長いものに巻かれた結果
「そういえば、まだ名前を名乗っていなかったわね。私の名はアデリーナ、アデリーナ・マルノグリッドよ」
先ほどの林を出て別荘へと向かう途中、忘れていたと言って女――アデリーナは自己紹介をしてきた。
ちなみに、俺と違いチビは人語が分からないため逐一俺が通訳していた。
「俺はブレイブだ、こっちはチビ」
名乗られた以上、名乗り返すのが礼儀のような気がして、チビの分まで含めて名前を告げた。
「へぇ、ネームドか。人語を解するネームドのコボルトなんて、“疾風のカーティス”以外にもいたのね」
ますます気に入ったわ、と言ってアデリーナはずんずんと進んでいく。
集落以外でカーティスの名を聞いたのはこれが初めてだが、やっぱり有名みたいだな。
…というか、さっきから気になってはいたんだが、アデリーナは俺達二匹を先導するように進んでいく。
その背中は無防備そのもので、逃げるのも背後から攻撃するのも容易に思える。
俺達を信頼しているのか、それとも俺達相手なら絶対に負けないという自信の表れか…恐らく後者だろうな。
まったく、いい度胸をしている。
「ねえ、僕たちがどこに連れていかれるのか、お兄ちゃんから聞いてみてよ」
俺の後ろを歩いていたチビが話しかけてきた。
確かに、どこに行こうとしてるのか、何をさせるつもりなのかははっきりとさせておく必要がある。
「なあ、俺達はどこに行くんだ?」
「ああ、それなら私の別荘に寄った後、マルノーラの街に向かうつもりよ」
「マルノーラ?チビは知ってるか?」
「ううん、知らないよ。僕、あの森から出たことなかったもん」
念のためチビにマルノーラの街を知っているか聞いてみるが、やはりというか知らないらしい。
「ん?ああ、マルノーラはここから馬で半日の距離にある、私の街よ」
ふーん、そこがアデリーナの生まれ故郷なのか。
「詳しい話は街に着いてから改めてしてあげる。さ、着いたわよ」
気がつけば、既に別荘の前まで来ていた。
「ここで待っていなさい。まあ逃げてみてもいいけど、その時は骨の髄まで炭にされる覚悟をしておくのね」
こわっ!
何が怖いって、アデリーナならば俺達が逃げ出したら本気で炭にしかねないと思えてしまうことだ。
アデリーナが別荘の中へと消えて行った直後、緊張の糸が切れたのかチビは座りこんでしまった。
「どうした、大丈夫か」
「うん。ただ、あのお姉ちゃん怖すぎるよ…」
確かに、それは俺も同意だ。
まさか、出会い頭に丸焼きにされそうになるとは思わなかった。
「でも、アデリーナに付いていけば、俺達蛮族から見た世界とはまた異なるものが見えてくる。色んなものを見て学ぶことも大切だ」
「そっか…うん、分かった。お兄ちゃんの言う通りだと思う」俺の言葉に納得してくれたのか、ニコニコしながらチビは何度も頷いていた。
まあ、付いていく相手をもう少し選んでもよかったかもしれないとは思うが。
「あら、ちゃんと待っていたのね。つまらない」
「いやいやいや、だってお前さっき逃げたら炭にするって言ってたじゃないか!」
チビと話している内に支度が整ったのか、アデリーナが戻ってきた。
「ふうん、まあそれならそれで私にとっては好都合だけど。一応これを着けて」
そう言ってアデリーナは首輪を2つ俺達に手渡してきた。
「これは?」
まさか文字通りアデリーナの番犬になれ、ということか。
「蛮族をそのまま街に入れることは出来ないから、安全だと街の人間に認識させるためのものよ」
「へぇ、そうなのか」
正直なところ、首輪をつけるなんてペットになったみたいで嫌なのだが、これを付けないと街に入れないというのでは仕方ない。
「うん、これでよし。それならこっちよ」
チビと揃って首輪をつけ終えると、満足そうに頷いて別荘を壁づたいに歩いていく。
その先には、二頭立ての馬車が停まっていた。
「さ、乗って」
「え?」
「は?」
突然のことにチビと揃って同じような反応を返してしまう。
「乗れって、この馬車に?」
「そうよ。さっき馬で半日かかるって言ったでしょ。これなら明日の朝にはマルノーラに戻れるわ」
ほらほら、と言って俺達の背中を押して無理矢理馬車に乗せると、最後にアデリーナはひらりと馬に跨がった。
「え…まさか」
「ちょっと飛ばすわよ、舌噛まないようにね」
身構えるより前に、アデリーナは馬車を走らせ始めた。
「うわぁ、なにこれ動いてるよ!」
「ああ、馬車って言ってな。前の馬がこの車輪のついた箱を移動させる乗り物だ」
馬車なんて初めて見たのだろうチビは驚きながら過ぎ去っていく景色を見ている。
しかし、このでこぼこ道を爆走なんかしたら馬車がばらばらになりそうで怖くて仕方がない。
楽しげな表情で馬車を爆走させるアデリーナを見ながら、どうか無事に街にたどり着かせて下さいと、生まれて初めて真剣に神に祈った。
半ば拉致のような形で、ブレイブとチビは人間達の街へ




