時は止めるよりも遅くした方が楽
多分、後少しで第三章が終わると思います。
――クソ師匠……いえイナバの正体を教えて下さい。
―――その言葉を聞いたとき、一瞬だけだが、まるで心臓を鷲掴みにされた様な気がした。
「なるほど、クレハ。お前が俺に求めるのは武器や防具ましてや神器でもない―――"情報"……しかも俺の正体とは、まぁ言い値と言ったのは俺だしな。で、本当にそれでいいのか?」
「ああ、それでいい」
クレハはそう言葉を返した。その目は覚悟を表すかの様だった。
……なるほど、こりゃ期待に沿える解答をしないと無礼って物だな。
「じゃあ、答える前に……えっと、確かここに……あった、あったほいっ"時食みの砂時計"発動」
俺は無限収納から空色の砂が入った砂時計の形をした魔道具―――"時食みの砂時計"を出して、砂時計と同じ様に使用する。
すると、なんという事でしょう!はいっ!時間が停止しました!
……うん。何て言うか自分でも何を言っているのか分かんなくなってきた。
時間が止まったことにより、今、この場で動いているのは俺とクレハだけになった。
「な―――ッ!クソ師匠!一体何をしたんだ!」
珍しくクレハが慌てていた。わぁお。珍しい。
「いや、何をって言われても時間を止めたんだよ。この魔道具。"時食みの砂時計"は砂が落ちきるまでの時間を実質、停止させる能力を持った自信作の魔道具だよ。……確か三十分程は時間を止めれる筈だ。ま、今回の情報はそれだけ重要って訳だ」
―――ついでに言えばこれが使い捨てということも口をパクパクさせているクレハに言っておく。
まあ、確かにこの魔道具は一回限りの使い捨てというデメリットが有るものの、それを抜きにしたらとてつもない効果を持つ魔道具だ。と言っても『完全に時間を止める』というよりかは、『限りなく時間の流れを遅くする』ってのがこの魔道具の本当の効果だが。
……それと、『完全に時間を止める』魔道具が"有る"か"無い"かと聞かれたら答えは"有る"である。まあ、その魔道具というか神器は俺が使用する事ができるが使う気は更々ない。……デメリットが余りにも大きすぎるからな。
「……本当に時間を止めたって事ですか」
「いんや。これは止めたというよりも遅くしただけだからぶっちゃけお前等の様な人間辞めちゃった奴からすれば、『あれ?何で周りの人達が止まってるんだ?』て認識になってる筈だわ。やっぱ、ギルドで俺の名前を吹聴したのはいいんだけど、一部の勝者にはしっかりと認識してほしいからな。俺なりの意思表示?的な奴と思ってくれれば」
要するに俺以外の生物(クレハ含む)は全員この魔道具の影響をばっちり受けているということだ。
……まぁ、この世界の人外さんは本当にやばいからなぁ。だいたい、ほぼ時間が停止しているっていうのに、あれ?で済んでる時点でおかしいから!
「……なんかもう、いいです。そういえばクソ師匠はこんな人?でしたね」
「ちょっとぉ!人の後に何で?が付いてるの!」
「え!?クソ師匠って人の枠に入って居たんですか!?」
「いや!俺だって人の枠に入って……あ、入ってないかも」
「ようやくクソ師匠が自分から人ではないと言ったな!それに、今はその話をしているのでしょう!」
あ、そうだった。
「ごめん、ごめん。で、俺の正体?だっけ?……正直言って信じて貰えるか自信が無いんだけどなぁ」
「今更、渋るつもりなのか?さっさと言え」
「うっ、何でそんなにばっさり言い切るんだよ。はぁもういいや言うよ。俺の正体?は―――
―――"獣神の歪"だ」




