#9
初めての舞踏会から3年がたった。晴れて10歳となり今年から魔法らしい魔法を覚えてもいいそうだ。
魔法の存在を知った時から自習しようとしたのだが、家族やメイドさんたちが一致団結してそれを阻止してきた。なんでも分別がつかない小さな子供が魔法を使うのは非常に危険だそうだ。
とある魔法使い夫婦が子供を英才教育しようとし、2歳くらいから魔法を教えていたそうだが、ある時癇癪を起した子供が放った火の魔法で家が焼け大火事に発展したこともあるらしい。家族は助かったらしいが、周りへの賠償に追われたそうだ。ちなみに、子供は成長して大魔法使いになったかというと微妙で魔法師団には属していたらしいが、そこまでの使い手ではなかったそうだ。
そんなことが何回もあり、小さな子供への攻撃魔法の教育は国を挙げて禁止されている。攻撃魔法の教育を早くからするより、瞑想などで魔力の制御をきちんとするほうが結果的に魔法を安定して使うことができるので有用なのだ。
というわけでやっと解禁された攻撃魔法の授業にワクワクしている。
ジョージ兄さんは去年学園を卒業し、成人したが、その後、経営高等学校に入学した。この学校は、領地の経営や、商会の経営理論から戦時の指揮についても学ぶ学校とのことで基本的に領主になる貴族の嫡男などが通う学校だ。
そこを卒業した後は、イリーナさんと結婚式を挙げて、領地に戻って直接、実地研修をする予定だ。領地にいるガイル爺さんはとても張り切って今から教科書になりそうな物を集めているそうだ。
ジョージ兄さんは、父様の遺伝を受け継いだのか非常にがたいがよく、体系も大柄になった。イリーナさんも女性としては背が高めだが、ジョージ兄さんと一緒にいると小柄な女性かと思うくらいだ。
リカード兄さんは相変わらずで、その見た目で女子生徒たちの目線を集めている。本人は迷惑そうにしているが、特に邪険に扱ったりはしていないようだ。
僕は、残念なことにジョージ兄さんと同じ遺伝みたいだ。年の割には背が高く、筋肉がついていると思う。
父様は相変わらずのマッチョだ。そして一番変わったのが母様かもしれない。昔はぼっちゃりくらいだったが今では恰幅が良いと言えるくらいになってしまった。なんというか肝っ玉母さんみたいな感じだ。それでも、夫婦仲は、良好でよく二人で甘い雰囲気を出して子供たちが気を遣う状況がよくある。
ちなみに舞踏会が終わった後から母様は、なぜかシルビアにもダンスや礼儀の稽古をつけていた。
剣の稽古については、ジョージ兄さんはひとまず免許皆伝みたいな感じになっていた。サロネン先生と1対1で試合をしても10本に1本くらいはとれるようになっていた。まだまだ、精進が足りないと言って訓練には参加している。
リカード兄さんは、やはり細剣が得意なようで最近は細剣の訓練を主にやっている。まだ、サロネン先生には勝てていないようだが時間の問題だとサロネン先生も言ってた。
そして、僕だが、通常の剣の稽古はサロネン先生に指導してもらい、週に1回ミリアさん、サロネン先生の奥さん、に稽古をつけてもらっている。なんというかとても実践的で試合形式で教えてくれる。向こうから短剣を振るってくることはないが、短剣を振るわないだけで足を引っかけられたり、空いた手で掌底みたいなものを繰り出してきたりする。
「坊ちゃん、相手の武器ばかりに目がいきすぎですよ。」
と言い方は丁寧だが、その戦い方は現場というか喧嘩みたいなものだった。しかし、そちらのほうが性に合っているのかどんどん実力がついていくのを感じる。
ユリシーズもイグを伴って剣の稽古を続けておりたまに呼ばれる。
その時にミリアに習った技を使うと一回目は高確率で引っかかってくれた。卑怯者と言われるかと思ったが、そういう戦い方もあるのかと逆に感心していた。しかしミルトンさんは苦い顔をしていた。
「ヴェニー、そういった小手先の技を教えてもらっているじゃないだろう、そういう技を受けないようにするために教えてもらったんじゃないのかい。」
その通りです、ミルトンさん。
すぐに謝ってミルトンさんの訓練を受けた。
さすがに3年もたつとイグも剣の腕が上がったみたいで、よくユリシーズと試合形式の訓練をしていた。
結構いい勝負をしている。
「俺のほうが早くに稽古を始めていたのに追いつかれるとは・・・」
ユリシーズが何か悔しそうにしていた。
「ユリシーズ様、稽古の1年なんて誤差ですよ。それにイグは基礎体力が結構ありましたから、実質差は1年未満ですしね。」
「わかっている。」
そんなことを言い合いながらたまにユリシーズの屋敷で稽古をしている。
学校では、いろいろなことを教わっている。歴史や、最新の、あくまで教科書に載っている範囲でだが、技術なども勉強していた。人類の歴史が始まってからまだ1000年しかたっていないとのことだ。あくまで歴史が記され始めてからだが、まだ1000年。自分のいた世界の1000年くらいはまだ、中世くらいだったが、この世界の文化水準はいろいろちぐはぐだが、中世よりは進んでいるように思える。やはり、魔法や、魔道具、魔導機関の恩恵があるのだろう。
さて、待ちに待った魔法の授業である。まず教えてもらうのは身体強化の魔法だった。ここで新たなことが分かった。魔法が使えない人も身体強化は使えるとのことだ。自分の中の魔力を外に放出したり、外の魔力を動かしたりといったことができないだけで、自分の中の魔力は普通に使えるのだ。
