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ヘカテーブライド2

 7月6日。曇天。僕は舞洲さんをドライブに誘ってみた。愛衣は「いいから行ってきて」と快く僕を送り出してくれた。籍を入れたって何も変わりはしないらしい。

 いつも通り、舞洲さんは僕のアパートの前にS15を横付けした。

「今日はどうもな」

「いえいえ、こちらこそです」

 舞洲さんは2ヶ月前に比べて髪が伸びた。僕の知る限り、彼女がここまで伸ばしたのはこれが初めてだ。ショートボブ。今までの中性的なイメージから一気に女性的になった気がする。

「竹井くんおめでとう! もっと早くお祝いしたかったんやけど、色々忙しくてな」

「大丈夫ですよ。『レイズ』さんツアーの準備で忙しいですもんね」

「せやねん。今回は特にな……。知っとるかもしれんけど、亨一くんも今回のツアー参加するんよ」

「伺ってます。なんか急ですね。佐藤さんもよくOKしたなーって」

 三坂さんとこの件で話したのは今から2ヶ月前だ。それからあっという間にツアー日程が組まれたとすれば、かなり急だと思う。

「それはな、逢子が急遽決定したんや。亨一くんはもっとゆっくりがよかったみたいやけどな……」

「なんか意外ですね。僕はもっと時間を掛けてゆっくりと関係修復するのかと思ってました」

「私もそう思っとったよ? ときどき逢子のすることはわからんねん。まぁ、大変なんは逢子と亨一くんだけやから問題もないけどな」

 舞洲さんは深くため息を吐く。これで一段落といった感じのため息。

 S15は今日も元気だ。車高が低いせいで振動は多いけど、乗っていて気持ち悪くはない。考えようによってはフィアット500よりいいくらいだ。

「せやせや。夏らしくなってきたしまた湘南行かへん? 結婚祝いにまたハンバーガーご馳走したるよ」

「ありがとうございます。じゃあ……。お願いします!」

「よっしゃ……。したら飛ばすで!」

 舞洲さんはギアを一速落とすと、アクセルを強く踏み込んだ――。

 湘南はこの前より混雑していた。サーファーが増え、カップルや家族ずれもずいぶんといる。

「もうこんな季節やね。私が湘南でバイトしとった頃は、この季節が好きやったなぁ」

「楽しそうですよね。舞洲さんはサーフィンは?」

「かじる程度かな。そこまでのめり込んではないよ。サーファーのあんちゃん連中とは割と飲んだから知識だけはあるけどな……。思い返すと楽しかったなぁ。がむしゃらやった。ハンバーガー屋で働いたり、サーファー連中と飲んだり、ドラム叩いたりな。あの頃は若かったで」

 そういうと舞洲さんは乾いた声で笑った。彼女の額にはその年月を称えるような細かい皺が浮かんでいる。

 それでも舞洲さんの瞳は少女のように輝いていた。初恋をし、やっとの思いで成就した幼い中学生のように。

 25年。言葉にすれば短いその長い年月を彼女は大切に生きてきたのだろう。普通の人間なら寄り道するであろう道を、彼女は真っ直ぐに歩いてきたのだ。ただひたすら真っ直ぐに、佐藤亨一という目印だけを頼りに。

 それは決して簡単なことではないだろう。悪い言い方をすれば彼女は愚直なのだ。愚直すぎて、端から見たら常軌を逸しているようにさえ見える。

 でも僕は、そんな舞洲さんがとても好きだった。彼女の雰囲気や考え方にとても惹かれた。

 湘南海岸は穏やかに彼女の横顔を照らしていた――。


 翌日。僕は例によって京極さんに呼び出された。

 僕のパートナーも一緒に……。

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