#6
ガードナー公爵家の庭
「まずは、私の型を真似てみてください。」
そうしてミルトンさんが剣術の基本となる型を披露し始めた。
本当に基本の型は流派を問わずほぼ同じものとなる。なんでも剣術の始祖と言われる人が広めたものがすべての基礎になっているとのことだ。
そして2人一組で型を見せ合い指摘しあう。ほどなくして僕とユリシーズがミルトンさんに呼ばれた。
「じゃあ、ユリシーズ様とヴェニー君で試合をしてみましょうか。こっちに来てください。」
「はい」
「わかった」
それぞれミルトンさんのもとに行くとミルトンさんが手をかざし目をつむった。
「精霊の加護よ、どうかこの2人を守りたまえ。」
そういうとミルトンさんの手から光が放たれ、それを受けた僕とユリシーズの体がわずかに光った。
それが収まるとミルトンさんが目を開き。
「じゃあ、防御の身体強化魔法をかけたから存分に打ち合ってください。」
「身体強化魔法って自分以外にもかけられるの?」
「はは、これはまあ、裏技みたいなものだけどね。闇属性が人の体に変調をきたす魔法ってのは聞いたことがあるかい。」
「はい、あります。なので悪用してはいけないと聞いています。」
「いい子だ、その闇属性だけど、人の体に影響を与えるんだけどいい影響を与えることもできるんだ。今みたいにね。」
「そうなんですね。僕にも使えるようになりますか?。」
「その辺は適性が分からないとね。」
「この間適性検査を受けましたよ。」
「いや、12歳になったらもっと細かい適性の検査があるんだよ。そこで判断することになるね。さて、話をしててもなんだし、始めてみようかそれぞれ構えて」
そういうとミルトンさんは少し離れた位置に立った。
「じゃあ、ユリシーズ手加減はしないからね。」
「当たり前だ、お前に手加減されたなんて情けないことはされたくないからな。」
相変わらずの毒舌である。
そういうとユリシーズは半身で剣を突き出した構えをとった。いわゆる宮廷剣術というものらしい。儀礼的な部分も多いが実際は、室内などの狭い空間で戦うのに適した実用的な剣術らしい。こちらも片手剣を相手に向ける。僕の剣術は冒険者や騎士団が一般的に使うもので盾の運用も考えられたものだ。そして一拍を置いて。
「始め!」
ミルトンさんの声がかかる。
同時にユリシーズが飛び込んできて右から左に剣を振るった。それを僕は一歩下がりよけすぐさまカウンターを仕掛けようとしたが、ユリシーズはすぐにもとにいた位置に飛びのいていた。一瞬で攻撃しすぐに下がるヒットアンドアウェイの戦法のようだ。ならこちらは手数で勝負だと飛び込み連続で突きを繰り出した。
「っく」
ユリシーズはギリギリで突きをさばき切った。やばい反撃が来る。そして、さばいた剣の形のまま上から下に切りかかってきた。
「うわっ」
危なかった。ギリギリ後退が間に合ったようで前髪を剣がかすっていった。
「やるな。」
「ユリシーズもこんなに強いなんて。」
でもさっきのでユリシーズの弱点はわかった。押し込まれると対処がうまくできないようだ。しかし、こちらの弱点も読まれたかもしれない。実は僕は長剣の扱いが苦手だ。どうにも長すぎて取り回しがうまくいかない。
そんな事を考えているとユリシーズが飛び込んできた。先ほど僕がやったように連続で突きを放ってきた。
「この」
さばいていくが終わりがない。ついに僕の手に一撃が加えられ剣を取り落としてしまった。
衝撃はあったものの、痛くはなく、まじまじと手を見てみる。
「そこまで、さすがユリシーズ様です。でもちょっと強引な勝ち方でしたね。」
「ふん、こいつには負けたくないからな。」
「はは、さてヴェニー君手はどうだい痛くなかっただろう。」
「はい、防御魔法ってすごいですね。」
「そうだろう、君もそのうち自分に魔法をかけられるようになるよ。それより、君はその剣の取り回しに苦労してたようだね。」
「そんなことは・・・」
「いや、いいんだ。得意な獲物っていうものは人それぞれだからね。まあ、何でも使えたほうがいいにはいいけど。この剣を使ってみたらどうだい。」
そういってミルトンさんは少し短めの片手剣を渡してきた。それを何回か振るったり型確認したりしてみる。
うん、使いやすい。先ほどの剣だと長すぎる感じがしたけどこちらだとちょうどいいかもしれない。
「使いやすいです。」
「やっぱり君は長剣より短剣のほうが得意だったか。それでもう一度試合をしてみようか。」
「はい」
「ユリシーズ様もそれでいいですか。」
「いいぞ、また俺が勝つだけだからな。」
そういって構えると。
「始め!」
ミルトンさんの掛け声が聞こえた。
先ほどと同じようにユリシーズが飛び込んでくる。前回は飛びのいたが、今回はこちらも前に出て先制を加えようとする。
「なっ!」
ユリシーズは驚いたように短剣を叩き落そうとするが、もとより短い剣なのだ。ちょっとの衝撃でも手を離れることはない。そしてユリシーズの胴に短剣を突き立てる。
