007 移動でした。
森を抜けた俺はまず街道に出る事にした。
上空から見ると南に草原の中を緩やかに蛇行する茶色がかった線のように見える所がある、あれが街道だろう。
街道まで出た俺はそのままリブリッチに向かって飛びながら考える。
このまま飛んで街に入る訳にはいかないし、どの辺りで降りようかな、近い所にいきなり現れるのは不自然だし、あまり近づきすぎて遮断を解く瞬間を見られるのも嫌だよな。
地球で人の身長程度だと5キロくらいで地平線に沈むんだったはずだけど。 ただ物見櫓とかがあったり、ここが地球より大きな星だったりしたら変わるか。 ん〜、考えても分からん。 2メートルくらいの高さで街に向かって街道沿いに飛ぼう、何か見えたらそこから歩こう。
街まで残り14キロ程度の所まで飛ぶと尖塔の様な物が見えたので地上に降り歩く事にする。
「くそ〜14キロも歩くのか〜、だるいな〜」
まてよ、ここまで飛んで来るのに10秒もかからなかった、地球で飛んだ時よりかなり速くなってる。 たぶんレベルアップの影響だと思うが、走る力も上がっているはず、思い切り走ったらすぐつくかも!
………うん、しないよ、そんなこと。 普通に街に入る為に飛ぶのやめたのに、そんな速度で走って近づいたら意味なくなるからな。
「あ〜遠いな〜、何時間かかるんだよ〜」
愚痴をこぼしながらも完全遮断を解除し、最低限の装備を纏い、少しだけ獲物を入れたバッグを背負い歩いていく。
「疲れた、いや、疲労は全然感じて無いんだけどな、30分も歩くと感覚的に疲れた気がしてくるんだよな、進んだ距離も2キロと、微々たるものだし」
そんな独り言を漏らしていると、後ろから近づく気配に気がついた。
お、この気配は馬車かな、馬と人が複数だし可能性あるな、なんとか頼んで乗せてもらえないかな。
都合の良い展開を考えながらとぼとぼ歩いていると、先程の気配の主から声をかけられた。
「お〜い、こんにちは〜」
振り返ると御者席から笑顔で手を振る男が見えた。 勲は街道の端に避け、馬車を待った。
「ど、どうも、こんにちは」
まさか、相手から声をかけてくるとまでは考えていなかったので少し戸惑いながら返事をする。
マーカーは青だが完全には警戒を解いていない。 馬車の男は俺のそんな様子に構う事なく話を続ける。
「いや〜馬車の上からすみませんね、そんなに警戒なさらなくても大丈夫ですよ、私この先の街で商店を営んでおります、デイビット と、申します。 人脈作りも仕事のウチ、と言うことで、外で人を見かけたらとりあえず声を掛けることにしているんですよ」
「は、はあ、そうなんですか」
驚きが抜けないまま生返事をしていると、荷台の方から元気な声が聞こえてきた。
「ほらほら、デイビットさん、いきなり声かけたら驚かれますって!」
「ですよね? 驚きましたよね? えっと・・・そこの人!」
この荷台から現れた子は濃い茶髪を短く揃えた、いかにもな元気っ娘だ。 そうしている間にデイビットさんは馬車を止め、俺の方に歩いてきている。
「ちょ、デイビットさん、待って、護衛の私を置いて先に行かないで」
そう言った女の子は勢い良く跳ぶと、綺麗にデイビットと呼ぶ男の横に降り立った。 身長は150半ばだろうか、高校生くらいの年頃に見える。
「やあやあ、改めまして、商人をしております、デイビットです、よろしくお願いします」
「わたしはニッキー! デイビットさんの護衛をしてる冒険者だよ!」
思っていたのとは少し違うけど、異世界人との初遭遇が友好的な物になってよかったかな。 そうだ、鑑定しておかないとな、商人のデイビットさんと冒険者のニッキーか、偽装のステータスはニッキーを参考にしよう。
まずはデイビットさんから。
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名前:デイビット
年齢:43
職業:商人
種族:人族
性別:男
LV:06
体力:75/75
魔倉:09/09
魔創:04
筋力:56
硬度:46
俊敏:36
知力:88
器用:76
魔法:生活魔法
能力:計算
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んん? 商人だからなのか、能力に計算がある。 これは分かるが、他がかなり低い、俺がこちらに来てすぐ見た自分の数値と変わらない、いや、低いものの方が多いか。 でもレベルは上がっているな。
次は、ニッキーのステータスを見てみる。
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名前:ニッキー
年齢:16
職業:冒険者
種族:人族
性別:女
LV:23
体力:207/207
魔倉:242/242
魔創:213
筋力:216
硬度:222
俊敏:234
知力:208
器用:186
魔法:生活魔法
能力:双剣術、投擲、身体強化
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う~ん、デイビットさんよりは強いが、俺の5分の1程度だ、レベルは倍なのに。 固有能力の成長補正の確認は難しいかも知れない、と考えていたけど、間違いなく機能しているな。 ニッキーがどの程度の冒険者なのかわからないけど、とりあえず同じくらいにしておこうかな。
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名前:イサム
年齢:33
種族:人族
職業:――
LV:25
体力:246/246
魔倉:259/259
魔創:248
膂力:238
防御:259
俊敏:248
知力:244
器用:249
魔法:――
能力:--
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まあ、こんなものかな。 さて、うまく話して乗せてもらえるといいんだけど。
「俺はイサム、旅人かな、この先の街の串焼きが旨いと聞いて、目指してるんだ」
「ほうほう、そうでしたか、それでしたらご一緒しませんかな? 荷台はいっぱいなので、私と御者席になりますが」
おお、いきなり乗せてもらえそうだ、でも無警戒すぎないか?
