった)細々とドラムの練習をしていった。

 俺とジュンは同じ高校に進学した。ここまでくるといい加減腐れ縁だ。

 その頃には俺もバイト代が入るようになって多少は自分で使える金もできた。

「ようやく自分用のドラム買えたんだね」

 ジュンは感無量といった感じで俺にそう言うと肩をポンと叩いてきた。

「おぉ! やっと買えたよ! これでやっとバンド活動とかできそうだよなー」

「そうだねー。あとはせめてギタリストくらいはほしいなー」

 だが、そこからが長かった。俺もジュンも必死に楽器の練習に明け暮れたけど、ギター担当が見つからなかった。

 気が付くと俺たちは高校3年間はギターなしのバンドもどきとして練習するだけになってしまっていた。

 高校を卒業すると俺とジュンは人生で初めて違う大学に通うことになった。

 ジュンは大学内の軽音サークルで活動を始め、俺はサークル活動はしないものの、自分なりにドラムの練習をこなしていた。週末になると地元のM駅前にあるマルイの地下の楽器店の練習スタジオでジュンと一緒にセッションをした。

 そんな風に学生生活を満喫しながら、俺もジュンもギタリストを探し続けていた。

 大学の1年も残りわずかとなった2月、俺はいつものように例の楽器店を訪れていた。店内をなんとなく物色していると、ギターコーナーから聞き覚えのあるメロディが聞こえてきた。その当時、俺とジュンがハマっていたバンド『アフロディーテ』の『デザイア』という曲だ。

 俺はその音色に吸い寄せられるようにギターコーナーへと向かって歩いていった。

 『デザイア』を弾いていたのは思いのほか若い……。というより幼い少女だった。

 彼女は集中しているのか、俺が近づいたことに全く気付かずに演奏を続けていた。

 彼女の演奏は恐ろしく上手かった。ジュンもギターを弾けるけど、この少女ほどではない気がした。

 その少女の容姿はかなり個性的だった。特に髪型は半分金髪で半分黒髪というどこぞのユーチューバーを彷彿とさせるものだった。

 『デザイア』の演奏が終わると彼女は大きなため息を吐いた。

「ギターうまいね」

 気が付くと俺は彼女に声を掛けていた。彼女は一瞬驚いた顔をしたが、それからそっけない感じで答えた。

「あ、どうも」

「今の曲、『アフロディーテ』の『デザイア』だよね?」

「ええ、そうっすよ!お兄さんも『アフロディーテ』聞くの?」

「ああ、聞くよ! つーかドはまりしてる!」

「そうなんだねー。お兄さんも楽器やんの?」

「やってる! 俺はドラムだけどさ! 今は幼なじみと一緒にバンド組もうって話してるんだ! そいつはベースだからあとはギターいるといいんだけどさー」

「ふーん」

 やはり彼女はそっけない。でもその時俺はこの女がバンドに必要だと確信していた。

「君さぁ、良かったら一緒にセッションしてみねーか? 俺らのバンドのギタリスト探しててさ! 相性よければ一緒にやりたいんだ!」

「見ず知らずの男とバンド組むような奴いっと思うの?」

 そう言うと彼女はガンを飛ばすように俺を睨んできた。

「そんなこえー顔すんなよ! 縁って大事じゃね?」

「私は知らねー男から身を守る方が大事だね!」

「わーったよ! まぁしゃーねーな! まぁ気が向いたら連絡くれよ。これ俺らの連絡先だから」

 俺は半ば無理やりメモに携番を書いてその少女に渡した。

 その日、俺は速攻でジュンに連絡した。

「ジュン聞けよ! 今日すげー女の子に会ってよー!」

「へぇ、なにナンパでもしたの?」

「ちげーよ! すげーギターのうまい女の子だったんだ! 思わず携番渡しちまった」

 俺がそう言うとジュンは呆れたようにため息を吐いた。

「別に構わないけど、あんまり期待しないほうがいいんじゃないの? 今までだって俺らギタリストに恵まれなかったじゃん?」

 ジュンは酷く冷めた言い方をした。

「でもあの子がバンド入ってくれたらすげーと思うんだ! 連絡こねーかなー?」

 運命の悪戯。

結果から言うとその少女が今現在の俺たちのヴォーカル兼ギタリストになったわけだが……。

これに関してだけは俺も『運命』というものを信じたくなる。

 それから1か月後、俺たちは『バービナ』を立ち上げることになる。最初ノリが悪かったジュンもウラとセッションしてからは彼女を評価するようになった。


 俺はホテルのベッドに横になるとバンド結成からの、この5年間を思い返していた。バンド活動もそれ以外もいつもウラとジュンが近くにいた気がする。

 果たしてこれからもあの2人と一緒に居られるのだろうか?

 理由は判らないが俺は妙な不安に襲われた。

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