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ピュアヒューリーズ37

 四月末。桜は散り新緑の季節がやってきた。

 旧『アフロディーテ』との花見をしてから既に3週間過ぎている。

 連休の初日。僕は舞洲さんと会った。

「この前はどうもな」

「いえ、こちらこそ」

 例によって舞洲さんはS15で僕を迎えに来てくれた。洗車したてなのか車体はメタリックに光っている。

「今日はどこ行こう?」

「そうですね……」

 その日は行き先を決めていなかった。きっとどこに行っても混み合っているだろう。

「案外、都内は空いとるからドライブでもしよか?」

「はい!」

 ノープランだ。舞洲さんは行き先を決めずに車を発進させた。

 舞洲さんの読み通り、都内は比較的空いていた。もしかしたら平日より車が少ないかもしれない。

 明治通りを走り抜ける。S15は胎動するように緩やかにスピードを上げていった。

「逢子から聞いたで! なんや竹井くん動いてくれたんやって?」

 舞洲さんは前を向いたまま言った。

「ええ……。すいません。余計なことしちゃって……」

「いや……。ありがとうな……。お陰で色々とウチらのわだかまりもとれたから良かった。逢子もすっきりしたんちゃうかな? あれでなかなか気にしぃやから」

 それから舞洲さんはことの顛末を教えてくれた。

「ま、ウチらも色々あるからな……。とりあえずは逢子ともこれで貸し借りなしって感じかな……。ほら、私、逢子には面倒掛けっぱなしやったから。逢子的にはめっちゃ気にしとるみたいやったけどもう昔の話やからな。羽島くんもなんとか納得したし良かったで」

「そうですか……。あの……。佐藤さんとは?」

「ああ、それに関してはこれからやね。私もな。正直な気持ちを逢子には言ったからな。逢子も『ちょっと考えてみる』って言ってくれた。ま、とりあえずは一歩前進やで」

 舞洲さんの顔は晴れ晴れとしていた。その表情はまるで中学生くらいの幼い少女のようだ。

 車は甲州街道を新宿方面に向かって走っていた。街路樹は青々と茂り、これから季節がまた夏に駆け上がっていくのを表しているようだ。

「舞洲さんの気持ちの整理が少しでもついたなら良かったです。これで佐藤さんが戻れれば一番良いのですが」

「せやなー。ほんまにそう思うよ。でも……。逢子もベースやからそれはおいおいかな。ま、『レイズ』的にもサポートとしてベースいたら逢子のパフォーマンスも良くなるからええとは思うけどな」

 これで良かったのだろうか? 僕は内心、そんな風に思っていた。

 別に誰が傷ついたわけでもないけれど余計なことをしてしまった気がする。

「あの……。舞洲さん?」

「ん? どうしたん?」

「今回、色々な人と話して思ったんですが……。僕ってきっとお節介なんですよね。本当なら余計なことだったと思うんです。結果的に舞洲さんたちの手助けになりましたけど、もしかしたら『レイズ』に迷惑を掛けていたかもしれません。だから……。上手く言えないんですが……。なんかすいませんでした」

 僕は探り探り言葉を選んで舞洲さんに謝った。

「へ? なんで!? 竹井くんぜんぜん悪ないよ! てかむしろ感謝しかないって!」

「結果的にはそうかもしれません……。でももし……。僕のせいで『レイズ』が解散でもしてたら……」

 僕がそこまで言いかけると舞洲さんは大笑いした。

「アハハハハ! なんでそんなこと気にすんねん! 大丈夫やって! 仮にこれが原因で『レイズ』が解散しようがしまいがそれはウチらの問題で竹井くんは関係ないよ。それにな……。竹井くんが動かったら私が自分で佐藤くんとこ行ってたと思う。だからあんま気にせんでええんやで? むしろ直接やらんかったから上手くいったようなもんや」

 舞洲さんは笑って「だから大丈夫やで」と言ってくれた。

 車は都内をぐるっと一周するように走り続けた。途中でファストフード店で軽めの食事を済ませ、駐車場のあるコンビニで舞洲さんはタバコをふかした。

「今日はありがとな。ほんまに竹井くんには世話になりっぱなしや」

「そんなことは……」

「いやいや、ほんまにそう思うで? せや! 今度アリーナ公演あるから来てな! 『バービナ』様は特等席で聴かせたるから!」

 嬉しそうな舞洲さんを見ていると妙に居たたまれない気持ちになった。

 なぜだろう? こんなに幸せそうなのに……。


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