新たな仲間
はっとなって目をさますと、辺りは既に暗くなり始めていた。
爆睡していた間魔物に襲われなかったのは奇跡だな、と思いながらカーティスの姿を探すが、その姿が見当たらない。
「カーティス?」
念のため、周囲を探そうと立ち上がると、強い頭痛に思わず顔をしかめる。
「いてて、もしかしてこれが二日酔いってやつか…」念のためステータスを確認すると、
種族,コボルト
名前,????
レベル6
状態,酩酊
HP,29/29
MP,7/7
筋力12
敏捷10
器用度17
賢さ8
耐久力10
攻撃力:17
守備力:16
酩酊か…。
つまり、今の俺は酔っぱらいってことか。
ふらふらとした足取りで数歩歩いたところで、茂みが揺れる音がした後、赤毛のコボルト、カーティスが姿を現した。
「おう、起きたか」
笑って近づいてくる姿を見て、魔物に襲われなかったのは奇跡ではなく、先に目覚めたカーティスが警戒してくれていたおかげなのだと分かった。
「少しは酒は抜けたか?」
問いかけに頷くと「では行くか、もう日も暮れたしな」と言って歩き出した。
カーティスに遅れまいとふらふら歩いた。
まだ頭痛がしてはいたが、森を抜けていく風をあびている内に、だんだんと気分はスッキリしてきた。
…と、何か気配がする。これも気配探知のお陰か。
カーティスも同様に気づいているらしく、目の前の草むらを無言で指差した。
向こうが飛び出してきたら、こちらから仕掛けようと準備する。
しかし、草むらの揺れ具合からして相手は大きくはないようだ。
今か今かと待ち構えること1分、気配の主が正体を現した。
種族,サンダーラット
状態,健康
HP,17/17
MP,7/7
筋力14
敏捷20
器用度11
賢さ7
耐久力9
攻撃力:19
守備力:15
出てきたのは小型犬と同じくらいの大きさのネズミだった。
「へぇ、可愛いなこいつ」
くりくりとした目で見つめてくるその愛らしさに、頭をなでようと手を伸ばす。「待て、そいつは」
「え」
制止の言葉が聞こえるのと、パリッという音が聞こえたのは全くの同時だった。バリバリバリと音をたてて全身を電流が走っていく。「ぎゃああぁぁぁ!!」
数秒後には、全身痺れてばったりと倒れこんだ。
種族,コボルト
名前,????
レベル6
状態,麻痺
HP,20/29
MP,7/7
筋力12
敏捷10
器用度17
賢さ8
耐久力10
攻撃力:17
守備力:16
ステータスを見ると、案の定麻痺しているらしい。
「間に合わなかったか。こいつはな、一際用心深い性格で、迂闊に触ろうとするとそうなる」
もう少し早く言って欲しかった…とは言っても、勝手に手を伸ばしたのは俺なんだが。
サンダーラットは、距離を取って威嚇するようにこちらを見つめている。
その全身からは、パリッという音をたて青白い電気が走っているのが見えた。
「いてて…悪かったよ、別に危害を加えようと思ってやったんじゃないんだ」
しばらくして、ようやく麻痺が解けてからサンダーラットに言葉をかける。
というか、こいつと意志疎通なんて出来るのだろうか。
…どうやら、意志疎通は出来なかったらしい。
サンダーラットは興味を無くしたのかそっぽを向くと、そのままどこかへ走り去ってしまった。
「ははっ、災難だったな。立てるか」
「あ、ああ」
カーティスの手を借りてなんとか立ち上がると、再度集落へ向かって歩き始めた。
さっきの電撃攻撃で、酒の余韻は一気に吹き飛んだみたいだ。
それだけは良かったことかもしれない。
その後は偶然にも魔物と出くわすことなく、集落へと帰り着いた。
おかえり、今日の探索はどうだった、等々カーティスの姿を見たコボルト達がそれぞれ声をかけてくる。
それら全てに返事をしながら、二人してカーティスの家に向かった。
家の前までやってくると、なんともいえない良い匂いが漂ってくる。
「おーい、帰ったぞー」
カーティスが大声で叫ぶと、しばらくしてチビが飛び出してきた。
「おかえり、今日は何を持ち帰ってきたの?」
「ああ、古代樹のうろの中で作られる酒だ。チビも後で飲むか」
「うん!」
短いやりとりのあと、チビは家の中へと戻っていった。
あれ、あんな小さい子にお酒を飲ませてもいいのだろうか…でも、異世界の基準はよく分からんし、そもそもチビは人間ではなくコボルトだ。
コボルトにお酒の対象年齢なるものがあるとは思えないし、多分大丈夫なんだろ。
一人で納得すると、良い匂いに釣られるようにして家に入った。
戦闘の連続で疲れていたのか、一通り飲み食いすると、すぐに寝入ってしまった。
「ねえカーティス、話があるんだけど…」
旅するコボルトのお兄ちゃんが寝入ってから、僕はカーティスに声をかけた。
「ん?何だ」
お酒を飲んで気持ちよさげにしていたカーティスだったが、僕の表情を見ると真面目な顔になって向き合ってくれた。
「どうした、何か大事な用件なのか」
「うん」
心の中の僅かな迷いを振り払い、カーティスに思いの丈を口にした。
しばらく、カーティスは黙って聞いてくれていたが、僕が話終えた後、ただ一言「分かった」と言ってくれた。
眩しいな…もう朝か。
ああ、こういうとき全身がもふもふした毛に覆われてるっていいなぁ。
毛布や布団をかぶらなくても、気持ちよく眠れる。
眠気を振り払い起きてみると、チビが俺の方に話しかけてきた。
「おはよう、お兄ちゃん。お兄ちゃんに聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「どうしたんだ、朝っぱらから」
目をこすりながらチビを見やると、どこか緊張している風に思えた。
「お兄ちゃんは、いつまでこの集落にいようとか、具体的に決めてるの?」
「そのことか。うーん、いつまでも世話になり続けるのも申し訳ないから、今日明日にでも出発しようと思ってる」
それに現世に戻るためにも、あちこち見て回る必要があるだろうと考えていたところだった。
「そうだな、急だが今日の昼にでも出発するか」
善は急げ、思い立ったが吉日とも言うしな。
「ま、待って!」
カーティスを含め集落の皆にも世話になったから、一言挨拶をしていこうと立ち上がったところで、チビに呼び止められた。
「あ、あの、もし良かったら僕もお兄ちゃんの旅に付いていきたいんだ」
「え?俺に」
「うん!」
聞き間違いかとも思ったが、真っ直ぐ俺を見つめるチビの目は真剣そのものだ。「そのことは、カーティスには話したのか?」
「もちろん。分かったって、思う通りにやってみろって言ってくれたよ」
「でも、何で付いてきたいんだ?」
「僕は、今までカーティスや集落の皆に守られながら生きてきた。でも、これからは僕も力をつけて、集落の皆の力になりたい。そのために、世界の色んなものを見て回りたいんだ」
「…分かった」
カーティスも了承済みならば、俺からは反対する理由はない。
「これから宜しくな」
俺が差し出した手を見て、チビは満面の笑顔でぎゅっと強く握手を交わした。
というわけで、これから白コボルトのチビと二匹連れ立っての旅になります