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初めの一歩

「うぅ…頭痛い」

翌朝、俺は頭痛で目が覚めた。

昨日は流石に騒ぎすぎた。どこの誰とも分からない俺のために、盛大な宴会を開いてくれた。

「それにしても、ピュンタラビットの直火焼きは旨かったな。よく考えてみれば、この世界にきて初めてのまともな食事だったわけか」

しかも、自分と卓を囲んでいたのは皆コボルトだ。

まさか、ゲームに出てくるモンスター達に囲まれながら食事をする日が来るとは、と少し感動した。

ピュンタラビットの直火焼き、蜂蜜草のサラダ、トレイルクラブの蒸し焼き、それに、なんといってもベリーズワイン!

数種類の果実を用いて作るワインらしいが、これが非常に美味しかった。

何でも人族の町から略奪したものと言っていたが…。

「おう、起きたか」

「うおっ!?」

力強い声が突如聞こえたことに驚き周囲を見回すと、ニヤニヤと笑うカーティスと目があった。

「なんだ、意外と酒に弱かったんだな」

「弱いも何も初めて飲んだんだから分かんないさ」

人間だった頃は、一度も酒を口にしたことはなかった…はず。

「今回のベリーズワインは人族が作った物だが、この森には天然の酒が手に入る場所もある。どうだ、せっかくだし一緒にその酒を取りに行かないか」

「もちろん行くよ」

悩み理由などない。

またあんな旨い酒が飲めるなら、それに世話になっているカーティスからの誘いである。「よし、それじゃ決まりだな。色々準備もあるだろうから、一時間後にこの広場に集まろう」

「分かった。でも準備も何も、何も持ってないんだが…」

持っているものといえば、昨日拾った火炎草、蜂蜜草にグンタラビットの角だけだ。

一般的なRPGである様な、お金を持って武具を買い求め、道具を揃えるなど出来ない。

そもそも自分は文無しだ。加えて、人間の町でならまだしも、蛮族の集落に武器屋や道具屋があるとは(偏見かもしれないが)思えないのだが。

率直にそのことを伝えると、カーティスはすっかり忘れていた、と口にしてガハハと大声でしばらく笑っていた。

「そういえばそうだったな。

よし、グンタラビットの角があっただろ?あれは、ちょっと加工すれば武器になる。俺に貸してくれないか」

分かったと頷き、袋から昨日手にいれた角を渡すと、カーティスは集落の西を指差した。

「集落の西の端にあるのが俺の家だ。そこにあるものは自由に使ってくれて構わない。それで準備を整えればいい」

「それはいいけど、勝手に入っていいのか?」

「ああ、家の前に白いコボルトがいるはずだ。俺はチビと呼んでるが、そいつに俺が入っていいと言った、と伝えれば入れてくれるさ」

「ありがとう。恩に着るよ」

「恩に着る?どういう意味かはよく分からんが、まあ気にするな。俺はその間に、この角を加工しておこう」

「ああ、宜しく頼むよ」

そう言って俺は広場から西にあるというカーティスの家に向かった。

やっぱりというかなんというか、周囲のコボルト達からすごく見られている。

ここまで注目されると、恥ずかしいやら緊張するやらで精神的に参ってしまいそうだ。

今は周囲の視線を極力気にしないようにしつつ、西へ西へと歩いた。

5分ほど歩くと、集落の端にこれまで見てきた竪穴式の家とは違う、石造りの家が視界に入ってきた。

「これがそうかな」

とりあえず入り口を探そう、と歩みを再開した直後に背後から声をかけられた。「お兄ちゃん、何やってるの?」

「えっ!?」

背後へと振り返ると、そこにいたのは全身真っ白な毛に覆われたコボルトだった。

この一日で多くのコボルトを見てきたが、その中でも小柄で綺麗な毛並みをしているなと感じた。

「お兄ちゃん、昨日僕たちの村に来たコボルトでしょ。カーティスの家に何か用なの?」

「ひょっとして、君がチビかい?」

「うん、そうだよ」

俺のことを不思議そうに見ていた白いコボルト、もといチビはこちらの問いかけに対し笑顔で応えてくれた。

「えっと、これからカーティスと探索に行くことになってね。それで家にあるもので準備を整えてきてくれって言われたんだ」

「カーティスから言われて来たんなら、入っていいよ。来て」

そう口にして、チビは俺の手を引っ張りカーティスの家へと入れてくれた。

「へぇ」

ドアをくぐり中をざっと見渡した俺は、思わず声を漏らした。

家の中には、必要最低限の家具と、恐らく色々な物をしまっているのだろう道具箱以外は何もなかった。

椅子も机も道具箱も、綺麗に磨きあげられた様なものではない。

家具は全て木製で荒削りであり、一目で手作りのものだとわかる。

ここがカーティスの家なのか、と不思議な気分になった。

「探索に役にたちそうなものはこの中だよ」

壁側にあった大きな道具箱をチビがよいしょ、というかけ声と共に開けてくれた。

「はい、これが傷を負った時の薬草。お兄ちゃんの持ってる火炎草は目覚ましにも使えるからね。それでこっちが……」

道具箱の中にある様々な道具・武具に関して、チビがあれこれと説明してくれたおかげで20分とかからずに準備は整った。




木の盾を装備した!守備力が6になった

皮の鎧を装備した!守備力が11になった




カーティスのお古ではあるが、一気に強くなったような気がした。

「あとはとりあえず薬草と毒消し草があれば十分か」それらも道具袋の中にしまっておく。

「もし何かに襲われても、カーティスが一緒なら大丈夫だよ。カーティスはとっても強いんだから」

薬草を袋に詰め終わった所で、横から力強い調子でチビはそのように口にした。「お兄ちゃんは弱そうだから、カーティスに守ってもらうといいよ」

「俺って弱そうなのか…」

こんな純真そうなコボルトに無邪気な笑顔で、弱そうなんて言われると、かなりショックなんだが。

まあ、俺が弱いかはともかくカーティスの方が俺より数段強いことは確かだろうから、ヤバくなったら遠慮なく頼ろうと決めた。

「それじゃいってらっしゃーい」

「ああ、行ってくるよ」

色々と手伝ってくれたチビに手を振りつつ、待ち合わせ場所の広場に向かう。

広場では、何やら細長く物騒なものを持ったカーティスが真剣な目つきをしていた。

「どうかした?」

「おお、来たか。ちょうど出来上がった所だ」

ほら、と言って手渡されたのは細長く研ぎ澄まされた武器だった。

「これがグンタラビットの角を削って加工した武器だ。一角剣って所か」




一角剣を装備した!攻撃力が10になった




なんだかレイピアに似てるな、と思った。

斬るより突くための武器だろう。

剣を持ち、盾と鎧を装備してやっと冒険者っぽくなった気がする。

「よし、それじゃ行こうか。うまい酒を求めて」

「おおー!」

カーティスと共に、集落の外へと向かう。

俺のこの世界における冒険の最初は、美酒を求める旅だった。

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