008 取引でした。
ふう、とりあえず歩かずに向かえそうでよかった。
しかし馬車ってどれくらいの速度なんだろう、全然分からないし、見当もつかないよ、聞いちゃうか。
「デイビットさんすみません、ここから街までだと、どれくらいかかるんですか?」
「ここからなら、街までは1時間もかからないと思いますよ」
「なるほど、馬車でも1時間弱ですか」
さっきは徒歩30分で2キロ程進めた、時速だと4キロ、残り12キロだったから3時間か。 でもそんなに歩き続けるの俺には無理だから休憩しながらでもっとかかってたな。
「デイビットさんに会えて助かりました、あのまま徒歩だったら日が暮れる所でした」
「いいんですよ、同じ方向で席も空いていましたし。 ところで、イサムさんはどちらからお越しなんですか?」
「ヨコイと言う集落ですが、ご存知ですか?」
「ん〜、色々な場所を行商しておりますが、ヨコイですか、申し訳ありません、存じ上げませんね」
「いえいえかなりの田舎ですし、仕方ありません。 途中で馬が潰れ、森を彷徨いましたので、自分でも方角すらはっきりわかりませんから。 それで、少し相談があるのですが、聞いていただけますか?」
「おや、相談ですか? 私に出来る事でしたらお応え致しますが、どの様な事ですか?」
「ありがとうございます。 と、言っても商人のデイビットさんにすれば、ただの常識だと思いますが、通貨についてお教え頂きたいんです」
「通貨と言うと、大陸通貨のGの事ですか?」
「はい、先程も言った様に住んでいた場所がかなりの田舎の為、普段のやり取りは物々交換で、その他の物も近所で融通し合う、と言った地域で通貨を使う機会がほとんど無いんです」
「なるほど、そういう事ですか。 基本的な所から言いますと、物の売買でやり取りする物として、主に8種類の硬貨とそれ以上を扱う証文が有ります。 価値の低い順に、鉄貨3種、銅貨3種、銀貨、金貨、そしてそれ以上の契約等に用いる証文です、そしてそれぞれの価値は・・・」
デイビットさんの話によると、硬貨の内訳は
鉄貨:1G
鉄貨:5G
鉄貨:10G
銅貨:100G
銅貨:500G
銅貨:1000G
銀貨:10000G
金貨:100000G
との事で、更に金額が上がる場合、証文での取引だそうだ、小切手みたいな物かな?
そう考えているとデイビットさんが付け加えた。
「証文は、記入して内容や額面を決めるので、1G以下にする事も可能なんですよ」
その言葉がどう意味なのか戸惑いながら考えていると荷台からクスクスと笑い声が聞こえてきて、ニッキーが顔を出す。
「あはは、証文って安い物でも1000G以上するんだよ? そんな使い方する訳無いじゃん!」
そんな風に言いデイビットさんと笑いあっている。
「私も昔やられたなー、後から「田舎から出てきた新人に言うお約束なんだ」って言われたよ」
「ふふ、私も新人に教える時はついつい言ってしまいますね」
「「どこが面白いのかわからないのに!」」
最後は声をそろえて言いまた笑っている、確かにどう面白いのかさっぱりだ。
「失礼しました、通貨に関してはこのくらいですかね」
「いえ、ありがとうございます。 銀貨や金貨は見た事ないですね、もちろん証文も」
証文についてのあの下りはなんだったんだ? アレで説明終わり? 2人で笑ってただけじゃん! そう考えながらもなんとか話を進めた。
「そうですね、証文は日常の取引ではほとんど使われませんね、銀貨や金貨は街なら目にされる事もあると思いますよ」
「そうなんですね。 そうだ、森を抜けた時に何体か魔物を倒したんですが、売却等する方法はありますか?」
通貨の話を聞き終わり、現金を得る方法を聞こうとしたら、荷台の幌から顔を出していたニッキーが反応した。
「何なに!? 魔物倒したの? どれ? どんなやつ?」
