ヘカテーラバーズ4
希望は運命の人だ。昔からそう思っていた。彼と一緒にいると嬉しかったし、彼と過ごす時間は私にとって掛け替えのないものだった。
彼と出会ったのは私たちがまだ赤ちゃんの頃だったらしい。私の両親と希望の両親はもともと仲が良かったようで、私たちが生まれる前から親交があった。だから、私たちはすぐに仲良くなった。仲良く……。といより居るのが当たり前になった。
希望は子供の頃から楽器が得意だった。今はドラム一本に絞ってはいるけど、ギターもベースもできる。基本的に器用なんだと思う。
私はどちらかといえば、体育会系で、小学校からトレッキングやソフトボールに明け暮れていた。そう考えると私たちは生まれてくる性別を間違えたのかもしれないけど。
希望はいつも私の側にいてくれた。正月もクリスマスも七夕も。みんな希望と一緒に過ごした。
中学2年で初めて彼と違うクラスになった日。私たちはいつも通り自宅のベランダで、話していた。
「3組はどう?」
「悪くないよ。あんまり意地の悪い奴もいないし、過ごしやすいかな」
希望は新しいクラスを割と気に入ったらしい。
「いいなぁ。私はちょっと微妙だよ。灰田さんと同じクラスになっちゃったしさ……」
「そっか。たしか灰田さんって。ソフトボール部の子だったよね?」
「そだよー。正直あの子とはあんまり合わないんだよね」
灰田さんははっきり言って私の天敵だった。彼女は控えめに言って最悪の性格で、部内の輪をいつも乱しているような子だ。
「……あんまり関わらないようにした方がいいかもね。僕はあんまり話したことないけど、苦手なタイプかも」
「のんちゃんはそうだろうね。ってか、灰田さんと仲いい人たちって、ギャルっぽくて苦手だよ。自分たちが世界の中心じゃなきゃ気が済まないみたいな顔してるしさ」
これは私の勝手な偏見だけど、ギャルギャルした女にはろくな奴がいないと思う。まぁ今はギャルでもいい人がいるって分かってはいるけど。(ヘカテーさんはいい人だと思う)
「あんまり問題起こさないでね? あいちゃんって怒ると手がつけらんないから」
「そうかなぁ? 私ってかなり大人しい方だと思うよ?」
希望の中で私はいったいどんな存在なのだろう?
私たちはお互いのクラスの雰囲気について色々話した。担任がどうだとか、仲の良いクラスメイトが誰だとか、そんな話。
「あーあ、のんちゃんと同じクラスだったら良かったのになぁ。したら私が文系、のんちゃんが理系の勉強お互いに教え合えたじゃん?」
「たしかに! でも……。まぁ仕方ないよ。クラス変わっても授業は一緒だろうから一緒に勉強はできると思うよ」
私は希望のこんなところが好きだった。私が何かを愚痴っても、嫌な顔せずに良い方法を一緒に考えてくれる。
「ねぇ? 新しいクラスにいい子いた? 恋バナ的に」
「恋バナ的に?」
「そう、恋バナ的に」
希望は3秒ほど考えると「いや、いないね」と答えた。
「そっか……。あーあ、お互い浮いた話もないよねー」
「だね。あいちゃんもいない感じ? 門倉くんとかカッコいいと思うけど?」
「カドっちはカッコいいよねー。めちゃモテだよ。でも……。私的にはないかなー」
私的にはない。あるとすれば目の前にいるこの人だから。
「なんかもったいないね……。あいちゃん見た目はいいんだからさー」
「ハハハ、ありがと……。ってそれ褒めてんの? 貶してんの?」
「ん……。そういえばどっちだろう?」
質問に質問で返すな。と私は思った。でも……。悪い気はしない。
ベランダは心地よかった。その風と新芽の匂いが鼻を突く。希望からはさわやかな石けんの匂いがした。おそらく風呂上がりなんだと思う。
「まぁいいよ……。褒められたと思っとくから」
「うん。その方がいいね」
変な会話だ。いつものことだからもう慣れっこだけど。
そのとき、ふと思った。「ああ、ここが私の居場所なんだ」と。
住宅街の分譲住宅の近すぎるベランダが私の居場所なんだと思えた。
私は拙い妄想をした。幼くてどうしようもなく脆い妄想。
いつか……。いつかこの場所で希望にプロポーズされたい。そんなことを思った。




