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信頼を勝ち取るために

急いで建物の中に入った。そこはどうやら厨房のようだったが、音がしているのはこの隣の部屋からだ。

隣の部屋へと通じる扉は施錠されていたが、だいぶ古いものらしく何とか壊せそうだ、と感じた。

「チビ、下がってろよ。俺は扉を破って中にはいるから、チビは後方から支援してくれ」

「分かった、でもどうするの」

チビの質問に答える代わりに、俺は一角剣を抜いて全力の刺突を扉に打ち込んだ。

ガキ、バキンッ!という派手な音と共に錠は吹き飛び、扉を蹴倒して中に入った。

「ドルフ、後ろ!」

「ちっ、新手か」

そこでは、キースが三人の男女の盗賊相手に戦っていた。

しかし、3対1という数の不利によってかキースも攻めあぐねているようである。

これならば、俺達でも力になれると感じた。

短剣使いに弓兵、それにもう一人は魔法使いだろうか、杖を持っていた。

ならば、キースと対峙している短剣使いは向こうに任せて、俺とチビで弓兵と魔法使いを相手にすることに決めた。

「チビ、援護頼む!」

そう叫んで、俺は弓兵の少女に接近して殴りかかった。

一角剣を用いて戦えば、勝てるかもしれない。

だが、やはり人間を…しかも少女に刃を向けたくはなかったのだ。

「そうはいかないよ、水球砲(アクアキャノン)

しかし、俺が接近するよりも魔法使いの少女が唱える魔法の方が早かった。

球状に収束した水が高速で俺めがけて飛んでくる。

室内では上手くかわすことが出来ず、直撃を食らい壁際まで吹っ飛ばされた。

直撃したとしてもたかが水、と甘く考えていたのが不味かった。

余りの衝撃に一瞬気絶しそうになり、すぐには立ち上がれない。

「お兄ちゃん!」

「おっと、おいたをする子にはお仕置きが必要だね。麻痺の(パラライズミスト)

俺に追撃しようとしていた魔法使いめがけ、チビが牽制のための矢を放ったが、魔法使いはそれを難なくかわしてのけた。

そればかりか、お返しとばかりに魔法を唱える。

「うっ、体が…お、お兄ちゃん…」

厨房に発生した黄色の霧はたちまちチビの全身の自由を奪い、意志に反してチビは膝をつき動けなくなってしまった。

「やったね、ターニャ」

「ああ、これで――」

「俺達の勝利、だな」

二人の少女が勝利を確信したその直後、猛烈な勢いで突進してきたキースは肩で魔法使いを弾き飛ばした。

「きゃあ!」

「っ、ターニャ!」

「形勢逆転だな」

体勢を崩した魔法使いに剣を突き付け、勝ち誇ったかのようにキースは言った。見れば、短剣使いの男は床に伏して動かなくなっている。

「…何が狙いなんですか?」

一人残った弓兵の少女が質問してきた。

確かに、俺とチビは動けないがキースを相手に二対一では勝ち目がないと判断したのだろう。

「別に戦闘が目的ではない。襲われたので仕方なく自衛のため反撃させてもらったが、こちらの話を聞いてくれるのであれば攻撃はしない」

そう言って、絶対的に有利な立場にいたはずのキースは剣を鞘に収め、床に置いた。

「あんた、本気?」

「これで、こちらの言葉が嘘偽りではないと信じてもらえたかな」

先ほどまで剣を突き付けられていた魔法使いが疑わしげにキースを睨み付ける。が、両手をあげ一向に動く気配のないキースを見て折れたのか、静かに首を振った。

「分かった、話を聞こうじゃないか。ノリスはどうする?」

「私も構いません」

「決まりだな。と、その前にこのコボルト達を治療させてほしい。その間、君たちはそこの短剣使いを見てやるといい」

双方無言で頷くと、キースは俺達の方へ、少女たちは短剣使いの方へと歩いていった。

俺は一時的に動けなくなっていただけで、痛みは残っているものの動くこと自体は問題なかった。

しかし、問題はチビの方だ。

目立った外傷はないが、全身が麻痺しているのかまったく動けないようだ。

「これが飲めるか、ゆっくりでいい」

キースは動けないチビの体を抱き起こすと、腰に付けていた袋から何か液体が入った小瓶を口元へと持っていった。チビはそれをゆっくりと飲んでいたが、1分ほどすると自力で立ち上がった。