「そこまで」
今回はカウンターがうまくいった。
「ユリシーズ様は、強引に攻めすぎですね。1回目はうまくいきましたが、2回目は待ちかまえられていましたよ。」
「ふん、もっと稽古をして次は短剣にも勝ってやる。」
「その意気です。ヴェニー君は先ほどの動きはよかったですよ。何より攻められたときに前に出る。それが良かったですね。後ろに下がりたくなるところですが、短剣はリーチがないですからね、下がると、追いすがられて攻め切られてしまいます。あえて攻撃の勢いが弱い時点を狙うのですよ。」
「わかりました。」
その後、型の確認をしているシルビアとイグの型の確認をした後、また長剣に持ち替えて宮廷剣術の型を教えてもらった。いいのかと思ったが。
「まあ、基本中の基本の型だからいいよ。そこいらの剣術道場でも習えるしね。」
とのことだった。もっと深い部分は秘匿されているとのことだ。
その後、何回かユリシーズとも試合をやったが、短剣を警戒されて勝負は五分五分だった。
「はあ、疲れた。いいわねヴェニーたちは剣を振り回せて。」
「何を言うんだよシルビア、基本ができてない状態で剣を振り回すと危ないじゃないか。」
「そうぞ、それにお前は最初見ているだけだと言ったではないか。」
「あら、いいじゃない楽しそうだったんだから。私もお父さんに剣術を習おうかしら。」
「そうだ、イグ、次回は迎えに行かないがきちんと家に来るんだぞいいな。」
「うん、わかりましたユリシーズ様」
「だから様はいらないと、お前のほうが年上なんだぞ。もっと堂々としろ。」
「いや、これが普通なんですが・・・」
「お前の父親の豪快さはどこに行ったんだ・・・」
そんなことを話しながらユリシーズは家まで車で送ってくれた。
「また、お前の家まで行くと迷惑をかけるからな。ここから帰れるか?」
「うん、ここからなら家まで近いから大丈夫です。」
「そうか、またな。」
そういってユリシーズは車に乗り込み帰っていった。
「はあ、今度は公爵様の家に直接行くのか。」
「なんだそんなに嫌だったのか。」
「そうじゃないんです。ただ、平民が行くにはちょっと・・・」
「まあいいじゃないかそのうち慣れるよ。次回は僕たち参加しないけど頑張ってね。」
「ええ!そんなあ。」
「それにうちも伯爵家だから貴族っちゃ貴族だぞ。」
「そうだった。ご無礼をお許しください。」
「ああ、冗談、冗談だってばそんな態度とらないで。」
「えっ、でも。」
「お願いだから!」
「わかりました。いや、分かったよヴェニー。また明日学校で」
「うんじゃあねイグ、また明日。」
「また明日」
イグも帰っていった。もちろん徒歩で。その後、家に戻りシルビアを送っていく準備をしていたら、サロネン先生が出てきた。
「おかえりヴェニー、シルビア、どうだった、ガードナー公爵家の剣術は?」
「あっ、サロネン先生こんにちは、すごかったよ、宮廷剣術の型を習ったり、ユリシーズと試合をしたりしたんだ。」
「試合を?怪我はしなかったか?」
「大丈夫だよ。ミルトンさんって人が見ててくれたんだけど防御魔法を僕たちにかけてくれたんだ。」
「なるほど、闇魔法か。わかった。ミルトン・オーエンズっていえば騎士団でも上から数えたほうが早いくらいの実力者だというが、さすがは公爵家だな。そんな人を剣術師範にするとは。」
「そんなにすごい人なの」
「そうだ、いろいろな作戦を手掛けていていずれも成功を収めている。何より彼が隊長になってから部隊員の損失が目に見えて減ったそうだからな。さて、話し込んでいてもなんだな。そろそろ帰るとしよう。シルビア帰るぞ。」
「はい、お父さん。そうだ、私にも剣術を教えてよ。」
「む、そうだな、考えておこう。」
「考えるんじゃなくって教えてよ、もー」
「まぁ、なんにしてもまずは体力づくりからだな。」
「うん」
「では、また明日来るからな。」
「はい、先生また明日。」
そうして、サロネン先生とシルビアは帰っていった。
「サロネンの奴、シルビアが心配で家にいられなかったみたいだな。」
父様が笑いながら出てきた。
こちらの様子をうかがっていたようだ。
「父様は僕の心配してくれた。」
「もちろんだとも、さあまずは風呂に入って着替えてくるんだ。」
そういうと、僕をメイドさんい預けた。風呂に入ってメイドさんが用意してくれた服に着替える。
夕食の準備が済んでいるとのことでダイニングルームに行って今日の話をした。
「そうか、ヴェニーは短剣術のほうが得意か。わかった。ちょうどショートソードの切れ味が鈍ったものがあったんだ、研ぎに出す予定だったが、刃をつぶしておこう。」
「ありがとうございます。父様」
「いいよ、でも短剣が得意だからと言って長剣の稽古はちゃんと受けるんだよ。一応サロネンにも言っておくけどね。」
「はい、わかりました。」
そんなことを話しながら家族団欒をしている。自分は幸せなんだと思う。