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九月のお題小説「紫」  作者: YRKK
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涙の色

執筆者:雪村夏生

YRKKは十月一日で一周年を迎えます。やったぜ。

これからもよろしくお願いいたします。



 ねえ、紫ってどうやって作ると思う?


 ベッドで仰向けになっている彼女は、ふと思い出したとでも言うように尋ねた。青と赤を混ぜて作るんだろ。ハヤテは手元の本から顔を上げることなくあたり前のように言い放った。んー、ちょっと違うかな。紫はね、雷が言葉の続きを飲み込んだ。

 訊き返そうと本から顔を上げたとき、ローテーブルに置かれていた固定電話が鳴り出す。本を支えていた手で挟むようにして閉じると、電話の真横に放り投げる。受話器を取った。上司からの呼び出し。いよいよ待機時間に終わりが訪れた。ハヤテの唇は自然と緩やかな弧を描く。受話器を置いた。少し行ってくる。床に無造作に置かれていたコートを拾いながら言い残すと、ベッドの上ではまた転がり始めた。


 国家機密の暗殺部隊。名前はまだない。彼らの所属している部隊とはそのようなものだ。いわゆる表ざたにできないことを陰で処理する、汚れ仕事担当。ハヤテはこの仕事に従事して五年ほどの歳月が流れたが、いまだに組織の全貌を知らない。何かの拍子にうっかり話してしまわないように、全容を知る人間は限られていた。


 ハヤテが呼び出されたのは、会議室だった。テレビ越しに一度は必ず目にしたことのあるような有名閣僚が、円卓に座って彼を出迎えた。一番奥のスクリーンの前に立っているのは直属の上司にあたる人物。コードネーム、コガネ。


「ハヤテ君、来ていただいたところ申しわけないのですが、今から一つ任務をこなしていただきたいのですが、よろしいでしょうか」


 黒スーツをきちんと着こなした銀縁眼鏡からは頭脳の高さをにじみださせるところがある。加えて部下に対しても敬語と低姿勢を崩さない。この点がハヤテに苦手意識を持たせていた。


 うなずきを返すとコガネは目を細める。「彼女を内密に葬っていただきたいのです」スクリーンに手を向けたと同時に、画面は一人の少女を映し出した。ハヤテはかすかに目をみはる。先ほどまで同じ部屋にいた人物。コードネーム、セセラギ。

 彼女の罪は国家機密の暗殺部隊についての重要資料を盗み出し、他国に売り込んだこと。最近多発している犯罪の数々は、彼女が流した情報が起因している。いずれハヤテには情報を知り得た他国の人間を抹消する任務も追加されるだろう。コガネは淡々と言った。


 任務を断るという選択肢はこの組織に存在しない。構成員たちは過去に何かしらの犯罪を起こした死刑囚だった。命が惜しかったら国家のために尽力しろ。逆らえば命はない。組織に属する際にサインした誓約書を要約すればそういった内容だった。


 ハヤテは平生と変わらぬような抑揚のない二つ返事。会議室を後にした。


 ねえ、紫ってどうやって作ると思う?


 せせらぎは地面に伏している骸を眺めながら、任務終了直後に必ず問いかける。じわじわと足元に赤が広がっていく。その中に上からしずくが降ってきて、赤い海が弾ける。


 部屋に戻った。セセラギは相変わらずごろごろとベッドの上を転がっている。ドアを後ろ手で閉めて立ち尽くす。利き手に装着されている刃を出した。真っ黒な瞳はただのガラス玉のように光を失う。セセラギも馬鹿ではなかった。ハヤテの変化に気がついていた。それでも転がることをやめない。ベッドから離れない。


 ねえ、紫ってどうやって作ると思う?


 ナイフに付着した血液を振り落とす。床に赤い線が走った。ベッドをたどって床に広がっていく赤色。白のシーツにはよく映えた。


 ねえ、紫はどうやって――


 足元に赤い水たまりができる。


 ねえ、紫は――


 上からしずくが降ってきて、赤い海が弾ける。


 ねえ――


 馬鹿野郎。つぶやく声は震えている。


「涙は青じゃねえよ、透明だろ」


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