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ピュアヒューリーズ38

 連休中。僕は愛衣と一緒に地元の戻った。

 母は僕の帰省が嬉しいらしく、豪勢な手料理を作ってくれた。

「ああ、そういえばコレ!」

「ん? 何?」

 僕は先日、川村さんからもらったサインを母に渡した。

「え! あんたいつ川村先生に会ったのよ!?」

「ちょっと事情があってね……。あいちゃんと一緒にスカイツリー行ったときにたまたま会ったんだ」

 母は「なんで連絡くれなかったの!?」と発狂していた。仕方がない。母は川村さんの大ファンなのだ。

 リビングでは父がサッカー中継を見ていた。僕と母の会話に混ざろうとはしない。

「父さん……。西浦のおばさんのことなんだけど……」

「ああ、俺もちゅうどその話をしたいと思ってたんだ」

 父はテレビを消すと僕にソファーに座るように促した。

 西浦有栖は父にとっては叔母だった。父の父、つまり僕の父方の祖父。その妹にあたる。

 祖父は3年前に脳梗塞で他界したのでもういないのだけれど。

「どうだ! 叔母さんとは上手くやってんのか?」

「まぁぼちぼちね……。忙しいみたいであんまり顔を合わせないけど元気みたいだよ」

「そうか……。いやな。俺もしばらく連絡取ってなかったんだがこの前連絡来てな……」

「へー。そうなんだ」

 僕は素っ気なく返した。どうせろくな話ではないはずだ。大叔母が世間話するために連絡なんてするわけがない。

「希望。お前、将来はどうするつもりだ? たしか研究職に就きたいって言ってたよな?」

「そうだね。博士課程も取らないつもりだよ。卒業したらどっかの生化学系の研究所に勤めるつもりではいるけどね」

 僕は漠然とだけれどそれなりに希望する進路はあった。幸い、理系でなら僕を必要としてくれる企業もあると思う。

「……。なあもしだぞ? もし『ニンヒア』に就職するとしたらお前どう思う?」

「は?」

 僕は思わず声を漏らした。父は続ける。

「叔母さんからな。お前を会社に迎えたいって言われたんだ。俺は本人が決めることだからとしか言えなかったけどな……。でもあの言い方はかなり本気だったと思うぞ? ほら、あの人昔っから言い出したらきかないだろ?」

 やれやれだ。なんとなく予想はしていたけれど、大叔母の病気が始まった。

 年を取って落ち着いたと思っていたけれどやはり変わってはいないらしい……。

 西浦有栖はそういう人間なのだ。

 ぱっと見は穏やかで瀟洒な淑女に見える。けれどその実はそれとは真反対だった。

 尊大で自己中心的、自分の意思を曲げることを何よりも嫌い、そのための犠牲はいとわない……。そんな女だ。

「分かったよ……。検討はしてみる。ま、今回ばかりはおばさんの思い通りにはならないけどね」

 父は「そうだな」と言って力なく笑った――。

 それから僕は2階の自分の部屋からベランダへ出た。

 久しぶりにここで愛衣と話そうと思う。

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