ピュアヒューリーズ30
川村さんは穏やかな女性だった。年相応の見た目ではあるけれど、彼女の笑った顔はとても自然に見える。
「竹井さんは今日はどうしてここに?」
「えっと……。実は鴨川さんに聞きたいことがあったんです。残念ながら会えませんでしたが……」
「そう……。私も月子ちゃんと話に来たんだけど会えなかったんだ。ここしばらく面会したくないみたいで」
口ぶりから察するに彼女は何回も拘置所に足を運んでいるらしい。
「そうだったんですね……。あの……。失礼ですが川村さんって鴨川さんの古い友人……。なんですよね?」
「ええ、そんな感じかな……。小中学校で仲良かった友達って言えば良いのかな。まぁ、私は中学校のときに転校しちゃったからそれからはたまにしか連絡取ってなかったんだけど……」
川村さんはとても寂しそうに言うと、作り笑顔を浮かべる。今度は酷く不自然だ。
「あの! 川村さん、良かったら少しお話しませんか! もちろん時間あればで大丈夫なので」
愛衣は空気を読むつもりあるのかないのか、僕と川村さんの間に割って入った。
「大丈夫ですよ。私なんかでよければ。今日は1日明けてあるので……」
「わぁ! ありがとうございます! やったねのんちゃん! 川村先生良いってよ」
愛衣は何を考えているのだろう? 強引に引き込んでしまう。
それから愛衣の提案で僕たちはスカツリーへ出かけた。東武スカイツリーラインを乗り継いで目的へと向かう。愛衣は川村さんに色々と質問していた。あの作品のキャラクターの新作は出ないのかとか、あの表現はどうやって思いついたのかとか。
川村さんはそんな細やかな疑問にひとつひとつ丁寧に答えてくれた。彼女の受け答えはとても誠実で、ものすごく真面目な人間に見える。
愛衣と川村さんが会話していると電車のアナウンスが流れた。
『号乗車ありがとうございます。次はー押上、押上です』
「あ、ここで降りましょう!」
愛衣は立ち上がるとバッグを肩から掛けた。
押上駅に着く。改札を抜けると目の前にスカイツリーが建っていた。
「やっぱ大きいよねー。遠くからは見てるけど、やっぱり下から見ると違うね」
「そうだね。あの、川村さん本当にお時間大丈夫ですか?」
僕は恐る恐る彼女に尋ねる。
「ええ、大丈夫。月子ちゃんと話す予定だったから本当に他の予定は入れてないんだよね。むしろ一緒にお出かけする人出来て嬉しい」
「なら良かったです」
スカイツリーの前には展望台へのチケットを買う列が出来ていた。休日のためか子供のたくさんいる。
「まだうちの子が小さい頃に来たきりだから本当に久しぶりね。あのときは子供も小さかったからゆっくり見てられなかったけど」
「じゃあちょうど良かったです! あーエレベーター乗るの楽しみだなー」
愛衣はすっかり川村さんと打ち解けていた。いくら何でもコミュニケーション能力が高すぎる。
「フフフ、そうね。じゃあ並んじゃおうか」
不思議な状況だった。東京拘置所に面会に来たはずなのに、気が付けば直木賞作家と一緒にスカイツリーに上ろうとしている。
まぁいいだろう。僕は諦めて日本一高い電波塔に上ることにした。