「それは助かりますが、いいんですか? こんな素性の知れない男をいきなり乗せてしまって」
その質問には隣に立っていたニッキーが答えた。
「大丈夫だよ! ほら! コレ!」
そう言って見せたのは名刺サイズの板、カードの様な物だ。
「ん? それは?」
「これはね、ギルドカード! これでわかるの!」
「ギルドカードで、わかる? 俺は持ってなくて分からないんだけど、どういう事?」
「それは私が説明いたしますね。 こちらのギルドカードは商人や冒険者などのギルドに所属する者が所持しています、その機能として持ち主の各能力を表示する物がございます。 その応用でカードを2人で持ち、持ち主が指定し相手が同意した項目について表示する事が出来ます。 これを利用して相手の犯罪歴等の確認が行える訳です」
デイビットさんが自分のカードを見せながら、そう説明してくれた。 なるほどな確かにそういった確認が出来るなら、問題無いのかな。
「だからね、ほら、そっち持って」
ニッキーが自分のカードの角を持ちその対角を俺に向けてきた。
「おぅ、ここでいいのか?」
ニッキーの勢いに押されて素直にカードをつまみながら思う。 30超えのおっさんが高校生くらいの女の子と小さなカードを持って向い合う状況、うん、日本じゃ危険だな。
「そうそう! じゃあ、今回は犯罪歴を見るね! デイビットさん、それでいい?」
「はい、それで結構ですよ」
「イサムさんも、それでいい?」
「ああ、構わない」
その瞬間、カードをつまんでいるニッキーの親指の辺りにモンスターを倒した時と同じ靄が出てカードに吸い込まれた。
なっ? 今のは?
「ねえ、今、何したの?」
「ん? カードに魔力を流したんだよ?」
我慢出来ずに聞くとニッキーはそう答えた。
なるほど、あれは魔力だったのか、だから魔物が死んだ瞬間に出てきてたんだな。 ちょっと後で試してみるか。
そんな事を考えているとカードに文字が表示された。
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名前:イサム
犯罪歴:--
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「うん、出たね。 デイビットさん、大丈夫! 無いって!」
「それはよかった、それでは街に向かいましょう」
「・・・ちょっと、待って貰えますか?」
「はい? どうかされましたか?」
「えっと、今の確認で俺の事が信用して貰えて嬉しいのですが、その、まだ少し不安があるのですが」
そう、いくら気配探知で青とはいえ、商人とその護衛を装った盗賊や物取りの可能性もゼロではないのだ。
「おお! そうでしたね、私とした事が失礼致しました。 ニッキーさん、宜しいですか?」
「うん! いいよ!」
デイビットさんとニッキーさんがお互いのカードの端をそれぞれ持ち、両手を繋いでいる様な格好になる。 うん、おっさんと女の子が向かい合って両手を繋いでいる、コレも危険な見た目だ。
するとまたお互いの手から靄が現れ、そのままカードに吸い込まれた。 そして2人がカードを見せてくれた。
デイビットさんのカードを見ると
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名前:ニッキー
職業:冒険者
犯罪歴:--
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うん、冒険者で犯罪歴は無いようだ、次にニッキーのカードには
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名前:デイビット
職業:商人
犯罪歴:--
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こちらも大丈夫そうだな、しかし、冒険者そのものが職業として成り立っているんだな。
「確認も終わった所で街に向かいましょうか」
「はーい! じゃあまた荷台にいるね!」
カードをしまったデイビットさんが出発を促し、ニッキーが応える。
「はい。 宜しくお願いします」
俺も返事をしつつデイビットさんの隣に座る。
ひとまず安心はしたが、まだ完全には警戒を緩めてはいない、なぜなら地図に表示されている気配はもう一つあるからだ。 位置は馬車の荷台だから、ニッキーやデイビットさんが知らない事は無いだろう。 今のところ表示の色は無関心の白、俺が動くと一瞬黄色になるから様子見しつつ警戒って感じだろうか。 若そうなニッキーが一人で護衛、と言う事も無さそうだしパーティメンバーかな。
まあ、何か変な事が起きたら転移で逃げればいいか。
お読み頂きありがとうございました。
明日も10時に投稿します。
誤字脱字がありましたら是非教えて下さい。
2019.02.06 一部修正しました。




