表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/163

ヘカターラバーズ6

 プロポーズ大作戦決行の日。私と希望は実家に帰省した。中央線での移動は久しぶりだ。

「ヘカテーさん忙しいって?」

「みたいだね。なんかラジオのレギュラー決まったみたいでさ」

 『バービナ』の中でもヘカテーさんだけはいつも多忙だった。他のメンバーは呼ばれなくても、雑誌の記事やラジオなんかには彼女1人で出ているらしい。ジュンさんはともかく、七星くんと希望はそれほど露出はしていないようだ。

「へー。やっぱり忙しいんだね。のんちゃんもラジオ出ればいいのに」

「僕は出ないよ……。京極さんにゲストで呼ばれてるから来月末に1回だけ行く予定だけどさ。正直あんまり出たくはないかな」

 希望は面倒くさそうにうなじを掻いた。きっと本心から行きたくないのだろう。希望はそういう人間だ。インドアでメディア露出を好まない。

 中央線はリズムを刻むように揺れた。向かいの席の学生カップルは目に見えてイチャイチャしている。恋人ってあんな感じなのかな……。と私は思った。身を寄せ合い、周りの目など気にならない。そんな関係。

 私と希望もああなるのかもしれない。

 ああなりたいのかもしれない。

 ワタシハヨクボウノママニソウオモッタ――。

 国立駅に到着すると、懐かしさを感じた。高校時代は毎日乗っていたはずなのに妙によそよそしく思った。

「ここら辺も変わったね……」

 希望は赤い三角屋根の駅舎を見上げてそう呟いた。駅舎がリニューアルしてもうかれこれ1年になる。私たちが高校生の頃は工事中だった駅舎も、今はすっかり景観に馴染んでいた。

 私たちの実家は駅から15分くらいの場所にあった。子供の頃はすごく長く感じたその道のりも大人になった今は短く感じる。街路樹は柔らかい新芽を付け、新しい季節を告げているようだった。新芽、新しい季節、そして五月病の始まり。希望と不安を詰め込んだような色だ。

 空気は澄み、あの冬の寒々しさはすっかりなくなったように感じる。同じ東京なのに池袋とは全然違う。あの街も嫌いではないけど、やはり私はこの街が好きだ。希望と育ち、一緒に過ごしてきたこの町が。

「懐かしいな。昔はよくここでお弁当買ってたよね」

「うん! のんちゃんオリジン昔から馴染みだもんね」

「久しぶりに唐揚げ食べたくなったよ」

 そう言いながらもオリジン弁当を通り過ぎる。

「いろいろあったねー。やっぱり私は国立好きだよ。ずっと住んでた街だし、友達もいっぱいいるもん」

「わかるわかる。僕もこっちのほうが落ち着くよ。あいちゃんは連休中誰かに会うの?」

「会うよー。蓮実とサエとトレッキング行く予定」

 他愛のない会話だ。いつもと何も変わらない。でも……。それも今晩までだろう。

 プロポーズ大作戦は今夜決行予定だ。ヘカテーさんもラジオ収録前に協力してくれるらしい。

 家に着く頃にはすっかり日が傾いていた。空が少しだけ夜に浸食されている。

「じゃあ、明日気をつけてね」

「うん。あ、のんちゃん!」

「なーに?」

 私は念のため、彼に聞くことにした。

「もし夜起きてたらベランダトークしよ? 舞洲さんの話もっと詳しく聞きたいしさ」

 いいながら私の心臓は早くなる。

「そうだね。じゃあ、起きてたらベランダ行くよ」

 さぁ、ここからが本番だ。リハーサルなしの本番。

 いや、リハーサルはもうずっと前からしている。もう15年くらい前から――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