振り向き、荷台のニッキーに答える。
「ニッキーさん、魔物に詳しいんですか?」
「もちろん! 魔物の討伐は冒険者の仕事だからね!」
ガッツポーズの様な仕草をしながら答えるニッキーにデイビットさんが補足してくれる。
「そうですね、魔物の討伐は冒険者の方々の大きな収入源ですし、討伐の証明部位や魔物素材の買い取り金額は冒険者ギルドが決めていますのでニッキーさんの方が詳しいですよ」
「なるほど、そういう事ですか。 俺に分かるのは魔物の種族くらいだけど大丈夫ですか?」
「種族が分かれはだいたいわかるよ! 状態なんかによって変わっちゃうけど」
「それはよかった、今持っているのは、
フライングラビット
ゴブリン
コボルト
オーク
フォレストウルフ
ジャイアントボア
ですね、数はまちまちですが」
「ちょ、ちょっと待って、オークにフォレストウルフにジャイアントボア!? 他のはともかくそれを単独で倒したの?」
「え? はい、そうですよ?」
「オークなんて凄い怪力だし、フォレストウルフとかいつも群れてて、ジャイアントボアなんて全然攻撃通らないのに!」
「いやいや、オークなんてコボルトより遅いし、フォレストウルフも1匹ずつ相手すれば普通だし、ジャイアントボアは、どうしたっけな?」
「・・・なっ、どういう事よ! どれも5人以上のパーティで挑む相手なんだから!」
「実際、倒せてるしな〜 そんな事より、いかがですか? 買い取りしてもらえる物はありますか?」
「そんな事じゃ済まないって・・・ まあいいわ、買い取りについてだね、今言われた魔物なら、ゴブリン以外は売れる。 もちろん状態次第だけど」
「その場合、手続きは冒険者のギルドに行けばいい?」
「うん。 ギルドの買取窓口に行けばやってくれるよ」
「ちなみに、直接売買するのは違反になったりしませんか? 例えばここでデイビットさんに売るとか」
そう聞くとニッキーは視線をデイビットさんに振り、それをうけたデイビットさんが答えてくれた。
「はい、そう言った直接取引もございますので問題有りません。 商人等が採取依頼として出す場合も有りますし、冒険者自ら素材を売り込む事も有ります。 ただしその場合、金額の交渉もお互いで行いますので通常より高く売れる可能性と同じ分、安く買われてしまう可能性も有ります」
「なるほど、分かりました。 ニッキーさん、さっき言った魔物の素材は何になりますか?」
「さっきの魔物だと
フライングラビットは『肉』
コボルトは『尻尾』
オークは『肉、睾丸』
フォレストウルフは『爪、牙、毛皮』
ジャイアントボアは『肉、爪、牙、毛皮』
が、買取対象かな」
「なるほど、ありがとう」
うん、やっぱりそれぞれで素材になる部分が違うんだな。 素材の仕分けについては狩りの最中に気づいたアイテムボックスの機能がある。
機能名はズバリ『解体』
気づいたのはそれぞれの魔物をフォルダ分けしていた時だ、最初は<魔物>ってフォルダを作って入れてたんだけど、数が増えてきた時に魔物毎に分けたら『フォルダ内の物品の解体が可能です』と表示されたんだ、内訳はさっきの買取対象の他に、血液、内蔵、骨があった、いずれ自分でやる必要があるかも知れないけど、便利だしこのまま使うと思う。
「デイビットさん、今持っている素材を幾つか買っていただく事はできますか?」
「ええ、構いませんよ、もう間もなく着きますので入門の列に並んだ時にでも見させていただきましょう」
確かに前方に見えていた門に並ぶ列にかなり迫っていた。
程なく列の最後尾に着きデイビットさんから声がかかる。
「それではお売りいただける素材を見せていただけますか?」
そう言われ、獲物を入れておいたバッグを探り、素材を出しながら答える。
「はい、これなんですがどうでしょうか?」
