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ピュアヒューリーズ26

「なんだい?」

 佐藤さんはコーヒーに口を付けると一口啜った。

「差し出がましいようですが……。舞洲さんは佐藤さんと会いたがってると思います。その……。彼女から佐藤さんの話聞いたので……」

「だろうね……」

 佐藤さんはそれだけ言うと大きなため息を吐いた。

「舞洲さんは25年前のことをすごく気にしてるみたいなんです。本当だったらこんなはずじゃなかったのにって……。だから……」

「だから、俺からヒロに会いに行った方が良い……。君が言いたいのはそんなとこだろ?」

 僕は擦れるような声で「はい」と答えた。

「ふう……。まぁね……。たしかに大昔の話だし、もう時効だとは思うんだけどさ……。君はヒロについてどう感じた? 彼女は本当に僕に会いたいって思ってると思う?」

 そう聞かれて僕は言葉に詰まった。

 たしかに舞洲さんの口から聞いていたけれど、そんなこと言えるはずがない。

 僕の態度から佐藤さんは何かを察したらしく、僕の返答を待たずに口を開いた。

「分かってはいるんだよ。おそらくヒロは俺に『レイズ』に戻って欲しいって言ってたんだろ?」

 予想外だった。思わず僕は「ええ」と肯定的な返事をしてしまった。

「ねえ竹井くん? この件はもう25年前には結論が出た話なんだよ。ヒロは知らないかもしれないけれどね……」

 そう言うと佐藤さんはことの経緯を話してくれた――。


 佐藤亨一の話。


 25年前。俺は大きな選択に迫られていた。

 当時の俺は『レイズ』というバンドのベーシストをしていて、バンドのドラム担当の舞洲ヒロと恋仲だった。

 もともとはヴォーカル兼リーダーの三坂逢子からの誘いで始めたバンドだったけれど、気が付くと俺はすっかり『レイズ』にのめり込んでいた。

 俺は『レイズ』と兼任する形でとあるバンドの臨時ベーシストとして活動してた。

 後の『アフロディーテ』と呼ばれるバンドだ。

 そのバンドはずっとベーシストに恵まれず、募集を掛けてもヴォーカルの鴨川月子の眼鏡にかなう人間はなかなか見つからなかったらしい。

 事件があったのはちょうどその頃だ。

 高校2年の春。俺は月子からある誘いを受けた。

「なぁ亨一? ウチらの専属ベーシストになってくれへん?」

「はぁ……。月ちゃん何回も言ってるけど俺は『レイズ』のメンバーなんだよ?」

「分かっとるって! でもウチは亨一がええねん!」

 月子の気持ち自体は嬉しかったけれど、俺はずっとそんな誘いを断っていた。

 さすがに逢子や繁樹、そしてヒロを裏切ることなんて出来ない。

「気持ちだけありがたく貰っとくよ」

 俺はいつも月子にそんな風に適当に返事していた。

「もう! ウチらにとって亨一は必要な存在なんやで! もうええ! したら逢子ちゃんに相談するから!」

 そう言うと月子はむくれてしまった。

 そのときはいつものことだ程度にしか思っていなかった。

 時間と解決してくれるし、このバンドにもそのうちベーシストは見つかるだろうと高をくくっていた。

 それから程なくしてその考えが甘かったと痛感する羽目になるわけだが……。

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