パンデモニックプラネット3
翌日。私のマンションの下にけたたましいエンジン音が鳴り響いた。どうやらヒロさんが迎えにきたらしい。「お待たせ」
「あんたなー。ええ加減にした方がええで? めっちゃ近所迷惑やで」
「ああ、気ぃつけるわ。じゃあ逢夜ちゃん借りるで」
母とヒロさんはマンションの前の幹線道路でそんな話をしていた。気をつけるというヒロさんは全く悪びれる様子がない。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。したら逢子夜には帰るからな」
母は「ああ、気ぃつけて」とだけ返すと気だるそうに手を振った。
ヒロさんの車が発進する。彼女はシフトノブを1速に入れると一気にアクセルを吹かした。母の言うとおり、かなり迷惑だと思う。
「今から池袋寄ってくで。竹井くんちあっちやねん」
「わかりました」
ハンドルを握るヒロさんはとても機嫌が良かった。カーステレオから流れる洋楽のリズムに合わせてリズムを刻むようにハンドルをタップしている。
「ああ、言い忘れとったけど今日は竹井くんの奥さんも一緒やけど大丈夫か?」
「え!? そうなんですか?」
「そや、まぁ……。さすがに若い女の子も一緒やからな。奥さんも心配なんやろ」
竹井くんの奥さん……。いったいどんな人だろう。
「私は大丈夫です……。むしろ奥さんのほうが気を使いそう」
「そうでもないと思うで。愛衣ちゃんゆーんやけええ子やから安心してええよ。ま、逢夜ちゃんとはタメやし私より仲良くなれるかもしれんね」
母から聞いていた話だと竹井くんの奥さんは私と同い年の法学部の学生らしい。なんでも司法試験を通過して検事になるとか。
「そうですね。仲良くなれたらいーなー。ヒロさんは奥さんと仲良いんですか?」
「うーん……。仲良いゆーたら変やけど、まぁ普通には話すで。愛衣ちゃんは誰にでも優しいからな」
「安心しました……。会って嫌な顔されたらさすがに困っちゃうので」
「それはないから安心してええで」
ヒロさんの車は相変わらずけたたましい。正直な話、お世辞にも乗り心地が良い車ではないと思う。
20分ほど走ると池袋の街にたどり着いた。ひさしぶりにきたけれどやはりごみごみしている。
「池袋ひさしぶりです」
「逢夜ちゃんあんま池袋に来ないんや?」
「来ないですね。1年くらい前に彼氏とサンシャイン行ったの最後です」
『その彼氏とは別れたけど』と心の中だけで呟く。
「まぁ、逢夜ちゃんちの方からやとわざわざ来るような場所でもないかもしれんね。2人は西口で待っとると思うで」
街を歩く人たちはせわしなく通り過ぎていった。派手なメイクの女の人や柄の悪そうな男の人が多いように感じる。
西口にたどり着くとヒロさんは車を停めた。彼女はサイドブレーキを引くと「ふぅー」とため息を吐く。
「今LINEしたからもうすぐ来ると思うで」
「はい! ちょっと緊張しますね」
心音が早くなる。あまり意識していなかったけれど緊張してるようだ。
そして、見慣れた顔の男の子と元気そうな女の子がこちらに歩み寄ってきた。遠目に見ても理想的なカップルに見える。




