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ヘカテーブライド1

 7月。僕たちは書面上入籍した。結婚式はまだしていない。愛衣と話し合った結果、式は卒業後に行うことになった。

 だから結婚したという自覚はあまりない。一応、一緒に住み始めたものの特に変化はなかった。

 両親同士は酷く驚いていた。特に愛衣の父親は酷く動揺し、「ほんとか?」と何回も僕に聞いた。残念ながら本当です。ごめんなさいおじさん。

 それでも義父母は僕を受け入れてくれた。まぁ、言葉を話す前からの付き合いなので当然かもしれない。

 逆に僕の家の両親のリアクションはあまりなかった。父に関しては「やっとか……」と何やら納得さえしているようだった。

 あまりに急な展開に僕自身(おそらく愛衣も)ついて行けていない気がする。

 『バービナ』のメンバーも大学の友人たちもかなり驚いていた。京極さんを覗けばだけど。

 そんなとき、僕は大叔母から呼び出された。場所は例の喫茶店だ。

「おめでとうのんちゃん。若いっていいわね」

「ありがとうございます」

 大叔母は微笑み、コーヒーに口をつけた。

「愛衣ちゃんってのんちゃんの幼なじみよね? この間、見たけど素直そうでいい子そうじゃない」

「ええ、まぁ……。ちょっと気が強いところもありますが……」

「フフフ……。やっぱりあなたも尻に敷かれるタイプね」

 大叔母は美味しそうにタバコの煙を吐き出した。

「あの……。それで今日はどういったご用件ですか?」

「あら? 別に用事なんてないわよ。強いて言うならのんちゃんにお祝い言いたかっただけ」

 大叔母は左耳のピアスを触りながら口元を緩めた。この仕草をするとき、だいたいこの人は嘘を付いている。

「あの……。父から聞いた話なんですが……。僕としては『ニンヒア』に就職するつもりはありません。もちろんこれからも『バービナ』で活動はします。でも、将来は研究職に就くつもりなので」

 僕は思ったことを素直に伝えた。おそらく大叔母は僕を丸め込むつもりで呼び出したのだ。

 大叔母の考えていることはだいたい分かる。僕が『ニンヒア』に入れば、強制的に『バービナ』として活動させられるからだ。

「そう……。残念ね。あなたにはゆくゆくは私の後継者になってもらいたかったんだけど」

「本当にすみません」

「まぁいいわ。あなたは昔っから言い出したらきかないものね。それはそうと……」

 大叔母はバッグからクリアファイルを取り出すと僕に差し出した。

「何です?」

「別の事務所だから『ニンヒア』にはあまり関係ないけど、一応のんちゃんにも渡しておこうと思ってね。あなた三坂逢子さんに会ったんでしょ?」

「ええ、まぁ」

 僕は生返事するとクリアファイルを開いた。中には『レイズ』の全国ツアーのフライヤーが入っている。

「私も迂闊だったわ。まさか彼女たちがこのレベルまで成長するとは思ってもみなかった。あの頃は若かったけど、それにしたって失敗だわ」

 大叔母は目尻を指で摘まむと首を大きく横に振った。『レイズ』。大叔母が逃した大きな魚。

「たしか昔に『ニンヒア』のオーディションに三坂さんも出たんでしたね」

「そうなのよ。あのときは月子と三坂さん両方出てくれたの。それで……。私は月子を選んだ。まぁ、今となってはその両方とも切れちゃったけどね」

 大叔母は本当に後悔しているようだ。まぁ、それはそうだろう。今や『レイズ』は国内最大手のバンドの1つになってしまった。

「そうですよね……。もし三坂さんたち残してたら『ニンヒア』はもっと大きくなってたかもしれませんもんね」

「ほんとにね。……。それはそうと、出演者の欄見て!」

 大叔母に促され、僕は出演者の欄に目を通した。

 三坂逢子、羽島繁樹、舞洲ヒロ、佐藤亨一……。

「佐藤さん出るんですね」

「そうなの! すごく意外よね!? うちの事務所でも彼のこと囲ってしまおうとしたんだけど無理だったから……」

 次の『レイズ』のツアーで佐藤さんが出る。半信半疑だったが、どうやら本当のようだ。

 大叔母の話を聞きながら僕は思った。舞洲さんにもう一度連絡してみよう。

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