取り出したのはフォレストウルフの素材だ、畳まれた毛皮には同じくフォレストウルフの素材である爪と牙が包まれている。
「なるほど、フォレストウルフの毛皮ですね、おや、間に挟んであるのは爪と牙ですか・・・」
俺から毛皮を受け取り、確認を始めたデイビットさんは懐から取り出した布に爪と牙を丁寧に置き、毛皮に集中する。
「これは、なんとも素晴らしいですね、無駄な傷は無く解体も綺麗に行われている。 これでしたら問題無く買取可能です」
広げたり裏返したり、光にかざしたりして毛皮を見た後、綺麗にたたんで膝に置き脇においていた爪と牙を確認する。
「こちらも大丈夫ですね」
そうつぶやいた後、こちらに向き直り確認される。
「こちらの素材は全て買取でよろしいですか?」
「はい、全てお願いします」
「かしこまりました、素材に問題は有りませんので金額のご相談をしましょう」
「よかった、どれくらいなんでしょう」
デイビットさんと話していると、横から覗き込んでいたニッキーが興奮した様子で言ってきた。
「どれくらいって、高いに決まってるじゃん! パーティで討伐しても儲かる物な上に素材も綺麗なんだから!」
「そうですね、ニッキーさんがおっしゃるとおり通常の素材より高品質ですので高くなりますね」
「ほらほら、幾らになるの! 教えて教えて」
なぜかニッキーがデイビットさんをせかしているが、順に教えてくれた金額はこちら。
フォレストウルフの爪:5000G
フォレストウルフの牙:10000G
フォレストウルフの毛皮(美品):50000G
「以上、合計で65000Gでいかがでしょう」
了承の返事をしょうとすると、またも隣から驚いた声が聞こえてくる。
「な、なんでそんな金額になるの! 毛皮の金額なんていつもの倍以上じゃない!」
「へ? 倍?」
それを聞いた俺も変な声を漏らすが、デイビットさんは冷静に説明してくれた。
「はい、ニッキーさんの言う通り、毛皮には相場の倍以上の金額を付けさせて頂きました、それはこの毛皮の状態が大きく影響しています。 通常フォレストウルフを倒す場合複数人で対処する為、複数の傷が入ります。 しかし! このフォレストウルフの素材には解体時に付く傷以外無いのです! しかもそれすら必要最低限! つまり、1頭分丸々使えるのです! そのまま敷物にするもよし、たくさんの小物にしてもいい、それこそ剥製にすら出来る程の美品なのです!」
説明しながら興奮しだしたデイビットさんが声を震わせている。
「凶悪なフォレストウルフの剥製・・・ いったいどれほどの価値が付くか・・・ はっ! 失礼致しました」
「そ、そうなんだ、それならうん、いいんじゃないかな」
興奮したデイビットさんを初めて見たのか、ニッキーが呆然としている。
「なるほど、凄い金額だって事はお二人を見て分かりましたのでそれでお願いします」
そういうとデイビットさんは荷台に入ってゴソゴソした後、恥ずかしそうにしながら戻ってきた。
「とりみだしてしまい申し訳ありませんでした。 それでは、こちらが代金です、ご確認ください」
思ったより大きく膨らんでいる布袋を受け取り中を確認すると
10000Gの銀貨が_5枚
1000Gの銅貨が10枚
500Gの銅貨が_8枚
100Gの銅貨が10枚
と言う内容だった。
ああ、これはこんな所で買取をお願いした理由に気づかれてるなあ、と思いながら受け取りの返事をする。
「はい、確かに、ありがとうございます」
「こちらこそ、いい素材をありがとうございました。 と、ちょうど順番も来ましたので進みましょう」
さあ! いよいよ街にはいるぞ!
お読み頂きありがとうございました。
明日も10時に投稿します。
誤字脱字がありましたら是非教えて下さい。
次でようやく街に入ります。
2019.02.07 一部修正しました。