どうやらさっきの液体は麻痺状態を治療するためのものだったらしい。

「わあ、動けるようになった。ありがとう!」

ぺこりと頭を下げるチビの様子を見たあと、キースは俺にも小瓶を投げてきた。「これは?」

「ヒールポーション、治療薬だ。先のアクアキャノンを食らって気絶しないだけでも大したものだ。いいから飲め」

確かに、体が動くとはいえ全身に先の魔法のダメージが残っている。

俺は一気に小瓶の中身を飲み干した。

しばらくして体が温かくなってきたのを感じ、手足を見てみると壁に叩きつけられて出来た青アザが消えていった。

少しずつ全身の痛みが引いていき、数分後には何事もなかったかのように動けるまでになった。

「おおっ、傷が治ってる!」

驚きながら自分の毛に覆われた体を調べていた時、キースに倒された短剣使いが意識を取り戻したらしくゆっくりと体を起こしていた。

「それで、アデリーナの懐刀と呼ばれるあんたが直接乗り込んでくるなんて一体何の話があるんだ」

短剣使いはじっとキースを睨んでいる。

その時初めて俺は短剣使いの顔を見たが、それはまだ若い少年だった。

「まあそう睨むな。思わず本気を出してしまったが、それはお前さんの力量故だ」

ま、他にも理由はあったがな、と言ってキースはこちらに視線を向けてきた。

ああどうせ俺達は足手まといだよ、今回俺達はキースから二人の少女の注意を反らす、デコイの役割しか果たしていない。

腹立たしいが、反論は出来なかった。

「それで本題だが、お前達の所属する盗賊ギルド、夜叉猫のリーダーグリノバとの間に接点を持ちたいのだ」

「グリノバに?どうしてまた」

魔法使いの少女が問いかける。

横の二人も同じ疑問を抱いたのだろう、同様の視線をキースに向ける。

しかし、それも当然だろう。

街の治安を守るアデリーナやキース達と、無法者達の集団である盗賊ギルドは本来相容れない存在だ。

それが突然接点を持ちたいなどと言ってくれば疑われてしまうのも仕方のないことだろう。

「何、双方にとって接点を持ち関わっていく事が望ましいとの考えからだ。我々は今後君たちの活動を黙認する、その代わり君たちは我々に裏社会の情報を流す。どうだ、悪い話ではあるまい」

「………分かった、とりあえずこのことは頭領に伝える。ただし、頭領が了承したとしてもキース、あんたは来るな。もしあんたが突然暴れまわりでもしたら、頭領以外では止められない。まとまる話もまとまらなくなる」

短剣使いの言葉に、キースは静かに頷いた。

「元よりそのつもりだ。俺が行けばグリノバだけでなく、お前達も警戒するだろうしな。その時はこのコボルト達を向かわせるつもりだ」

「こいつらを…?分かった、頭領に伝える。行くぞノリス、ターニャ!」

「うん」

「あいよ」

盗賊達は一瞬訝しげに俺達を見たあと、俺が強引に破壊した扉から厨房を通って姿を消した。


「まったく、お前達ときたら…」

盗賊達が姿を消した直後、はあ、とため息をつきながらキースは俺達の方へと向き直った。

「な、何だよ」

チビはと見ると、結局活躍出来なかったことを悔やんでいるのかしゅんとしている。

「まったく、せっかく準備のための金を渡したのに何もせず、挙げ句の果ては相手の素性も能力も分からないのに突撃して返り討ちとはな」

「っ、この」

あまりの物言いにかっとなり、キースに殴りかかるもあっさりとかわされ足払いをかけられた。

「まあ聞け。確かにお粗末な行動ではあったが、お前達が素直に金を使うことを拒む原因を作った俺もいけなかった」

冷静に自らの非を認めたキースの姿に、喉元までせりあがっていた怒りを飲み下した。

「お前達が危うい位真っ直ぐな連中であることは分かった。だからこそ、再度活躍の場を与えた。今度はリーナに直接評価してもらうんだな」

それだけ口にすると、キースはくるりと体の向きを変え外へと続く扉へと歩いていく。

「お前達が盗賊二人の気を引いてくれたおかげで、一気にかたをつける事が出来た。ともかく、その…なんだ、ご、ご苦労だったな」

扉の前で立ち止まると、俺達の方へは振り返らず小さな声でそれだけ口にした。チビに今キースが言ったことを伝えると、嬉しかったのか真っ直ぐキースへと走り寄っていった。

「ありがとう。僕、キースにそう言ってもらえるなんて嬉しいよ!」

その勢いのままキースの足に抱きつくと、キースは目に見えて慌て始めた。

「べ、別にお前たちのことを認めたわけじゃない!今すぐに手を下す必要はないと考えただけだ。ええい、離れろ!」

ニコニコしながら足に抱きついているチビに対して狼狽えているキースを見ながら、これがツンデレってやつなのだろうかとふと思った。

「離れろ、歩けんではないか」

「やだよー」

「ええい、それならそれでいい」

チビが右足にくっついたまま強引に歩き出したキースの後を追いながら、自然と俺も笑みを浮かべていた。

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