身体強化の魔法だが、結構難しい、加減を間違うと少し跳ねるつもりで吹き飛んだりする。今もそこかしこで子供たちがピョンピョン跳ね飛んでいる。
魔法の先生の注意が飛ぶ。
「魔法が使えるものは、外の魔力を取り込まないように注意しろよ。大けがをするからな。」
どういうことか聞いてみると、外の魔力まで使用した身体強化を行うと体のほうが耐えられないのだとか。
昔の実験で外の魔力を取り入れて身体強化をした人がいるが結果大けがをしたそうだ。身体強化をして腕を高速で振り下ろしただけで手先の血管がずたずたになった。そして、血管も強化したがそしたら、腕の途中の血液がなくなってしまい、具合が悪くなり危うく死ぬところだったらしい。
そんな話を聞きながら、注意して身体強化の魔法に慣れていった。ユリシーズが一番に慣れた。
まあ、彼は光属性だったから、悔しくないやい。
その結果、半年もすると全員普通に身体強化が使えるようになり、鬼ごっこや剣術の授業がグレードアップした。
まだ、筋力の強化くらいしかできないが、そのうち防御の身体強化なども教わる予定だ。
そして、さらに半年、身体強化の魔法の習熟をし、11歳になりついに攻撃魔法と呼ばれるものを習う。
その際、魔法が使えない生徒は、そのまま身体強化の訓練を受ける。
魔法の先生が見本を見せてくれる。
「放出魔法を使うには、イメージが大事だ。まず手本としてファイアーボールの魔法を使う。よく見ておくように。」
そういうと短い短杖、ロッドというそうだ、を的に向けてファイアーボールとつぶやいた。
するとロッドの先端に拳大の火の玉が出来上がり的に向かって真っすぐ飛んで行きボンッという音とともに的に命中し爆発した。
「まず、ロッドを的に向けて、火の玉がロッドの先端にあるイメージをするんだ。その際に魔力をロッドから通じて先端から放出するようにな。」」
言われた通りにロッドを的に向けてイメージをしながら魔力を放出する。すると手に熱を感じた。
「すごい、魔法が使えている。」
先生ほど大きくはないが火の玉がロッドに張り付いていた。不思議と熱くはなく、あったかいくらいだった。
「それを的に向かって飛ばすイメージをしてみろ。」
イメージをすると火の玉がするすると移動した。とても先生が発射した速度ではない。
「もっと弾き飛ばすようなイメージをするんだ。」
そういうことか、さっきは的に向かって移動するイメージをしてしまった。鉄砲みたいにロッドの先端で爆発して弾け飛ぶイメージをしてみた。
パンという乾いた小さな音とともに火の玉が3つ横の的に命中した。
ああ、爆発のイメージだけだったからどこに飛ぶのかわからないんだ。仮想の銃身がロッドから伸びているイメージをし再度、爆発させてみた。
またもやパンという音とともに今回は、目の前の的に命中した。その後も何回発射して的に命中させた。
「イースディルは、なかなか命中率がいいな。どういうイメージをしたんだ?」
先生が聞いてきた。ここは正直に答えるか。
「ロッドの先端から筒が生えているイメージでその中に火の玉を飛ばすイメージをしました。」
「なるほど、その筒のイメージで火の玉を飛ばす方向を制御しているのか。どれ、」
先生も気になったのか的に向かって掌を向けファイアーボールを放った。火の玉は的の真ん中に命中し、ボンッと爆発を起こした。
「これはいいな。次から生徒に教えたいんだがいいだろうか。というか、論文の参考にさせてもらいたい。もちろんイースディルが発見したことも書くが。」
「はい、いいですよ。」
まあ、これくらいは内緒にするものでもないか、どちらかというと銃からイメージしたんだから。そのうち気付くことだ、最初の1人になれるならなっておこう。
ボォンと大きな爆発音がした。音がしたほうを見るとシルビアがファイアーボールを乱射していた。
「むう、なかなか当たらないわね。えい、えい」
その火の玉の大きさは、先生が出した火の玉より一回り大きく、爆発の威力もあるようだった。
「ま、まて、スネイク練習場を壊す気か。落ち着くんだ。」
先生が慌ててシルビアのほうに行った。
生徒であの威力が出るのも想定外だし、そのうえ連射されるとも思っていなかったのだろう。
授業が終わりシルビアとともにユリシーズのもとに向かった。
「ユリシーズどうだった。」
「ファイアーボール自体は簡単だったが、的に当てるのが難しいな。」
「そうよね、ヴェニーは結構命中させてたけどどうやってたの。」
「ああそれはね・・・」
先生に説明したのと同じ説明をした。
「なるほどねえ、よく思いついたわね。」
「銃を見せてもらったことがあって、そこから思いついたんだ。」
そういうことにしておこう。
「なるほど銃か、お前のファイアーボールのスピードもかなりのものだったが、そういうイメージか。」
「うん、ロッドの先端でで爆発を起こして火の玉を弾き飛ばすイメージをしたんだ。」
「そうか、次回の授業で真似てもいいか。」
「あっ、私も真似したい。」
「もちろんいいよ。」
ユリシーズは有用なことはすぐに真似をする。無駄に意地を張っても意味がないことを知っているんだ。
そして、次の魔法の授業で先生から命中率を上げるための秘策として説明が行われた。
ユリシーズのほうからもボンという的に目中した音が聞こえてくるが、それ以上に
ボォンと大砲のような音を鳴り響かせながらシルビアが大きな火の玉を連射している。
「待つんだ、スネイクそれ以上は的が壊れる。というか練習場が壊れる。もう少しゆっくり撃ってくれ。」
先生がすぐにシルビアを止めに入っていた。