ピュアヒューリーズ35
週末。僕は三坂さんと待ち合わせした六本木のバーに向かった。
六本木のバー……。僕に一番縁遠い場所かもしれない。
「おー! 竹井くん。こっちこっち」
バーに入ると三坂さんはカウンターで先にお酒を飲んでいた。彼女の前には青い液体の入ったカクテルグラスが置かれている。
「こんばんは。急にお呼びだてして申し訳ないです」
「ん? ええよ。私も可愛い後輩に誘われてちょっぴり嬉しかったしな」
その日の彼女はこの前と違って落ち着いた服装をしていた。カシミアのセーターにロングスカートで首もとにはベースの形をしたシルバーのネックレスが掛かっていた。本当に目が悪いのか伊達なのかは分からないが、赤ブチメガネも掛けている。
「先日は本当にありがとうございました。すごく楽しかったです!」
「ほんまに? なら良かったわ! なんかヒロも竹井くんえらい気に入ったみたいで嬉しそうに話しとったで」
どうやら舞洲さんは僕の話をメンバーにしているらしい。
「こちらこそ舞洲さんには本当に良くしてもらってます。すごく勉強になりますし、ありがたい限りです」
「ハハハ、なんや竹井くんえらい真面目やな。ま、ヒロも基本真面目な奴やから気がおうたのかもしれんな。で? 今日はどないしたん?」
さて……。どうしたものか。単刀直入に聞くべきだろうか?
「あの……。ちょっと込み入った話なんですが……。気に障ったらすいません」
「え? 何? 私なんかやらかしたか?」
「実は……」
言葉を取り繕っても仕方がない。僕は意を決して佐藤さんお話を彼女に振った。
三坂さんは佐藤さんの名前が出た瞬間、一瞬だけ顔をしかめたけれど僕の話を最後まで聞いてくれた。
「……というわけなんです」
「そうか……」
そう言うと彼女は眉間に皺を寄せて両手で顔を覆った。
「別に僕がどうこう言う話じゃないのは分かってるんです。でも、話だけでも聞いて頂きたかったんです」
「ああ、せやろな。私もそれは何となく分かっとったんや。『アフロディーテ』の事件のあと、ヒロが妙にそわそわしとったからな……」
彼女はカクテルグラスを一気に飲み干すとマスターにおかわりをした。
「僕としては三坂さんがどう思っているかだけ知りたかったんです。それ次第では舞洲さんも気持ちが楽になると思ったので」
「……あんな。これはウチらにとってめっちゃこじれとる問題やねん。話すとめっちゃ長くなるしな。でも……。まぁそろそろ逃げ切れんかもしれんな」
それからしばらく三坂さんは黙って前だけ見つめていた。
改めて見る三坂さんはとても繊細だった。舞洲さんよりもずっと傷つきやすく、壊れやすいのかもしれない。
「すいませんでした……。やっぱり余計なことでしたね」
「いや……。かまへんよ。てかありがとう。むしろ向き合い決心が付いたわ」
きっと彼女もこのことで苦しんできたのだろう。
「ちょっと聞いてもろてもええかな? 関係ない人に聞いて貰いたい話があんねん」
三坂さんは首を大きく横に振ると25年前の話を聞かせてくれた。




