ヘカテーラバーズ1
私は長い間、恋をしていた。もう20年近くなる。相手はずっと変わらない。
彼とはずっと一緒だった。関係としては兄弟に近いかもしれない。
でも……。私はそれでは満足できなかった。
「おーい! あいちゃーん!」
その日、私は池袋でヘカテーさんと会った。
「こんにちはー。いつものんちゃんがお世話になってます」
「いえいえ。こっちこそ」
ヘカテーさんとは最近、こうやってよくお茶をしている。最初はとっつきづらいと思っていたけれど、よくよく話してみると面白い人だ。
「したらねー。ミスド行く? たしかあいちゃんもあそこ行きつけだよね?」
「はい! いっつも課題やってるので」
安定のミスタードーナツ。私の愛しのポン・デ・リングのある店だ。
ミスタードーナツの店内はいつも通りだ。客席は高校生でいっぱいで、レジでは40代くらいのパートさんがレジを打っている。
「やっぱこの時間は混んでるね。チョコファッションあっかな?」
「そうですねー。私はポン・デ・リングにしようかなー」
私たちはドーナツのショーケースを覗いた。中には様々な種類のドーナツが並べられている。
「あー! ポンデ抹茶セールみたいです!」
「お! いーじゃん。私はね……。よし、ここはチョコファッションとフレンチクルーラーにしよう」
私たちはそれぞれドーナツを頼むとトレーを受け取った。
「あーあ、JKの隣か……。ま、しゃあないよね」
京極さんは面倒臭そうな言い方をした。理由は何となく分かる。
私たちはそのまま、女子高校生の席の隣に座った。ヘカテーさんはそれとなく彼女たちから顔を背ける。
「よくのんちゃんとここ来るんですよ。大学近いからどうしてもここになっちゃいます」
「そうだよねぇ。私ものんちゃんや他のメンバーと一緒にここ来るよ。ま、だいたいミーティングすんの池袋か渋谷だからねー」
渋谷……。たしか『ニンヒア』の事務所がある。
「ヘカテーさんも忙しそうですよね。ちゃんと寝れてますか?」
「ん……。時と場合に寄るかな。今は色々段取りあるからちょい寝不足かも。でもこれ終わればしばらく落ち着くからさ! ほんとにのんちゃんには助けられてるよ。あの子めっちゃ気が利くじゃん? 言わなくても色々やってくれるから本当にありがたくてさ」
実に希望らしい。彼はそういうタイプだ。基本的に卒がなくなんでもきっちりやる。
「まぁ……。あれでなかなか細かいですからね。のんちゃんがお役に立ってるなら良かったです」
私がそう言うとヘカテーさんは「ぷっ」と吹き出して笑った。
「いや……。ごめんごめん。なんかあいちゃんってめっちゃのんちゃんのお姉さんみたいだなーって思ってさ! でも……。2人ってお似合いだよね。付き合ってないのは信じらんないくらいだよ」
「そ……うですよね」
自分でもそう思う。こんな長いこと一緒に居るのに彼との関係は未だに『幼なじみ』止まりなのだ。なぜ付き合っていないのだろう?
「でもまぁ……。色々あるもんね。のんちゃんって奥手じゃん? 本当はあいちゃんのこと好きだと思うんだけどなー」
だったら良いのに……。と私は思った。希望ときちんとそんな関係になれたらもっと合わせなのにと。
私たちがそんな話をしていると横の女子高校生が立ち上がって私たちの席にやってきた。
「あの! 『バービナ』のヘカテーさんですよね?」
その女子高校生は興奮気味に言うとニッコリ笑った。
「ああ……。はい。そうです」
「やっぱりー。うっそ。めっちゃ嬉しい! あの! 私『バービナ』の大ファンなんです! 握手お願いします!」
女子高校生の勢いに押されてヘカテーさんは引きつった顔をした。
それからヘカテーさんは女子高生たちと記念撮影をしていた。最初は1人の子だけだったのに気が付けば人だかりが出来ている。
こうやって改めて見ると『バービナ』は人気者なのだ。ヘカテーさんだけではない。ギターの七星くんもベースのジュンさんも……。そして、おそらくのんちゃんも。
私は女子高生にもまれてる彼女を見ながらドーナツをかじった。
ポンデ抹茶はほんの少しだけ苦く感じた。




