美酒を求めて
レベルが4に上がった!
技能,渾身撃(習熟度1)を覚えた!
種族,コボルト
名前,????
レベル4
状態,健康
HP,22/22
MP,2/2
筋力8
敏捷6
器用度12
賢さ6
耐久力7
攻撃力:13
守備力:13
技能、【言語理解(習熟度1)対象言語:人語、初級蛮族語】【食の探求者(習熟度1)】【カウンター(習熟度1)】【渾身撃(習熟度1)】
種族特徴、 長毛(耐久+1)
所持品、薬草×3、毒消し草×2、蜂蜜草×3、火炎草×2、グンタラビットの角×8
所持金、なし
装備品
一角剣(攻撃力+6)
皮の鎧(守備力+5)
木の盾(守備力+2)
集落を出てから既に一時間、俺はひいひい言いながらカーティスの後ろについて歩いた。
レベルが4に上がったことを喜ぶ余裕もない。
「どうした、もうへばったのか」
だらしないなぁと呆れながら声をかけてくるカーティスに対して、ろくに言葉を返せないでいた。
もう何度目か分からないウサギの襲撃を難なく蹴散らし進んでいるが、それは全てカーティスの圧倒的な強さ故である。
この異世界で、RPGの主人公のように華々しく活躍して、一気に元の世界へ…という夢は一時間ともたずに崩れさった。
「ピュンタラビットやグンタラビットは、この森じゃそう強くない。この位は軽く撃退出来ないと、この先の旅は続けられんぞ」
「そうは、いっても、しんどいものはしんどいんだ」
息を調えながら、カーティスの言葉に応える。
というか、今聞き捨てならないことをカーティスは口にしなかったか?
「あのウサギ達はこの森ではそう強くないって聞こえたけど」
「ああ、そうだな。ちなみに、今俺たちが向かっている先にもウサギより強いモンスターはいるぞ」
…聞き間違いではなかったのね。
集落でチビにも言われたことだったが、自分の弱さとカーティスの強さを同時に思い知ることになった。
「よし、なら俺が周囲の警戒をしておくから、5分位休むといい」
「ありがとう、助かる」
横倒しになっている大木の幹に背中をあずけて座り込んだ。
「そうだ、聞き忘れていたんだがここから目的地までは遠いのか。あと、今まで出会ったウサギ達を一匹も殺してないのは何故なんだ?」
「いや、あと一時間といったところだろう」
周囲に気を配りながら、カーティスはこちらの問いに答えてくる。
「それと、俺は無益な殺生は嫌いでな。生き物を殺すのは我々が生きるためのみ。享楽で殺しをやるのは人間だ」
今の言葉には、付き合いの短い俺でも感じ取れる程の憎悪が感じられた。
「ここから先はトレントの住処だ。ただ、あいつらはこっちが何もしない限り危害を加えてはこないから安心していい」
言葉を返せずにいると、何事もなかったように元の調子でカーティスは語りかけてきた。
ならば俺も気にしないようにしよう。
「トレントって木のモンスター?」
その名前なら聞き覚えがある。
RPGでよく出てくる植物モンスターだ。
「そうだな。大木が意思を持ち、動き出した連中だ。動きは遅いが、奴等は魔法を使うから用心しないといけない」魔法か、俺もこの世界で魔法を使ってみたいもんだ。隕石の様な巨大な火の玉で群がる敵を焼きつくし、氷刃で空間もろともに敵を氷付けにしていくことが出来たら…。
「よし、もう十分休んだろ。それなら出発だ」
「…えっ!?あ、ああ」
颯爽と活躍する自分の姿を妄想していた俺は、カーティスのかけ声で我に返った。
再び歩き始めながら、ふとカーティスの強さは具体的にどの程度なのだろう、と考えながら彼の背中を見つめていた。
技能:戦力把握(習熟度1)を習得した!
種族,コボルトウォーリアー
状態:健康
HP,72/72
MP,10/10
………。
今はまだHPとMPしか分からないようだが、やはり俺よりはるかに上だ。今はゲームのチュートリアルの様なものと考えて、少しでも多くの知識と技術を学ぶことに専念しようと決めた。
「待て、何か…変だ」
前を進んでいたカーティスの鋭い声に、俺もはっとして周囲を警戒する。
しかし、俺では何も感じられない。
「何かがこの森で戦っている。この感じからして、そう遠くはないな」
どうする、とカーティスは問いかけてきた。
このまま進めば、戦闘が行われている場所にぶつかってしまう。
遠回りをしてもいいとカーティスは言ってくれたが、俺はその戦闘が気になった。
それに、青臭いかもしれないが誰かが死にかけていたとしたら助けたいとも思った。
「このまま進もう」
カーティスはしばらく考えていたが、分かったと頷いてくれた。
そこからは極力気配を消して歩みを進めた。
数分ほど歩くと、ようやく俺にも間近で戦闘が行われているとはっきり理解出来た。
息を潜め、更に近づいて見えてきたのは予想の遥か上をいく光景だった。
種族,アースドラゴン
HP,900/900
MP,550/550
その戦いは、圧倒的であり一方的なものだった。
アースドラゴンの周囲では3人の人間が必死に抵抗しているが、もはやそれは戦いとは呼べないものだった。
既に2人、大量の血を流し全身を引き裂かれて地に伏している。
隣を見ると、カーティスも言葉がなく、ただ目の前の光景に心を奪われていた。「ホールド!」
3人の内魔術師風の男がドラゴンに対し手をかざすと、ドラゴンの周囲に光の帯が現れ、一時的に動きを封じこめた。
「雷撃!」
「大火球!」
その機を逃さず、残った二人も呪文を唱え、ドラゴンに命中すると派手に爆炎が上がる。
「やったか…?」
生き残っている3人組のリーダーとおぼしき青年が、その爆炎に近づいていく。「ぐ、ぎゃあぁぁ!!」
瞬間、爆炎の中から伸びてきた鉤爪によって青年は引き裂かれて絶命した。
ドラゴンは無傷だった。
いや、正確には多少の傷を負ってはいるものの、それは致命傷には程遠いかすり傷のようなものだった。
一瞬にしてリーダーを失い混乱状態にあった二人も、リーダーの後をおって絶命した。
体感では一時間以上に感じられた今の戦闘は、実際のところわずか四、五分の出来事だった。
全ての敵を片付けたアースドラゴンは、巣穴らしき大洞窟の中へと姿を消していった。
「ふん、おおかた欲に目が眩んだ人間が竜の財宝目当てに押しかけて返り討ちにあったのだろう。自業自得だ」
惚けていた俺の横で、カーティスは吐き捨てるように言葉を口にした。
「アースドラゴンは人間どものせいで気が立っている。今日は諦めた方が良さそうだ」
「ああ、分かった」
俺は頷くしかない。
万が一あのドラゴンと戦うようなことになれば、例え100万回挑んだ所で勝てっこない。
俺達はドラゴンを刺激しないよう、息を潜めながら集落へと戻ることにした。