ピュアヒューリーズ31
どうやら僕は三半規管が弱いらしい。スカイツリーの高速エレベーターですっかりダウンしてしまった。愛衣も川村さんも僕を気に掛けてくれたけれど、どうしても動けなかった。
「のんちゃん大丈夫?」
「うん……。やっと落ち着いたけど、まだ気持ち悪いかな」
耳が痛い。ついでに頭も。
「あの……。これ聞くか分からないけど。乗り物酔いの薬」
川村さんはバッグから酔い止め薬を出して僕に手渡してくれた。
「ありがとうございます。すいません……。ご迷惑掛けて」
「いえいえ、私も酔いやすい方だから気持ち分かるんだ! だから気にしないで」
僕は展望台のベンチに腰掛けてしばらく項垂れていた。愛衣たちは楽しそうに景色を楽しんでいる。
僕は愛衣の『楽しむことと心配することを分ける』性格が好きだった。川村さんの手前、そうしてむしろ貰わないと困る。
落ち着いてきた頃、僕もスカイツリーからの景色を眺めた。眼下には東京の街が広がり、浅草寺とアサヒビールの奇怪なオブジェが見えた。
「大丈夫?」
「はい、大丈夫です。ご迷惑お換えして本当にすいません」
「本当に大丈夫だからね。それにしても……。愛衣ちゃん良い子ね」
どうやら川村さんは愛衣が気に入ったらしい。まぁ、愛衣は絵に描いたような人垂らしなので当然かもしれない。
「ええ。僕もそう思いますよ。ちょっと強引なとこあるけど、悪い子じゃないので」
「フフフ、いいなー。若いって羨ましいよ」
当の愛衣はスカイツリーのゆるキャラに夢中のようだ。川村さんと僕を放置して写真撮影の真っ最中だ。
「あの子はいつもああなんですよ。元気過ぎて着いていけないです……」
「竹井さんだって若いでしょ? たぶん私の娘と同じぐらいじゃない?」
「ええ、まあ、今年で20歳です」
20歳。晴れて京極さんの飲み友達になってしまった。
「そっかそっか。今日は月子ちゃんに用事あったんだよね?」
「ええ……。実は」
僕は今回、拘置所に行った理由を彼女に説明した。彼女は「うんうん」と相づちを打ちながら聞いてくれた。
「……ということがありまして。川村さんは『アフロディーテ』と『レイズ』の皆さんとはお知り合いですか?」
「うーんとね……。健次くんと吉野くん。あと佐藤くんは知り合いだよ。『レイズ』で面識あるのは三坂さんくらいかな」
「そうですか……」
川村さんは舞洲さんとは面識がないようだ。残念ながら。
「ああ、でも! 月子ちゃんから『アフロディーテ』結成の話は聞いたことあるから良かったら聞かせてあげるよ。何か参考になるかもしれないよ」
「良いんですか!? 是非お願いします!」
気が付くとエレベーター酔いすっかり治っていた。愛衣は相変わらず戻っては来ない。
それから川村さんは25年前の話を聞かせてくれた……。




